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インド北部のシク教の聖地アムリトサルを訪ねて~浄土真宗の蓮如教団との共通点?

アムリトサル
目次

【インド・スリランカ仏跡紀行】(99)
インド北部のシク教の聖地アムリトサルを訪ねて~浄土真宗の蓮如教団との共通点?

パキスタンのラホールから帰還し、国境セレモニーを見学した私はアムリトサル市街へ入った。

インド最北部にあるアムリトサルはシク教の聖地として知られていて、その総本山たる黄金寺院はつとに有名である。

アムリトサルの黄金寺院 Wikipediaより

こちらの非常に美しい寺院については次の記事で改めてお話しするが、私がここアムリトサルに来たのもまさにこの寺院が最大の目的である。

シク教は15世紀末にグル・ナーナクが創始した宗教だ。日本人にはあまり馴染みのない宗教かもしれないが、インドにおいて非常に大きな力を持つ存在である。皆さんもインドといえばターバンを思い浮かべるかもしれないが、そのターバンの文化もこのシク教から来ているのである。また、往年のプロレスラー、タイガー・ジェット・シンもシク教徒として知られている。

保坂俊司『インド宗教興亡史』ではこの宗教について次のように説かれている。

シク教の語源は、唯一の神の弟子(śikh。サンスクリットのśiṣya:教えられるべきもの、弟子という意味)であり、宗教学的にはヒンドゥー教とイスラム教の融和を目指して一五世紀末に西北インドに生まれた、最も新しく、また小さな世界宗教の一つであると一般に理解されている。

その信徒数約二三〇〇万人のうちのおよそニ〇〇〇万人がインド共和国におり、さらにその一七〇〇万人は、パンジャーブ州に居住している。インド・パキスタン分離独立後、パキスタン領内に住んでいたシク教徒の中には、事実上のヒンドゥー教国に回帰した新生インド共和国への帰属を拒否して、イギリスの旧植民地を中心に世界各国に移住した人たちもいる。これがいわゆるシク・ディアスポラである。

イギリスによる嫌がらせとも、悪意ある置き土産ともいわれる印パ分離独立は、とりわけその当時パンジャーブを少数派ながら実質的に支配していたシク教徒に、非常に過酷な現実をもたらしたが、皮肉にも、シク教の世界宗教への道を促進した。

シク教徒は、その旺盛な活動力と、ターバンを巻き長い髭を蓄えるという独特の出で立ちで、世界的にも注目される存在となった。日本にも縁があり、明治末頃から神戸や横浜には、貿易商としてシク教徒の家族が住み着いている。

最も新しい世界宗教を自称するシク教の歴史は、イスラム教とヒンドゥー教との宗教的、社会的共存の可能性を追求し続け、結果的にその理想に裏切られ続けた歴史でもあった。

筑摩書房、保坂俊司『インド宗教興亡史』P127-128

この解説にあるように、シク教はヒンドゥー教とイスラム教が融和した宗教として知られている。

その詳しい教義や歴史については上の『インド宗教興亡史』や同じく保坂俊司著『シク教の教えと文化』で解説されているので興味のある方にはぜひおすすめしたいのだが、その解説の中で特に印象に残ったのが次の一節である。

仮にナーナクを親鷺だとすれば、アマルダースは浄土真宗の中興の祖と呼ばれる本願寺第八世の蓮如(一四一五年~一四九九年)にたとえられるかもしれない。蓮如は、天台宗青蓮寺の末寺だった本願寺を再興して、巨大な本願寺信者集団を作り上げた。

筑摩書房、保坂俊司『インド宗教興亡史』P147

この箇所だけを読んでも何のことやらという感じかもしれないが、浄土真宗僧侶である私にとってはすさまじい衝撃であった。

蓮如(1415-1499)Wikipediaより

あの「親鸞・蓮如」と共通点があるというのはどういうことか。

ものすごくざっくり言うならば、開祖たるナーナク時代の教団は素朴で平和的な信者共同体であった。しかし、代を経るにつれて教団は拡大し、ムガル帝国と関係を結ばざるを得なくなってきたのである。

平和共存を願っていたシク教教団であったがついに弾圧の憂き目に遭い、教団は自衛のための武装を始めた。そして自らの存続のため教団運営もより組織化され、素朴な信者教団というよりひとつの国家のような様相へと変化していくことになる。

まさにこれこそ蓮如教団の急拡大と似た流れなのである。その強大な勢力は後にあの織田信長を恐れさせ、石山合戦という巨大な戦争に発展することにもなった。浄土真宗の歴史を考える上でこの蓮如時代は非常に重要なポイントなのである。

ここで述べたのはものすごくざっくりとした解説なので厳密に言えばもっと込み入った問題があるのだが、大筋としてはこのようなところである。

いずれにせよ、アムリトサルのシク教というのは私にとって実に興味深い存在となった。

だからこそ私はここにやってきたのである。

次の記事ではそんな私が訪れた黄金寺院(正式名称ハリマンディル・サーヒブ)をご紹介する。ここはたしかに聖地としての雰囲気を感じさせる瞑想的な場所であった。その美しさもさることながら、その精神的な空気には私も感動した。ぜひ引き続きお付き合い頂ければ幸いだ。

主な参考図書はこちら↓

インド宗教興亡史 (ちくま新書)

インド宗教興亡史 (ちくま新書)

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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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