インドの象徴タージ・マハルへ~まるで宮殿のような墓とそれを見つめる囚われの王の悲劇
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【インド・スリランカ仏跡紀行】(67)
インドの象徴タージ・マハルへ~まるで宮殿のような墓とそれを見つめる囚われの王の悲劇
マドゥライからデリーへ飛んだ私はそこから車をチャーターし、仏跡巡りを開始した。
デリーから最も近い仏跡はサンカシャと呼ばれる地だが、私はそこに向かう前にアグラという街へ向かった。
アグラと言えばタージ・マハル。そしてインドと言えばこの建造物を思い浮かべる人がほとんどなのではないだろうか。せっかくインドに来たので私もその世界遺産を見学することにしたのである。
デリーからは高速道路が繋がっているためスムーズにアクセスが可能だ。およそ3時間半ほどでアグラの街へと来ることができる。
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アグラ周辺までやって来た。いかにも観光地といった趣である。
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タージマハル付近に到着。現在、タージマハルの保全のために車は近くに行くことができない。排気ガスで白い外壁が汚れてしまうのを防がなければならないのだ。そのため私達観光客は近くの駐車場で車を降り、写真真ん中にあるような電動カートに乗ってタージ・マハルに向かうことになる。
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タージ・マハル入り口付近までやって来た。
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手続きを済ませていざ入場だ。やはりムスリム帝国だった頃の面影があり、インドのヒンドゥー教建築とは異なる雰囲気だ。この通路を抜けると右手前方に巨大な建物が見えてくる。
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こちらがタージ・マハルへの入り口となる大楼門だ。写真にもすでに壁ごしにタージ・マハルの白い尖塔が映っている。
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赤砂岩で作られた巨大な門。神々の彫刻がびっしりと施されたヒンドゥー教寺院との違いがはっきりわかる。偶像崇拝を禁止したイスラム教ではこうしたシンプルな作りの建築となる。
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とはいえその芸術性はやはり高い水準がある。神々の彫刻や絵画を作らない分、花や幾何学模様で壁面を装飾していくのだ。これはスペインのアルハンブラ宮殿でもよく感じられたことだ。
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さて、いよいよタージ・マハルとご対面である。
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ご覧の通り、ベストスポット目指して観光客がいっぱいだ。
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近くまで歩く。
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このアングルが私にとってのタージ・マハルのベストだ。遠すぎず近すぎず。さらに庭園の緑と水の色彩も生きてくる。なるほど、この写真を見ているとたしかにこれは絵になる景色だ。
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近くから見るとやはり迫力がある。広い敷地内にポツンとこの巨大な建物が立っているからだろうか、その印象がさらに強められているように感じる。
さて、このタージ・マハルであるが、私達はこの豪華な見た目から宮殿のようにイメージしてしまいがちだが、実はこの建物は宮殿ではない。ここはあるひとりの女性のために作られたお墓なのである。
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タージ・マハルは16世紀のムガル皇帝シャー・ジャハーンによっておよそ20年の歳月をかけて建てられた。彼は早世した愛妻ムムターズ・マハルのためにこの巨大な墓を作ったのだ。シャー・ジャハーンは自らの墓をヤムナー川の対岸にタージ・マハルと対の形で建てることを夢に見ていたという。それほど妻を愛していたというのは何ともロマンティックな話であるが、残念ながら話はこれで終わりではない。
ムガル帝国の帝位継承争いは代々熾烈であることは有名であるが、シャー・ジャハーンの息子達の代も例外ではなかった。この帝位継承争いに巻き込まれる形でシャー・ジャハーンは幽閉されてしまうのである。
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こちらはタージ・マハル近くのアグラ城からの写真だ。この写真正面のバルコニーのある部屋にシャー・ジャハーンは幽閉されたのである。目の前にはヤムナー川とタージ・マハルがはっきり見える。シャー・ジャハーンは愛する妻の墓を毎日見ながら幽閉の日々を過ごしていたのだ・・・と私は思い込んでいたのだが、事実はもう少し込み入っていた。帰国後この記事を書くためにタミム・アンサーリー著『イスラームから見た「世界史」』を読み返していたのだが、次のように書かれていたのである。
シャー・ジャハーンは死ぬまでひと間だけの独房で暮らしたが、この独房には窓が一つしかなく、しかも高い位置にあったのでそこから外を見ることはできなかった。ところが老皇帝の死後、壁に小さな鏡が貼りつけてあるのを看守が見つけ、ベッドにいながら鏡に映る外の世界が見えることが判明した。そして、たった一つの窓をとおして鏡に映り、シャー・ジャハーンが見ることのできた唯一のものはタージ・マハルだったのだ。
紀伊國屋書店、タミム・アンサーリー、小沢千重子訳『イスラームから見た「世界史」』P365-366
なんと、シャー・ジャハーンは外の世界が見えない独房暮らしだったのだ。そんな環境の中で鏡を使ってタージ・マハルを見て過ごしていた・・・。バルコニーから悠々と外の景色を眺めるなど夢のまた夢だったのだ。正直、この事実を知ってしまった今、現地で感じたロマンティックな想像は木っ端みじんになってしまった。歴史は残酷である。
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さて、タージ・マハルに戻ってこよう。いよいよ中に入っていく。ここまで来るとやはりその大きさに圧倒される。壁面の装飾も控えめさを感じさせて好印象だ。これ見よがしではないのである。
中は写真撮影禁止だったのでここから先の写真はない。
内部はひんやりとしていて、想像していたよりもその空間は小さく感じられた。やはりここはお墓なのである。
そして墓標のある部屋では「Keep Silent」と大きく書かれていたが、インド人は特に何も気にせず皆大声で会話をし、それに対し監視員がピッピピッピと笛を鳴らし続けるというお馴染みのカオスであった。ここで眠る女王様が不憫でならない。
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そして上の写真はタージ・マハル側から見た景色である。普段目にする写真と逆の視点というのは新鮮な体験であった。
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インドの象徴たるタージ・マハル。3度目のインドにしてようやく対面することができた。
そしてここからいよいよ仏跡巡りが始まる。次の目的地は仏教八大聖地のひとつ「三道宝階降下」の地サンカシャだ。
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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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