コロンボ近郊のケラニヤ寺院で満月の祝日(ポーヤデイ)の賑わいを体感!
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【インド・スリランカ仏跡紀行】
(56)コロンボ近郊のケラニヤ寺院で満月の祝日(ポーヤデイ)の賑わいを体感!
さあ、いよいよスリランカ滞在も残すことあと1日となった。スリランカに来てから間もなく3週間である。そしてちょうどこの日はポーヤデイ。ポーヤデイはスリランカの祝日だが単なる休日ではない。ここスリランカでは毎月の満月の日に当たるこのポーヤデイにはお寺参りをするという習慣が根付いているのである。
そのためコロンボ近郊のケラニヤ寺院ではポーヤデイになると皆がそこへお参りに行く。私もせっかくスリランカに来たのでこのポーヤデイの雰囲気を味わいにその寺院を訪れることにしたのである。
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ケラニヤ寺院は正式にはラジャ・マハー・ウィハーラという名称のお寺だが、シンプルにケラニヤ寺院と呼ばれることが多い。
私は午前中にやって来たのだが、すでに境内付近にはかなりの人がいた。皆白い服を着ている。白い服はシンハラ仏教徒の正装なのだ。
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境内に入るとものすごい人の数だった。さすがポーヤデイ。
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仏塔に設置された祭壇ではお供物を捧げるための列が作られていた。私達もここで献花した。
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まだ午前中とはいえかなり暑い。そして強烈な太陽光線が砂に反射し目も痛くなってくる。境内の外壁沿いは並木道のように木が植えられていてここで涼むことができる。ガイドさんによると、朝から晩までずっとここで祈り続けている人もいるそうだ。
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さあ、本殿近くまでやって来た。この本殿の中に入るだけでもものすごい大行列を待たねばならない。
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どこから始まっているのかわからないくらいの大行列で、本殿前から最後尾を探すのにも苦労するほどだった。
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いよいよ入堂だ。
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堂内は通路が設定されていて一方通行である。美しい壁画とオレンジ系の彩色豊かな仏像が目を引くこのお堂だが、ここも新しく修復されたものである。このお寺の公式HPによればケラニヤ寺院は1927年に修復が始まり、1946年に完了したそうだ。
コロンボなどの西海岸地域がいち早く植民地化されてしまったという歴史はこれまで述べてきた通りだ。この寺院も16世紀にポルトガルに破壊されてしまったそうだ。その後も仏教が力を取り戻すには時間がかかり、コロンボなどで仏教復興運動が起こる19世紀後半を待たねばならなかったのである。
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中央奥にはブッダ像が安置されていた。像の背景が山の絵というのは珍しい。しかも水色系の色でブッダの背景を彩るというのも斬新。新しく作られたお寺とはいえかなり自由な発想で作られたお寺のようだ。
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そしてこのお堂で有名なのが何といってもこれらの壁画だろう。これらはブッダがスリランカへ来島したという伝承を基に制作された壁画群だ。
実はここケラニヤもブッダが来島した地としてスリランカ仏教では伝承されているのである。ここは古くからスリランカ仏教における聖地だったのだ。だからこそコロンボ市民はポーヤデイにここにお参りに来るのである。
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境内には菩提樹の木も植えられている。
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ここでもお供物の奉納の列は途切れない。そして写真にも写っているように、菩提樹の周りの広場ではシートを敷いて座り、そこでお祈りをしている人も大勢いる。お経本を開いてお経を唱えている人も多かった。祝日ということでお祭りの日であるのはたしかだが、インド的な混沌とした祝祭空間とは大きく異なるように感じられた。
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そう。ここの真剣さは明らかに際立っていたのだ。私はそうした人々の間を歩き、これは何ぞやと考えずにはいられなかった。そしてふと思ったことがあった。
ガイドさんによればここに来る人は自分の悪い業(罪)を消すために祈っているとのこと。ぱっとその言葉だけを見ればずいぶんと都合のよい免罪ではないかと思ってしまうかもしれない。
でもどうだろう。自分の悪にたいする「やましさ」を感じるからこそ、そういう滅罪を切実に求めるのではないだろうか。
ひるがえって、現代日本人が今どれだけ自分の良心のやましさを感じているだろうか。今やお天道様は我々を見てはいないのだ。そんな時代にわざわざ自分の悪業など考えるだろうか。そんな暇があれば自分を奮い立たせてもっとポジティブに稼げる人間になれと言われるのではないか?やましさなど感じている暇などないのである。
だが、自分がダメな人間だと責める人はたくさんいる。私自身かつてその傾向が強かったためその気持ちはよくわかる。だが、それは自分の悪業ではなく、他者との競争や人間関係の失敗からではないだろうか?それは自分の怒りや欲望、未熟さを見つめる仏教的な視点ではない。自分を責めることと道徳的なやましさを感じるのは別問題なのだ。
自分の仏教的な悪業にフォーカスしてそれを認識し、後ろめたさややましさを感じることはむしろ社会的な善につながるのではないか?やましさは自己の罪深さを認識させる。それは人を謙虚にし、他者の悪業に対しても寛容な心を持てることにもなるのではないか?もしや、こうして社会全体がお天道様の視線を取り戻すのではないか?やましさは社会をよりよくするのではないか?
そんなことを考えていると、くしくもガイドさんがこう言った。
「ここにお参りに来ている人は皆顔が暗いです」と。「仏教はもっと前向きなものでしょう。これはよくないです」と。
たしかに一理も二理もある。良いことを明るい顔でたくさんすれば悪業のない生活をすることができるだろう。これはまさにその通りである。
しかしそれでは追いつかないこともあるではないか。苦難は突然やって来る。そんな時必死に祈ることは間違いなのだろうか。暗い顔で祈ってはいけないのだろうか。
親しい人の病気快癒を願う真剣な祈りはどうだろうか。ニコニコ明るい顔で祈るだろうか。
こうしたことを考えてしまうのはきっと私が浄土真宗の僧侶だからだろう。浄土真宗は絶望から生まれた宗教ではないかと私は考えている。自分というちっぽけな人間がどんなにあがこうと救いには至れない、苦しい現状を変えることができないという絶望がその出発点にある。こつこつ善を積み上げるという発想そのものが崩壊した現実。そんな八方塞がりにありながら復活を果たすという特殊な信仰が開祖の親鸞聖人にあるように私は思うのである。
「南無阿弥陀仏を唱えれば来世はお浄土に行ける」
これは親鸞聖人の教えの基本だ。だが親鸞聖人がなぜそのような信仰に至ったのかというのは極めて重要なポイントである。そこに私は聖人の絶望を見るのである。このことについてはあと何年後になるかわからないが必ず私自身の言葉でお伝えしたいと思っている。
いずれにせよ、ポーヤデイで賑わうケラニヤ寺院を見ることができたのは私にとって非常にありがたい経験となった。スリランカの仏教徒の信仰深さをまざまざと感じた。日本とは違う仏教との付き合い方があるのだと心底感じた体験だった。
以下の動画は私が撮影したものである。現地の空気感を少しでも感じて頂けたら幸いだ。
さあ、これでスリランカの旅路もいよいよ終わりを迎える。
一か月以上にわたったインド・スリランカの旅も、残すは帰国のみである。よくぞここまで無事に走り抜けたものだ。やはり8月のインドで体調を崩したあの体験が効いている。あの絶望的な体験のおかげで今回は万全の態勢で挑むことができたのである。そう考えると、あの8月のインドは私にとって無くてはならないものだったのだ。倒れただけの価値はあったのだ。
帰ろう。さすがにもう何もあるまい。あとは無事に帰るのみだ。
・・・なんて甘いことは許されない。私はこの旅の最後の最後で息が止まるほどのショックを受けることになる。それは帰国便の機内で起こった。次の記事ではその顛末についてお話していくことにしよう。私のインド・スリランカの旅はこの瞬間のためにあったのかもしれない。
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※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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