(52)中国の「債務の罠」の象徴ハンバントタ港を遠望~スリランカの中心都市コロンボへ向けて出発

ハンバントタ 第二次インド遠征~インド・スリランカ仏跡紀行

【インド・スリランカ仏跡紀行】(52)
中国の「債務の罠」の象徴ハンバントタ港を遠望~スリランカの中心都市コロンボへ向けて出発

スリランカの巡礼の聖地カタラガマを訪れた私は、いよいよこの旅の最終目的地であるコロンボへ向けて出発した。

カタラガマのすぐ近くにはティッサマハーラーマというスリランカ仏教の聖地がある。私達は朝一番でこの聖地に立ち寄った。

ティッサマハーラーマは古くから聖地として重んじられていた場所で、元々はカタラガマよりも重視されていた場所だったそう。そして前回の記事「(51)ヒンドゥー聖地カタラガマの仏教化と夜のプージャを体験~インドとの違いに驚く」でも触れたように、1949年にここティッサマハーラーマとカタラガマを繋ぐ道路が開通したことでカタラガマ巡礼者が急増したという経緯がある。

現在も巡礼者の多くはカタラガマとティッサマハーラーマをセットでお参りしているとのことだった。

ここからは高速道路を使って一気に進んでいく。そしてその道中、有名な港の前を通ることになった。

それがハンバントタである。

ハンバントタは近年、中国との関係から有名になった港である。この映像では2分33秒からハンバントタ港が出てくる。

ハンバントタ港は中国の融資で整備されることになったが、スリランカは財政破綻を起こし返済が不可能になってしまった。そのためこの港の運営権が中国のものとなってしまったのである。

ただ、これは中国による思惑がそのまま反映されたとも言い切れない事情もある。融資を受ける側だったスリランカのラージャパクサ政権による問題も大きいのだ。彼らは中国から多額の賄賂を受け取っていたことが知られている。融資の一部がそのまま彼らのポケットに入っていたのだ。そしてその彼らが無謀なインフラ整備に巨額の税金や融資をつぎ込んだところでコロナ禍が襲ってきたのである。観光収入に頼っていたスリランカにおいてこれは致命的だった。

こうしたスリランカの政治経済事情については荒井悦代編『内戦後のスリランカ経済』や同著『内戦終了後のスリランカ政治』という本で説かれているのでぜひおすすめしたい。(※両著とも2016年出版なのでそれ以降の情勢については反映されていないが、現在に至るまでの流れを知るのに役立つ解説書なのは間違いない。最新のスリランカ情勢が解説された本が出版されることを願ってやまない)

高速道路から海の方を眺めると、ぽつぽつと大きな建造物が見えた。あれがハンバントタ港なのだ。しかし融資が焦げ付いていることからも、現在整備工事は進んでいないとのこと。それはそうだ。整備しようにもそもそもお金がないのである。そして中国も運営権は取得したものの、世界各国からの厳しい目があるため迂闊には大規模工事できるような状況にはないのだそうだ。しかし、運営権が中国に渡ってしまったというのはスリランカにとって重大な懸念事項であることに変わりはない。

ちなみにこちらも先ほどの映像に出てきた建物だ。ハンバントタ港に着く前に私もこの建物を見た。こちらもラージャパクサによって建てられたカンファレンスセンターで、ほとんど使われることもなく赤字垂れ流し状態だとのこと。維持するにも壊すにもお金がかかるのでスリランカ国民も頭を抱えている。映像でも述べられていたように、ラージャパクサ政権は中国からの融資でこうした無駄な箱物をどんどん作り賄賂をもらっていたのである。

映像で世界一ガラガラな空港と紹介されていた空港もせっかくなので外観のみ見てきた。

人も少なく、需要も明らかに考えられないであろうこの地に無理やり巨大なインフラ設備を作ったのは、このエリアがラージャパクサの地元だからではないかと考えられている。

地元に自分の名前を冠した空港を作ってしまったのだ。全く需要が見込まなれないにも関わらずである。

しかし、そんなことは本人には痛くもかゆくもない。なぜならこの建設事業の費用は自分のお金ではないからだ。いや、むしろこれを建てることで中国から多額のキックバックが入るのである。そしてここが赤字になってもそれを負担するのは国民の税金だ。こんなにうまい話はないだろう。作れば作るほど莫大なキックバックが入るのである。そしてそのキックバックを元手に政治権力を増し、ほとんど独裁と言ってもよい政治体制を作り上げたのがラージャパクサ大統領だったのだ。

こうした現実にスリランカ国民の怒りが爆発したのが2022年の大規模デモだったのである。

言うまでもないが政治と金の問題は根深い。賄賂が当たり前のようになってしまえば私達もいつこうなってしまうかわからない。もちろん、完全にクリーンになることは不可能だろう。世の中そんなに甘くはない。グレーゾーンが存在するのはやむを得ないことだ。しかし巨額の賄賂がなければ政治が動かないとなれば、国民の生活よりも個人個人の利権しか見ない政治になるのは目に見えている。これは対岸の火事ではない・・・。

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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