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『ARCレポート スリランカ2023/2024』概要と感想~最新のスリランカ情勢がまとめられた政治経済の報告書

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『ARCレポート スリランカ2023/2024』概要と感想~最新のスリランカ情勢がまとめられた政治経済の報告書

今回ご紹介するのは2023年にARC 国別情報研究会より発行された『ARCレポート スリランカ2023/2024』です。

前回の記事で紹介した荒井悦代編『内戦後のスリランカ経済』は内戦後のスリランカ経済に特化した一冊でした。スリランカは1983年から2009年まで多数派のシンハラ人と少数派のタミル人との間で内戦状態になっていました。

この内戦の大きなきっかけとなったのはスリランカ人口の大半を占めるシンハラ仏教徒と少数派のヒンドゥー・タミル人の対立です。ですがこの対立もはじめからあったわけではありません。この対立が激化したのはスリランカ仏教とナショナリズムが結びつくというこの国独特の宗教・民族観の生成があったからこそでした。この内戦の背景については以前当ブログでも紹介した澁谷利雄『スリランカ現代誌』や杉本良男『仏教モダニズムの遺産』という本がおすすめです。

さて、『内戦後のスリランカ経済』ではこの内戦の後の政治経済を詳しく見ていける素晴らしい作品だったのですが、読めば読むほど「なるほどなるほど、内戦後はこういう状態だったのか・・・ならば今のスリランカはどうなっているのだろう」という思いが強くなっていきました。

と言いますのも、2016年に出版された本ということで昨年起きたスリランカの経済危機と暴動については知ることができなかったのです。

2016年までの流れをわかりやすく知れた『内戦後のスリランカ経済』だったからこそその続きが気になって仕方がなくなってしまいました!

なんとか最新の状況を知ることができないか。2022年の経済危機と暴動は何だったのか。中国の一帯一路はどうなっているのか、インド、アメリカ、日本との関係はどうなっているのか。

インドと違ってスリランカの最新情勢が書かれた本というのはなかなかありません。というより、ほとんど見かけません。

そんな中ようやくヒットしたのが本書『ARCレポート スリランカ2023/2024』でした。

タイトルの通り、まさに最新の最新。2023年版のスリランカの政治経済の報告書を発見したのでありました。

ですがこの本、どう見ても普通の本ではありません。一般書の類というよりは外交官やビジネスマンの方が読むようなものに感じられます。スリランカの仏教を学んでいたはずがなぜこんな所にまでやって来たのかと自分でも笑えてきました。

さて、本書『ARC レポート』とは何ぞやということに戻りますと、HPに次のように書かれていました。

JETRO調査スタッフOBを中心とした研究会による、世界48ヵ国の調査・統計レポート。財団法人世界経済情報サービスが発行していました「ARCレポート」の内容を、数字データを中心に一層充実させ、2009年3月よりARCレポート(新装版)として発刊しています。
最新の正確な情報を、系統立てて整理・編集し、年間24ヵ国、2年で48ヵ国を発刊します。世界の主要国の経済情報ファイルとして、ビジネスに、大学のゼミの参考書として、お役立て下さい。

ARC レポート HPより

なるほど、やはりビジネスマンの方が対象の本だったのですね。そして大学のゼミの参考書としてもこの本は発行されているようです。

そしてこちらの目次にありますように各項目ごとにわかりやすいデータと情報が収録されています。

本書冒頭では2023年版ということで2020年から一年ごとの社会情勢も解説されています。これは私にとってありがたいものがありました。

現代スリランカの概況を大きく掴むには本書はとても有益であるように感じます。

ただ、値段が高すぎる・・・!税込みで13200円でページ数が150ページ少々ということでこれは私も購入するのにかなり迷いました。しかもこの本の中に具体的に何が書かれているか、どこまで踏み込んで書かれているかもわからない状況でしたので一層悩ましいものになりました。

たしかにこの本は最新のスリランカ情勢の概要を掴むには優れた一冊だと思います。

しかし私としてはもっともっと踏み込んで政治情勢や経済について知りたかったというのが正直なところです。先程も申しましたが経済危機や暴動、中国との関係など、知りたいことは山ほどあったのです。

もちろん、本書の中でそれらのことも言及されています。大まかな流れもわかりやすくまとめられています。

ただ、私としては「もっと、もっと!」という思いになってしまったのでありました。

これは完全に私個人の需要と本そのものがずれてしまっていたことに原因があります。本に罪はありません。

何度も言いますが、最新のスリランカ情勢を知るにはやはり本書は優れていると思います。

しかし、私のように特化してもっともっと知りたいという方にはフィットしないという危険性があります。

私個人としては物足りないものもあったのですが、本書を読み現代スリランカの政治経済情勢の全体像をわかりやすいデータで見ることができたというのはありがたい経験になりました。

以上、「『ARCレポート スリランカ2023/2024』~最新のスリランカ情勢がまとめられた政治経済の報告書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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