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カエサル『ガリア戦記』あらすじと感想~ローマ帝国の英雄による不滅の傑作!弁論の達人キケロも羨むその文才!
今回ご紹介するのは紀元前52~51年頃にかけてカエサルによって書かれた『ガリア戦記』です。私が読んだのは1942年に岩波書店より発行された近山金次訳の『ガリア戦記』1988年第33刷版です。
早速この本について見ていきましょう。
カエサル(前102頃‐前44)の率いるローマ軍のガリア(今のフランス)遠征の記録。現地から彼が送る戦闘の記録はローマ全市を熱狂のるつぼに化したという。7年にわたる激闘を描いたこの書物こそ、文筆家カエサルの名を不朽にし、モンテーニュをして「最も明晰な、最も雄弁な、最も真摯な歴史家」と賞讃せしめたものである。
Amazon商品紹介ページより
ガイウス・ユリウス・カエサル(前100-前44)Wikipediaより
カエサルはローマ帝国を代表する英雄です。カエサルといえば「賽は投げられた」、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」、「ブルータス、お前もか」などの言葉でも有名ですよね。
そしてそのあまりのカリスマぶりは多くの作品でも取り上げられ、あのシェイクスピアも『ジュリアス・シーザー』という傑作を残しています。
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「賽は投げられた」、「ルビコン川を渡る」、「来た、見た、勝った」、「ブルータス、お前もか」
これらを見てピンとくる方もおられると思います。
私自身、ジュリアス・シーザーという名ではピンと来なかったのですが、この人物のローマ式の本名はと言いますと、ガイウス・ユリウス・カエサルとなります。
『ジュリアス・シーザー』は私の中でも強烈な印象を残した作品でした。あらすじや背景を知ってから読むと最高に面白い作品でした。非常におすすめです。
さて、そんなカエサルによる文学作品がこの『ガリア戦記』になります。
この作品について本書の冒頭では次のように解説されています。
カエサル(俗にシーザー)の「ガリア戦記」Commentarii Bello Gallicoは西暦紀元前五八年から同五一年にかけて行われたローマ軍のガリア(今のフランス)遠征を記した書物である。
前後八年に亙って行われた征服の記録は一年毎に巻を改めて八巻ある。ローマ軍を指揮していたカエサルが自分の手で書いたのは前の七巻で、最後の第八巻はカエサルの死後にヒルティウスが書き加えたものである。
カエサルが自分で最後まで書かなかった理由はよく分らないが、ガリアの遠征は大体、紀元前五二年のアレシアの決戦でその目的を達成し、同五一年はガリアの匪賊討伐のようなものであるから、カエサルが七巻で擱筆しても、「ガリア戦記」の価値は少しもかわらない。これが現存する「ガリア戦記」の原型で、第八巻と前の七巻の間には内容に大きな差があり、力ェサル研究家の多くも区別して取り扱うのが常である。
「ガリア戦記」のことは既に紀元前四六年にキケローのブルートゥス(LXXV, ξ262)に記されているから、この書が世に出たのは勿論これより前のことであろう。一般に紀元前五二年の冬から同五一年の春にかけて書かれたものだと想像されている。
「ガリア戦記」の文脈には見事な統一があるし、第八巻冒頭のヒルティウスの言葉を読んでも、紀元前五二―一年説は今日のところ最も妥当なものであろう。
ローマ軍の指揮者として当然カエサルは毎年、元老院に現地報告を送っており、スエトニウスによればこれが相当詳細な報告書であったらしく、その元老院を熱狂させ、お祭り騒ぎまでさせた報告書にカエサルが説明を書き加えて「ガリア戦記」を出したのかもしれない。これが単に一つの報告書でありながら期待されて世に出ると、敵からも味方からも賞讃と尊敬をかち得たことを思えば、そこに何らかの姿でダリア遠征そのものが当時のローマ社会に対してもっていた重要性をうかがうこともできる。
※一部改行しました
岩波書店、カエサル、近山金次訳『ガリア戦記』1988年第33刷版P3,4
ここで注目したいのはローマ帝国を代表する哲学者・弁論家のキケロもこの『ガリア戦記』を認めているということです。
キケロ(前106-前43)Wikipediaより
キケロはローマの共和制を守るために奔走した人物としても知られています。そのことについては以前紹介した「A・エヴァリット『キケロ もうひとつのローマ史』古代ローマの哲学者キケロのおすすめ伝記!」の記事でもお話ししました。
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ローマ帝国と言えばカエサルというイメージが強い中、この本では主人公キケロを中心にローマ史を見ていきます。英雄の物語ではなく、ある意味敗者と言ってもいいキケロから見た古代ローマを見ていけるこの作品は非常に興味深いものがありました。
独裁を目指したカエサル。それに対し共和制を守り、立て直そうとしたキケロ。
この本はこの2人の立場の違いがはっきりとわかる名著です!
カエサルはその武勇やカリスマによってローマの共和制を破壊し、独裁を打ち立てようとしました。その抗いがたい流れの中でキケロは戦っていたわけです。つまり、キケロにとってカエサルは敵です。
ですがそのキケロにとってすらカエサルの『ガリア戦記』は文句のつけようのない魅力的な一冊だったのです。
弁論の達人として有名だったあのキケロが白旗を挙げた『ガリア戦記』。この作品はそれほどの完成度を持った傑作だったのでした。
実際にこの本を読んでみるとその流れるような文章に驚くと思います。古代ローマやギリシャは弁論術が盛んだったということで、カエサルもそのように自分の功績や戦闘の経緯を雄弁を用いて語るかと思いきやものすごく淡々と語るのです。
しかも主語を「私」ではなく「カエサルは」という書き方をしており、あくまで第三者による「報告書」のスタイルを取ります。
これでは淡々とした単なる報告書になってしまうのではないかと思ってしまったのですが、読み進めている内に不思議な変化が起きてきます。
いつの間にか読んでるこちらが「カエサル・・・すごいな・・・!」という気持ちに支配されるようになっていくのです。
文体はあくまでシンプル。余計な形容はありません。ですがなぜかその戦闘の経緯や戦士たちの武勇が臨場感たっぷりに伝わってくるのです。そしてそのガリア遠征を冷静に指揮していくカエサル。カエサルの卓越した指揮や全体を見渡し、正確に分析する力があるからこそこの戦いは勝ち続けているという印象が湧いてくるのです。これは読んでわかるすごさです。
2000年以上後の時代を生きている私ですらこうなのですから、当時今か今かとハラハラしながら戦況を待ち望んでいたローマ人に対しどれほどの熱狂の与えたかは想像を絶します。
あのキケロが絶賛するしかなかったカエサルの『ガリア戦記』。ぜひその名著を読んでみたいと手に取ってみたのですがこれは大正解。「こんな作品が古代ローマにあったのか」と驚くことになりました。英雄カエサルは文才も超一流でした。
ぜひおすすめしたい作品です。
以上、「カエサル『ガリア戦記』あらすじと感想~ローマ帝国の英雄による不滅の傑作!弁論の達人キケロも羨むその文才!」でした。
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