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エラスムス『痴愚神礼讃』あらすじと感想~ヒューマニズムの元祖、世界最初のベストセラー作家の風刺作品

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エラスムス『痴愚神礼讃』あらすじと感想~ヒューマニズムの元祖、世界最初のベストセラー作家の風刺作品

今回ご紹介するのは1511年にエラスムスによって発表された『痴愚神礼讃』です。私が読んだのは2014年に中央公論新社より発行された沓掛良彦訳の『痴愚神礼讃ーラテン語原典訳』2020年第4刷版です。

早速この本について見ていきましょう。

ルネサンス期の大知識人エラスムスが、友人トマス・モアに捧げた驚天動地の戯文。痴愚の女神なるものを創造し、人間の愚行を完膚なきまでに嘲弄する。堕落する教界、腐敗を極める世俗権力。当時の社会、人びとを観察し、エラスムスが描き出した痴愚や狂気は、いまなお私たちをとらえてはいないか。ラテン語原典からリズムある新鮮な訳が生まれた。

Amazon商品紹介ページより
『1523年のエラスムス』
ハンス・ホルバイン作)Wikipediaより

デジリウス・エラスムス(1466-1536)はオランダ・ロッテルダム生まれの人文主義者です。同時代人には宗教改革で有名なルターがいて、彼とは因縁深い関係となります。また、『ユートピア』を書いたイギリスのトマス・モアとも親交関係にありました。

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私がエラスムスの『痴愚神礼讃』を初めて読んだのは5年ほど前、キリスト教史を学んでいた流れで手に取ったのがきっかけでした。

上の本紹介にもありますようにこの作品は真面目くさった神学者や哲学者を風刺して、人間とはいかなるものかをユーモアたっぷりに描いています。腐敗した聖職者への批判も書かれており、よくこの作品をカトリック教会が許してくれたなと読んだ瞬間思ったのですが、案の定この作品はカトリックの禁書目録に入ることになったようです。

さて、今私が改めてこの本を読んだのは以前当ブログでも紹介した『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』『ルネサンス 情報革命の時代』がきっかけでした。

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これらの本を読んで改めて知ったのはエラスムスがルネサンス時代と文学を考える上であまりに巨大な存在だったという事です。

『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』ではエラスムスについて次のように述べられていました。

エラスムスは、生前から執筆によって生計のかなりをまかなっていた、ほぼ最初の人物といってよいだろう。彼以前の物書きにとって、自著の出版から直接の利益を得るなど、思いも及ばぬことであった。またエラスムスの死後も、ぺンで生活の糧を得るという希望を実現した著述家は、ごくわずかしかいなかったのだ。エラスムスの才気、煌びやかな知性とゆるぎない学識を前にして、張り合おうなどと思う者はほとんどいなかった。

エラスムスがものした多数の著作は、十六世紀の間に実に二五〇〇版以上出版された。だがエラスムスは一方で大変実務的な考え方の持ち主でもあった。その驚くべき経歴を我々から見て何が一番興味深いと言えば、それは彼が市場の動向を読み取る際に見せる鋭い洞察力、そしてこれは儲かるとふんだ領域に適合するよいに自身の著述活動を自在に変化させてしまうその柔軟性である。
※一部改行しました

白水社、アンドルー・ペティグリー、桑木野幸司訳『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』P142-143

また、『ルネサンス 情報革命の時代』では「プロ作家の第一号」とも述べられていました。

このように出版の歴史、文学の歴史を考える上でエラスムスという人物はとてつもなく巨大な存在であることを私は改めて知ったのでありました。

エラスムスがどのような人物でどのように作家活動をしたのかということは上の2冊だけでなく、今回紹介している中公文庫版でもかなり詳しく解説されています。

ルターやトマスモアとのつながりや『痴愚神礼讃』そのものについてもとてもわかりやすく解説してくれますのでこれは非常にありがたいです。

私が初めて読んだ『痴愚神礼讃』は岩波版でかなり古かったのもあり、中公文庫版の解説の充実ぶりには正直かなり驚きました。最初からこちらを読んでいればまた違った感想を抱いただろうなと思います。

私は今フェルメールを学んだ流れで久しぶりにエラスムスを再読しました。

フェルメールを本格的に好きになったのはほんの最近のことです。

それまで私の中でオランダといえば「ロッテルダムのエラスムス」というイメージがありました。それほどエラスムスのイメージは強烈でした。

今となってはフェルメールにどっぷりはまってしまったのでオランダのイメージが書き換えられてしまいましたが、それほど私にとって『痴愚神礼讃』は衝撃的なものでした。一度読めば忘れられないインパクトがあります。

巨大な出版業界がまだ存在していない段階にしてすでにベストセラー作家として最高の地位にあったエラスムス。

その人気の源泉となった作品が『痴愚神礼讃』です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上「エラスムス『痴愚神礼讃』あらすじと感想~ヒューマニズムの元祖、世界最初のベストセラー作家の風刺作品」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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