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桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』あらすじと感想~知の爆発はいかにして起こったのか!知的好奇心がスパークする名著!

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桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』概要と感想~知の爆発はいかにして起こったのか!最高に刺激的なおすすめ作品!

今回ご紹介するのは2022年に筑摩書房より発行された桑木野幸司著『ルネサンス 情報革命の時代』です。

早速この本について見ていきましょう。

新大陸やアジア諸国から流入する珍花奇葉、珍獣奇鳥、玄怪な工芸品……。発見につぐ発見、揺らぐ伝統的な知。この情報大洪水に立ち向かう挑戦が幕を開けた!

新大陸やアジア諸国から流入する大量の珍花奇葉、珍獣奇鳥、玄怪な工芸品……。西欧のルネサンスは、情報の大洪水に見舞われ、中世までの伝統的な知のフレームが大きく揺らいだ時代であった。さらに「古代」という過去の発見、 新たな救済の道の発見(宗教改革)、宇宙や身体内部の発見(天文学や解剖学)……まさに発見につぐ発見の時代相だ。この未曾有の知の大爆発に、果敢に立ち向かった人々がいた。膨大な言葉と物を集め、分類を工夫し、印刷メディアと人工記憶を駆使しながら、独創的な知のソフトウェアの開発をめざす挑戦が幕を開ける! 情報革命がもたらしたルネサンス文化を読み解く。

Amazon商品紹介ページより

まずはじめに言わせてください。

この本はものすごく面白いです!びっくりするくらい刺激的な作品です。

私がこの本を読んだのは前回の記事で紹介した『印刷という革命』がきっかけでした。

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1450年頃にグーテンベルクによって開発された活版印刷術。これが後に世界を変えた大発明であったことは間違いありません。

ですが印刷技術ができてすぐに人々の知性が爆発していったというわけではなく、印刷技術そのものも開発後しばらくは商業的に苦戦するという有様でした。

この時代の知識人たちの間で何が起こっていたのか、いつ頃からルネサンスの天才たちは活躍し始めたのか。

私はそのようなことに興味を持ったのでした。

そんな時に出会ったのが本書『ルネサンス 情報革命の時代』だったのです。

この本の内容や特徴についてはプロローグの著者の言葉を聞くのが一番だと思います。

では早速その箇所を読んでいきましょう。

光でもなく闇でもなく

「ルネサンス」―なんと華やいで、きらびやかな言葉だろうか。ボッティチェッリの傑作絵画《春》の情景そのままに、人間賛歌を謳歌する西欧世界に、薫々たる再生の微風がそよぎ、生命力に満ちた文化の花々が群がる星のように咲きみだれた、それは稀有な歴史的瞬間であった。

―といった具合に、一般には光輝くイメージで語られることが多いこのルネサンスという概念。厳密には、「時代」ではなく「文化運動」を指す言葉で、十九世紀の史学において提示された概念である。「再生」や「復活」を意味するフランス語(Renaissance)に由来し、西欧の十四-十六世紀に展開した多面的な知的ムーブメントであったとされる。それは西欧社会が、長い中世を脱して近代へと至る、その転換期にあたる時代が生んだ豊かな果実であった。

こうした解釈は十九世紀半ば以降およそ一世紀あまりをかけて、文化史をこえて様々な領域において展開され、総じて、近代社会の基盤を幅広く用意したポジティヴな時代相、という理解が一般化した。

やがて二十世紀も後半に差しかかると、今度はそうした光輝く印象とは対極の側面がクローズマップされるようになる。光のヴェールを一枚はがせば、そこには魔術や神秘主義が大手を振って闊歩していたし、血みどろの宗教闘争や政治的混乱も常態化していた。芸術の分野にだって、グロテスクで面妖な作品が目白押しじゃないか、と。まさに「夜のルネサンス」(rinascimento notturno)だ。

光と闇。現在では、その双方にバランスよく目配りする立場が主流だ。けれども、その両極のあいだを振り子のように揺れ動くのではなく、まったく異なる視点から、この時代、この文化相を切ってみることはできないだろうか。その、いわば第三の視点を通じて、これまでにない斬新なルネサンス像を追求してみたい。それが本書の目的だ。キーワードは「情報」である。

筑摩書房、桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』P10-11

そして著者は1492年のコロンブスのアメリカ大陸発見と1543年のコペルニクスの『天球回転論』を例として出した後、次のように述べます。少し長くなりますがものすごく面白い箇所ですのでじっくり読んでいきます。

広がる地平

一四九二年と一五四三年―この二つの象徴的な年の前後に起こった出来事をこうして並べてみるなら、ルネサンスと呼ばれる文化運動が、どれほど人々の認識の「地平」を押し広げたのかが実によくわかる。

あらためて、この時期の文化的位相を整理してみよう。まず、十四世紀から本格化する、古代ギリシア・ローマの文芸を復興しようとする流れ、いわゆる「フマニタス(人文学)研究」(Studia humanitatis)の知的ムーブメントがある。その大前提となったのが、現在とは断絶した過去の彼方に、自分たちとは異なる優れた文化が存在したという、歴史的感覚であった。こうして時間認識の地平が広がった。またコロンブスに代表される大航海時代の探検や新航路開拓は、ヨーロッパ人の地理感覚を水平方向に一挙に拡大したし、コぺルニクスの地動説は、それを宇宙規模の垂直軸でやってのけた。そして一五一七年以降に本格化するマルティン・ルター(一四八三-一五四六年)らの宗教改革運動がもたらしたのは、救われる道はひとつではないという考え、すなわち心の地平の拡張であった。

メディア革命と情報爆発の時代

これら一連の現象のいずれにも大きく関わっていたのが、十五世紀中ごろにヨハネス・グーテンべルクによって実用化された、活版印刷術である。文字ばかりでなく複雑な図版をも、高速・大量に複製することを可能にしたこの技術の登場は、現代のインターネット時代の到来にも比肩しうる、人類文化史上最大級のメディア革命を意味した。

この印刷術が、ルネサンス人の認識の「地平」の拡大にぴったりと寄り添っていったのだ。古典研究や自然学の分野はもちろん、宗教・政治闘争の場でも、この新たなメディアが縦横に駆使され、膨大な量の知識やデータが伝達・拡散されていった。

増えたのは文字とイメージばかりではない。フィジカルな「物」もまた、劇的に増大した。域外からひっきりなしに流入する珍品奇物・珍花奇葉はもとより、地中からざくざく掘り起こされる古代彫刻や古銭・メダルのたぐいにも、高い関心が集まる。さらに都市経済の発展により、ヨーロッパ市場にはさまざまな手工業製品や芸術・工芸品があふれかえった。

また、自然界についての知識が増大するにつれ、それまで単にクマとか、バラとか、宝石、この大雑把なくくりで把握されていた世界に、精密な分類の編み目がかぶせられ、個別の種が細かく切り分けられてゆく。「たとえバラという名で呼ばなくても、同じ香りがするはず……」というジュリエットの有名なセリフがあるが、もしロミオ君が博物学マニアだったら、「いや、同じバラ科でも、ガリカ・ローズとダマスク・ローズではまったく芳香が異なるし、アルバ・ローズやドッグ・ローズにもそれぞれ固有の花香があって……」と得意げに知識を開陳しだしたところを、恋人にどつかれるはめになるだろう。

要するに、「情報」が氾濫し、爆発したのだ。

筑摩書房、桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』P14-16

「現在とは断絶した過去の彼方に、自分たちとは異なる優れた文化が存在したという、歴史的感覚であった。こうして時間認識の地平が広がった」

「マルティン・ルター(一四八三-一五四六年)らの宗教改革運動がもたらしたのは、救われる道はひとつではないという考え、すなわち心の地平の拡張であった」

「時間認識の地平」、「心の地平」が拡張されたというのは非常に興味深い指摘ですよね。

そして引用の最後のロミオとジュリエットのお話は思わずくすっと笑ってしまいますが情報爆発がどういうものだったのかというのがとてもわかりやすく示されていますよね。

そして著者はプロローグを次のように締めくくります。

情報編集という視点からみたルネサンス

冒頭に触れたようにルネサンスについては、光と闇の双方の立場から、これまで多くの本が書かれてきた。だが、この時代を「情報」という視点に着目して通覧した概説書は、まだ数が多くない。本書では西欧の、おおよそ十五世紀から十七世紀初頭にかけての期間を、メディア革命が徐々に進展してゆく時代ととらえ、従来とはいくぶん、いや、かなり違った角度からルネサンスという文化運動/時代を語ってみたい。

それまでの世界観が大きな音をたてて崩れ去り、日々膨大な情報や新奇な知見にさらされていたこの時期に、いったいどんな知的葛藤が見られたのか。情報爆発の時代を生きた先人たちの独創的な工夫や、あるいは失敗のエピソードは、現代を生きる我々にも大いに参考になるはずだ。

そんなわけだから、本書は「ルネサンス」を文化運動と時代の双方を意味する語とゆるやかに促え、その文化史的概念の厳密な定義の問題には深入りしないし、通史的なヴィジョンの提示にもさほどこだわらない。代わりに、情報編集の工夫が際立つ領域をいくつかとりあげ、アラカルト風に語ってみたい。以下の章では、まず地図のトピックを取り上げぐテーマ全体を俯瞰したのち、知の分類、印刷術のインパクト、言語の問題、記憶術、博物学の順で論じてゆく。といっても、それぞれの議論が互いに浸透し、影響を及ぼし合っていることば、お読みいただければすぐに気が付くだろう。

それではルネサンスの知の大海へと、漕ぎだすことにしよう。

筑摩書房、桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』P16-17

「本書では西欧の、おおよそ十五世紀から十七世紀初頭にかけての期間を、メディア革命が徐々に進展してゆく時代ととらえ、従来とはいくぶん、いや、かなり違った角度からルネサンスという文化運動/時代を語ってみたい。」

この本はルネサンスというわかるようでなかなかわからない時代を「メディア革命」という切り口で見ていきます。

私は本が大好きです。そんな本好きの私にとって、本がいかにして世界を変えてきたのかということを知れたのは最高に刺激的でスリリングな体験となりました。

これは面白いです。

ルネサンスに興味がある方、本が好きな方にぜひぜひおすすめしたい名著です!ものすごく面白いです!

知的好奇心がスパークする作品です!ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「桑木野幸司『ルネサンス 情報革命の時代』概要と感想~知の爆発はいかにして起こったのか!知的好奇心がスパークする名著!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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