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マイケル・ポワード『グーテンベルク』あらすじと感想~活版印刷機を発明したドイツの偉人。ルターの宗教改革にも絶大な影響

目次

マイケル・ポワード『グーテンベルク 伝記 世界を変えた人々15』概要と感想~印刷機を発明したドイツの偉人。ルターの宗教改革にも絶大な影響

今回ご紹介するのは1994年に偕成社より発行されたマイケル・ポラード著、松村佐知子訳の『グーテンベルク 伝記 世界を変えた人々15』です。

早速この本について見ていきましょう。

ヨハネス・グーテンベルクは、活字を使った活版印刷術を発明しました。しかし、グーテンベルクは、謎につつまれた人物で、彼の一生については、あまりよく分かっていません。ただ、彼が20年以上の歳月をかけて、ひたむきに活版印刷術のアイデアを発展させていき、完成させたことは確かです。印刷術が登場する以前は、ほとんどの書物は手書きで、数も少なく、聖職者や学者、それに裕富な人たちだけしか読むことができませんでした。ところが、活版印刷術によって、書物が大量に、安く、速くつくられるようになると、多くの人々の手に書物が行きわたるようになり、知識は急速に広がり、歴史の流れまでも変えたのです。小学中級から大人まで。

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この作品はヨーロッパ初の活版印刷術を発明したグーテンベルクの伝記になります。

ヨハネス・グーテンベルク(1400頃-1468頃)Wikipediaより

ただ、この人物については謎も多く、詳しいことはわかっていません。著者もそのことについてはあらかじめ注意を促していますが、わかりうる限りで彼の歩みを丁寧に紹介しています。

そしてこの伝記では時代背景だけではなく、書物や紙の歴史や、印刷術の発展についてもわかりやすく解説してくれます。この辺の歴史はややこしくて難しい印象が強かったのでこの解説はありがたかったです。

私がグーテンベルクを調べようと思ったのはルターの宗教改革との関わりという大きな問題もそうですが、何よりルネッサンスからの科学革命にこの印刷術が大きく関わっているということがあったからです。

活版印刷術が発明されるまでは、書物は手書きで作られていました。

この手書きの写本を見るために私は2019年にプラハのストラーホフ修道院を訪れました。

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この修道院は学問の中心として知られ、多くの修道士が写本に勤しんでいました。

こちらが手書きの写本です。これだけ細かい字で丁寧に本が作られていたというのは驚きですよね。こうした修道院と学問の関係性については「ストラホフ修道院の役割と学問~知性の力と修道士、そしてお坊さん チェコ編④」でより詳しくお話ししていますのでぜひご覧ください。

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そしてこうした写本について著者はこの本の冒頭で次のように述べています。

書物をペンで書き写す写本は、気が遠くなるほど手間のかかる仕事でした。本は注文をしても、何年も待たなければ手にはいりません。写字生の数もまだまだたりませんでした。仕事がきついうえに、賃金も安いのでは仕方がないかもしれません。

しかし、写本の欠点は、時間がかかることだけではありませんでした。仕事にあきて眠くなった写字生たちは、注意力がなくなったり、あるいは薄暗い照明のなかで写し間違いをしました。なかには、自分が写している本にわざと「改良」をくわえたり、自分だけの省略方法を使う者もいました。その結果、多くの写本は原形がそこなわれ、「改悪」されてしまうことになったのです。できあがったものには、写し間違いがあったり、あったはずの文章が抜けていたり、余計な文章がつけくわえられていました。写本をしながら、たとえばラテン語から英語へ翻訳をした場合は、さらに誤りがはいる可能性が大きくなりました。

ペンで書き写す作業は、新しい知識の普及を、時間のかかる困難なものにしていました。科学者が新しい理論を導きだし、それについての本を書いたとしましょう。もしも科学者に写本をつくる資金がなかったとしたら、その理論は一冊の本のなかに閉じ込められたまま、本人の死とともに葬り去られてしまうかもしれません。そして、人々はその発見のことを知らずに、過去にすでに解決された問題を解くために頭をなやませ、何度も同じ理論を「再発見」することになるのです。ヨーロッパで印刷術が発明されると、知識や思想は、以前の何倍もの速さでひろがっていきました。十五世紀から十六世紀にかけてのルネサンス(文芸復興)の時代に、新しい思想が爆発的にひろまったのは、印刷術が大きな引き金になっていたのは疑う余地もありません。

偕成社、マイケル・ポラード、松村佐知子訳『グーテンベルク 伝記 世界を変えた人々15』P16-18

「もしも科学者に写本をつくる資金がなかったとしたら、その理論は一冊の本のなかに閉じ込められたまま、本人の死とともに葬り去られてしまうかもしれません。そして、人々はその発見のことを知らずに、過去にすでに解決された問題を解くために頭をなやませ、何度も同じ理論を「再発見」することになるのです。」

なるほど。これが中世になかなか科学や思想が発達しなかった大きな理由のひとつなのかもしれません。

書物がなければ知識は継承されず、蓄積されることはありません。一人の人間が思索し積み上げることのできる量には限界があります。ですが本という外部記憶装置があれば、それを利用することでより高みに上ることができる。この積み重ねが高度な思索や科学的発見を可能にしたのでした。

そしてルネッサンスからルターの宗教革命、さらにその後の科学革命にはこの活版印刷術が絶対に欠かせぬものでした。

私が今はまっているフェルメールも光の研究者でもあります。彼もカメラ・オブスクラという光学機器を用いて「ものの見え方」を探究していました。

同時代人のデカルトもスピノザもライプニッツも、レーウェンフックも皆、科学的な思考を追求した人物です。

その土台を作ったのがグーテンベルクの活版印刷術だと考えると、やはりこの発明がいかに大きなものだったかということを考えさせられます。

この本は活版印刷術を知るための入門書としてとてもおすすめな一冊です。

以上、「マイケル・ポワード『グーテンベルク 伝記 世界を変えた人々15』活版印刷機を発明したドイツの偉人。ルターの宗教改革にも絶大な影響」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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