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(23)イギリスの歴史家トーマス・カーライル~エンゲルスがイギリスで尊敬した唯一の知識人

目次

イギリスの歴史家トーマス・カーライルとは~エンゲルスがイギリスで尊敬した唯一の知識人「マルクス・エンゲルスの生涯と思想背景に学ぶ」(23)

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上の記事ではマルクスとエンゲルスの生涯を年表でざっくりとご紹介しましたが、このシリーズでは「マルクス・エンゲルスの生涯・思想背景に学ぶ」というテーマでより詳しくマルクスとエンゲルスの生涯と思想を見ていきます。

これから参考にしていくのはトリストラム・ハント著エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』というエンゲルスの伝記です。

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この本が優れているのは、エンゲルスがどのような思想に影響を受け、そこからどのように彼の著作が生み出されていったかがわかりやすく解説されている点です。

当時の時代背景や流行していた思想などと一緒に学ぶことができるので、歴史の流れが非常にわかりやすいです。エンゲルスとマルクスの思想がいかにして出来上がっていったのかがよくわかります。この本のおかげで次に何を読めばもっとマルクスとエンゲルスのことを知れるかという道筋もつけてもらえます。これはありがたかったです。

そしてこの本を読んだことでいかにエンゲルスがマルクスの著作に影響を与えていたかがわかりました。かなり驚きの内容です。

この本はエンゲルスの伝記ではありますが、マルクスのことも詳しく書かれています。マルクスの伝記や解説書を読むより、この本を読んだ方がよりマルクスのことを知ることができるのではないかと思ってしまうほど素晴らしい伝記でした。

一部マルクスの生涯や興味深いエピソードなどを補うために他のマルクス伝記も用いることもありますが、基本的にはこの本を中心にマルクスとエンゲルスの生涯についてじっくりと見ていきたいと思います。

その他参考書については以下の記事「マルクス伝記おすすめ12作品一覧~マルクス・エンゲルスの生涯・思想をより知るために」でまとめていますのでこちらもぜひご参照ください。

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では、早速始めていきましょう。

イギリスの歴史家トーマス・カーライルとは

思慮深い論客であり、〔社会の進歩に逆行する〕反動主義者であったカーライルは、エンゲルスがイギリスの知識人で尊敬した唯一の人物だった。おそらくそれは彼がドイツ贔屓だったからでもあるだろう。

『エディンバラ・レビュー』紙の批評家だったころにカーライルが発表した最初の作品は、ヨハン・パウル・リヒターの翻訳本で、そこから彼はゲーテ(ゲーテとは頻繁に文通していた)、シラー、へルダーの作品に夢中になり、ドイツ・ロマン主義をイギリスの読者に紹介する文化の輸入業者のような役割を担っていた。

封建時代の失われた英雄の世界を懐かしむカーライルは、産業化したイギリスの惨状を中世のロマン主義時代と比較するようになり、やがて悲観しながらこう結論づけた。

「もはや信心深い時代ではなくなった。神聖なものや精神的なものではなく、単に物質的で、すぐさま実際に使えるものだけがわれわれにとって重要なのである」。

十九世紀は「機械の時代」であり、かつては人と人を結んでいた社会的絆が、物質的な富を追い求めるなかで崩れ去っていた。

「われわれはそれを社会と呼ぶ。そして完全な分離、隔離を公然と主張するようになる。われわれの暮らしは相互に助け合うものではない。むしろ〈公正な競争〉という名の、正式な戦争法のもとに覆い隠されているので、これは相互の敵意なのである。現金支払い、、、、、だけが人間同士の唯一の関係ではないことを、あらゆる場でわれわれはすっかり忘れている」。

こう考えると、人民憲章などの政治的な応急措置の要求―カーライルが当時人気のあった偽医者に因んで〈モリソンの丸薬〉と呼んで拒絶したもの―は、いわゆる「イングランドの状況」問題にたいし、なんら現実的な違いをもたらさなかったのである。

カーライルにとって解決策は、信仰心の復活と英雄的で独裁的な指導体制を組み合わせることだった。〔ロンドン、チェルシー地区の〕チェーン・ロウにある彼の家の応接間には、壁の最高の場所にオリヴァー・クロムウェルとマルティン・ルターの両親の肖像画が飾られていた。
※一部改行しました

筑摩書房、トリストラム・ハント、東郷えりか訳『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』P126-127
トーマス・カーライル(1795-1881)Wikipediaより

カーライルはゲーテを深く尊敬していた歴史家でした。ゲーテと頻繁に文通していたというのは驚きですよね。

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急進的な青年達とは違い、ゲーテが革命よりも少しずつ改善していく方向を好んだと同じく、カーライルも現在の状況を批判しつつも保守的な思考を持った人物でした。

上の引用を読んで気付かれた方も多いかもしれませんが、カーライルの思想はマルクスの『共産党宣言』にも非常に強い影響を与えています。

『共産党宣言』の中の有名な一節、

ブルジョア階級は、支配をにぎるにいたったところでは、封建的な、家父長的な、牧歌的ないっさいの関係を破壊した。かれらは、人間を血のつながったその長上者に結びつけていた色とりどりの封建的きずなをようしゃなく切断し、人間と人間とのあいだに、むきだしの利害以外の、つめたい「現金勘定」以外のどんなきずなをも残さなかった。(中略)

ブルジョア階級は、家族関係からその感動的な感傷のヴェールを取り去って、それを、純粋な金銭関係に変えてしまった。

岩波書店、マルクス エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎訳『共産党宣言』2020年第104刷版P45

『「現金勘定」以外のどんなきずなをも残さなかった』

この強烈な言葉はマルクスが資本主義の仕組みを痛烈に批判した言葉としてよく知られていますが、実はこの言葉はすでにカーライルが『過去と現在』の中で述べていた言葉だったのです。

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上の記事で改めてカーライルの著作についてお話ししていきますが、エンゲルスはこの人物の思想に強い影響を受けています。そしてその影響が1848年にマルクス・エンゲルスの共著として書かれた『共産党宣言』にもはっきりと出ています。後に明らかになりますがこの時期のマルクスの作品はエンゲルスの影響をかなり強く受けています。

そもそもマルクスは猛烈な勉強家ですから、当時話題になったカーライルのこの著作を知らなかったはずがありません。

ですが、エンゲルスという盟友を通してその思想は確実に聞いていたことでしょう。

マルクス・エンゲルスは独自に天才的な思想を思いついたのではなく、その時代状況の中で様々なものを吸収しながらその思想を練り上げていったことがよくわかります。

カーライル『過去と現在』にエンゲルスは何を思ったか

イギリスの中世と近代を比較したカーライルの『過去と現在』にたいする一八四四年の書評のなかでエンゲルス(当時はまだ青年へーゲル派の急進派と足並みをそろえていた)はこう応じた。「われわれも原理の欠如や、内面の空虚さ、無気力、時代の不正直さと闘うことに関心がある」。

だが、宗教は明らかに答えになりようがなかった。「カーライルが描くような無神論に、われわれは終止符を打ちたい。だが、それは宗教を通して失った実体を人間に戻すことによってである。神聖なものではなく、人間という実体として。そしてこれを戻すプロセスと言えば、自己意識を覚醒するだけなのである」。

エンゲルスによれば、カーライルの決定的な弱点は、彼がドイツの文学は読んでも哲学を読んでいなかったことだった。フォイエルバッハを知らなければ、ゲーテを読んでも一部しか理解できない。

それでも、エンゲルスがカーライルを尊敬していたのは、彼の並外れた散文のスタイル―「カーライルは英語という言語を、純然たる原材料であるかのように扱い、まったく新たに言葉を鋳造しなければ気が済まなかった」―および資本主義社会によってもたらされた惨状を、彼がオリンポスの神々のように高みから非難したことゆえだった。

『イギリスにおける労働者階級の状態』のなかで、エンゲルスはカーライルと同様の歴史的たとえを使い(工場の働き手の立場を、ノルマン人貴族に鞭打たれていたサクソン人農奴の立場と対比させ、リベラルな「自由」という、飢え死にする自由を意味するに過ぎない偽善を強調した)、同じ公的情報源を用いた。

彼はまたこの「チェルシーの賢人」からたびたびじかに引用もした。「工場主と職工たちの関係には人間的なものは何もない。純粋に経済的な関係である」と、エンゲルスは機械化し産業化したイギリスを非難したカーライルの大作『時代の兆候』からじかに引用して、産業の関係についての章に書いた。「工場主は資本であり、職工は労働カである……カーライルが言うように、彼[工場主」はこう主張する。「現金支払いだけが人と人の唯一の結びつきだ」
※一部改行しました

筑摩書房、トリストラム・ハント、東郷えりか訳『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』P127ー128

「カーライルの決定的な弱点は、彼がドイツの文学は読んでも哲学を読んでいなかったことだった。フォイエルバッハを知らなければ、ゲーテを読んでも一部しか理解できない。」

とエンゲルスが述べているのは興味深いですよね。エンゲルスがゲーテをどのように理解していたかのヒントになりそうです。

また、エンゲルスにとってドイツ哲学、つまりヘーゲルの流れを汲んだ哲学がいかに重要なものだったかも感じられます。

そしてここで述べられているように、エンゲルスはカーライルから多くのものを学んでいます。

マンチェスターの地で着々と思想家・革命家エンゲルスが育っていく様をこの箇所では知ることができました。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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