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伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想~『虐殺器官』の著者による傑作ノベライズ!

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伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想~『虐殺器官』の著者による傑作ノベライズ!

今回ご紹介するのは2008年にKADOKAWAより発行された伊藤計劃著『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』です。私が読んだのは角川文庫2015年第17刷版です。

これまで当ブログでは全体主義や冷戦時代について記事を更新してきました。そして最近では全体主義を扱った小説を紹介してきましたが、この記事では日本を代表するゲーム『メタルギア』シリーズの作品についてお話ししていきたいと思います。

『メタルギア』シリーズは小島秀夫監督の下制作されたゲームで、そのシナリオは冷戦や反戦、反核をテーマに描かれています。

「敵に見つからないように隠れ、敵基地へ潜入する」。タクティカル・エスピオナージ(戦略諜報)アクション『メタルギア』シリーズは、1987年にMSX2専用タイトルとして誕生した。そして初代プレイステーションからプレイステーション3へ、またプレイステーション・ポータブルへ。ゲームハードにあわせてゲームデザインは進化していった。20世紀最高のストーリー、21世紀最高のゲームシステムと評された『メタルギア』シリーズは、ひとつのサーガとして読み解くことができる。それは1960年代から2010年代の約50年に渡って世界と闘い続けた2人の主人公、ビッグボスとソリッド・スネークの物語。彼らは「GENE(遺伝子)」の運命と戦い、「MEME(文化的遺伝子)」を未来に残すために語り伝えながら、「SCENE(時代)」の変化に翻弄されてきた。「歴史に記録されることのない、誰も知らない真実」がここにあるのだ。


「メタルギアソリッドの真実」HPより

そして実際にこのゲームがどのようなものであるかは以下の動画を観て頂ければ早いと思います。

さて、このゲーム『メタルギア』シリーズですが、実は私はプレイしたことがありません。

ですがこのシリーズの大ファンであります。

これはどういうことかというと、メタルギアシリーズはノベライズ(小説化)されていて、そのシナリオを作品として読むことができるのです。

私がこのメタルギアシリーズと出会ったのは元々は伊藤計劃さんの『虐殺器官』というSF小説がきっかけでした。そしてその伊藤計劃さんが『メタルギアソリッド4 ガンズオブパトリオット』のノベライズ作品を発表していたのを知り読んでみたのが始まりでした。そこからメタルギアシリーズにはまるのは、それこそあっという間のことでした。

さて、前置きが長くなってしまいましたが 伊藤計劃さんのノベライズ、『メタルギアソリッド4 ガンズオブパトリオット』 について見ていきましょう。

暗号名ソリッド・スネーク。悪魔の核兵器「メタルギア」を幾度となく破壊し、世界を破滅から救ってきた伝説の男の肉体は急速な老化に蝕まれていた。戦争もまた、ナノマシンとネットワークで管理・制御され、利潤追求の経済行為に変化した。中東、南米、東欧―見知らぬ戦場に老いたスネークは赴く。「全世界的な戦争状況」の実現という悪夢に囚われた宿命の兄弟リキッド・スネークを葬るため、そして自らの呪われた血を断つために。


Amazon商品紹介ページより

この作品はメタルギアシリーズの物語のフィナーレを描く作品です。これまで語られてきた伏線が回収され、謎に満ちた闘いに決着がつけられます。

そしてこの作品の中心テーマは戦争と経済になります。これはどういうことか、次の解説を見ていきましょう。

 「戦争は変わった」――ゲームの冒頭にソリッド・スネークが独白する。このセリフの中で、スネークはいくつかの「戦争の変化」を語る。その中で特徴的な変化がPMC(民間軍事会社)と無人兵器の台頭、武器のID管理化である。テクノロジーの進歩により、戦争の形が変貌していくことを彼は述べているのだ。

 『メタルギアソリッド4』の戦争は――決して絵空事ではない。1990年ごろから中東やアフリカの戦場では企業化した新しい傭兵組織が国家から戦争を引き受け、経済のための戦争を繰り広げていた。彼らは直接戦闘を担当するだけでなく、兵站などの後方支援を行い、地元の民兵たちを命知らずの兵士たちに育成する。PMCの戦闘は公式の戦闘としてカウントされないことが多いため、発注した国家や組織はクリーンなイメージを保つことができるのである。

 クリーンな戦争は兵士だけでなく、兵器にも波及している。大国はロボット技術とコンピュータ技術を使った遠隔操縦の無人兵器を戦場に投入しつつある。偵察用にCCDカメラを搭載した「RQ-4AティアII プレデター」「RQ-4AティアIIプラス グローバル・ホーク」などの無人航空機や、「サイファーII」や「ドラゴン・ウォーリアー」などの回転翼型無人航空機が投入されている。また、地雷原探査用の無人陸上車両、海中を行く無人潜航艇などがすでに実用されている。まだ、月光のように自律的に直接戦闘する無人戦闘兵器は開発されていないものの、少しずつ戦場の無人化ははじまっているといえるだろう。

 現実に兵士や武器だけでなく一般市民に至るまで、ID管理化は徐々に進んでいる。
 ここでも混乱しがちな戦場をクリーン化しようとする意思が感じられる。『メタルギアソリッド』の世界は遠い未来の話ではない。戦争はクリーン化し、まるでビジネスの取引をするかのように、人の命は取引されていくのだろう。

 しかし、その流れに抗うかのようにソリッド・スネークは泥にまみれ、身体を痛め、戦い続ける。PMCに所属しないワンマンアーミーとして、ID管理された武器を洗浄してネイキッド・ガンとして使い、無人兵器たちと血を流しながら戦うのだ。

 時代の流れは覆せない。だが、その時代の流れを止め、向きを変えることはできるはず。戦場でしか生きられないソリッド・スネークは、来るべき未来の戦争と戦っているのである。


「メタルギアソリッドの真実」HPより

ここで語られていることは、今私たちが生きている世界の現実です。

戦争がビジネスになり、傭兵会社が台頭。兵器の無人化もどんどん進んでいます。

そしてAIが経済活動を統制し、利益が上がるビジネスに自動的に資本が投下されコントロールされていく世界。

AIが自動的に投資先を決定していくというのはまさしく今の株式投資の流行になっています。戦争が最も儲かるならばそこにお金が流入してもまったくおかしくありません。そうした現実がこの作品で描かれています。

こうした現代の戦争を背景にした物語が今作になります。

ゲームのシナリオの素晴らしさはもはや言うまでもないのですが、このノベライズの最大の魅力は著者の伊藤計劃さんの語り口にあります。伊藤計劃さんはメタルギアシリーズの熱烈なファンでした。そんな伊藤計劃さんのメタルギア愛が溢れたノベライズがこの作品になります。

伊藤計劃さんはあとがきでこのノベライズについての思いを筆にしています。このノベライズの背景や特徴も知れる素晴らしい文章ですので全文をここに紹介します。少し長くなりますが重要な文章なのでじっくり読んでいきます。

あとがき

 ノべライズ。
 映画やア二メとして制作された作品の物語を、小説に移し変えた書籍。

「メタルギアソリッド4のノべライズをしないか」
 まだ著作を一作出しただけの駆け出しに、このような大作のノべライズを任せていただくなど、それだけで身に余る光栄というものです。黙ってお引き受けし、脚本をお借りし、淡々と小説に移し変えていく。それが新人にとって誠実で、分相応な仕事の在り方というものでしょう。

 しかし、私にはどうしてもそれができない事情がありました。
 なぜかといえば、私はこの「メタルギア」シリーズをつくりあげた小島秀夫監督の、ニ十年に及ぶファンだったということです。

 ファンだからこそ、この小説を普通のノベライズにはしたくない、と思いました。読み捨てられていく刹那の思い出ではなく、できることなら手に取っていただいた方の書架に永く留まっていて欲しい。再読に堪えうる立派な小説になって欲しい。若い頃の私にとって、小島秀夫監督の物語が特別な場所を占めていたように、メタルギアシリーズの総決算でもあるこの物語もまた、あなたにとって特別なものであって欲しい。それが、このノベライズをこのような形につくりあげました。
 ノべライズなのだから、もっと文を軽くすべきなのかもしれません。「地の文」を極力削り、改行を多くして読みやすくすべきなのかもしれません。私自身、そうしたノべライズのお世話になってきたものです。「本体」の体験を反芻する、よすがとしてのノベライズ。ゲームで語られた物語をそのまま語るのですから、描写を細密にする必要はないのかもしれません。
 しかし、「メタルギア」と名のつくものである以上、それもまたオマケのようなものであってはならないと私は決めていました。
 とはいえ、小説を自分にとって特別なものにするために、世界観やキャラクターをお借りして、「自分自身」を主張する気はまったくありませんでした。もし、どこの誰とも知らない新人作家が「自分自身」を主張して、同世界、同キャラクターというだけのオリジナルの物語を展開しはじめたら、ファンである私はどれだけ怒り狂うことでしょうか。経験豊富な有名作家ならば、それが許されるかもしれませんが、新人である自分がそれをやってはならないし、またやる気も必要性もまったく感じませんでした。「オリジナルの」物語でエゴを主張するのは容易いことです。しかし、私は知っていました。小説の可能性というのは、物語以外の場所にも宿っているのだということを。

それが、オタコンを語り手に据えるとという選択でした。

 物語を、どのように語るか。その「どのように」の部分にこそ、小説の真髄は宿っていると、私は知っています。モーセが紅海を分かち、イエスが水をワインに変える。騎士は姫のために命を懸け、少年はいずこかへと旅に出る。「むかし、むかし、あるところに」。かつて、すべての物語は小説家のものなどではなく、「どこかの、誰かの」物語でした。他者の出来事を語り継ぐこと。吟遊詩人や古代の歴史家、敬虔な使徒たちは、物語を後の世に繋ぐため、様々な「語り口」を生み出してきました。
 人が物語っていくその方法というのは、「物語そのもの」と同じくらいの意味や価値を持ちうるのです。『ロード・オブ・ザ・リング』はトールキンの『指輪物語』の物語に忠実な映画でありつつ、その見せ方により紛れもなくピーター・ジャクソン監督の作品になっていました。いうなれば、ピーター・ジャクソンはその語り口において自らの物語を語ったのです。

 私は、ノべライズにおいてもそれが可能であると考えました。むしろ、ノベライズ独自の可能性とは、そこにこそあると考えました。小島監督が苦労して構築なさった物語を、その感動を損なわぬよう誠実に伝えること。その方法を徹底して考え抜いた結果が、この小説です。「メタルギア」シリーズの物語を知らない方にも問題なく読んでいただけるような、一冊の完結した存在でありつつ、すでに「メタルギア」の物語を終えた方にとっても新しい発見があるような、そんな小説。
 ノべライズであることの意味を、自分に出来る極限まで考え抜いた結果生まれたのは、私が「メタルギア」の物語を語ることの意味を語る、物語についての物語であり、「メタルギア」サーガとはいったい何だったのか、それがぼくらの生きている世の中の仕組みとどう象徴的にかかわっているかを示す、「メタルギア」への「批評」でもある物語でした。

 人が他者の物語を語り継ぐことの意味を、この小説から感じ取っていただければ、私にとってこれにまさる喜びはありません。願わくば、この物語があなたの書架を豊かにするよき思い出になりますように。

角川文庫、伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』P523-526

私はこのあとがきを読んでいつもうるっときてしまいます。

特に「読み捨てられていく刹那の思い出ではなく、できることなら手に取っていただいた方の書架に永く留まっていて欲しい。再読に堪えうる立派な小説になって欲しい。」という言葉にはぐっときます。

伊藤計劃さんがどれだけ「メタルギア」シリーズに真摯に向き合っているのか、そしてその愛を感じることができるあとがきではないでしょうか。

そしてこのあとがきで語られていますように、このノベライズは主人公ソリッドスネークの相棒、オタコンの視点から語られる物語となっています。

私はこの語りにイチコロでした。

繊細でナイーブな感性を持つオタコンの視点から見たメタルギアの世界。

伊藤計劃さんらしさが出ていながらこれほどまでにメタルギアの世界を忠実に再現させるというのは驚異としか言いようがありません。驚くべき傑作です。

このあとがきの後には、メタルギアシリーズの作者小島秀夫監督による「伊藤計劃さんのこと」という文章も掲載されています。

小島監督と伊藤計劃さんの出会いや、この作品がいかにして出来上がっていったのかということを知れるのでこちらも必見です。

この作品は伊藤計劃さんのあとがきにもありましたように、メタルギアと初めて出会う方でも読める作品となっています。過去のエピソードなどもうまく盛り込まれていて、その流れをわかりやすく知ることができます。私もこの作品が初めてのメタルギア体験でした。ですが、感動して泣いてしまうほどこの作品に引き込まれてしまいました。本当に素晴らしい作品です。

そしてこの作品もYouTubeで観ることができます。

8時間弱の超大作ですが、これも必見の映像です。

泣きます。私は何度観ても泣いてしまいます。もう最高です。

実は伊藤計劃さんはこのノベライズの執筆後間もなく病気で亡くなってしまいます。

そうしたことも感じながらこの作品を読み、観ていくとより重みが感じられます。

私がメタルギアシリーズと出会うきっかけをくれたのがこの伊藤計劃さんの『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』でした。私にとって大切な一冊になりました。伊藤計劃さんの思いが詰まったこの本は私の宝物です。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「伊藤計劃『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』あらすじと感想~『虐殺器官』の著者による傑作ノベライズ!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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