ヨハネ・パウロ二世『救い主の母』あらすじと感想~カトリックにおける聖母マリアの意義を解説した1冊
ヨハネ・パウロ二世『救い主の母』 概要と感想~ローマカトリックにおける聖母マリアの意義を解説した1冊!
今回ご紹介するのは2007年にカトリック中央協議会より出版されたヨハネ・パウロ2世著、荒井勝三郎訳『救い主の母』です。
早速この本について見ていきましょう。
一方で時間と空間のなかにあり、他方で人々の魂の遍歴を通してなされる、教会の旅路あるいは歩みの途上にマリアが現存しています……。救いの計画のなかで明確な位置を占めるマリア。聖書と聖伝を通してなされる豊かな考察によって、神の母の秘義を鮮やかに浮き彫りにする。
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この本は教皇ヨハネ・パウロ2世がローマカトリックにおける聖母マリアの意義について解説していく作品となります。
聖母マリアとはいかなる存在なのか。「イエス・キリストの母」、「神の子イエスを生んだ女性」。たしかにそうなのですがいざ聖母マリアという女性がキリスト教信仰においてどのような役割を果たしているかというと、意外とわからないのではないでしょうか。
言うまでもないことですが、キリスト教は一神教です。信仰の対象は神のみです。しかし世界を見渡してみれば明らかに聖母マリア信仰がいたる所で見られます。
聖母マリアを信仰することは唯一絶対なる神だけを信仰するキリスト教の教えと矛盾しないのだろうか、そんな疑問を私は感じたのでした。
これは2019年にポーランドのクラクフを訪れた時に特に感じたことでした。
ポーランドの古都クラクフの旧市街中心部にある聖マリア教会の巨大さ、荘厳さには圧倒されました。
こちらが聖マリア教会の内部です。この写真の上の方にはイエスの十字架の像が見えます。
この教会は聖母マリアを崇拝する教会。
メインの祭壇に祀られているのは、イエスではなくイエスの母、マリアだったのです。
残念ながら修復中で中央祭壇のマリア像を目にすることが出来ませんでしたが、イエスの十字架像との位置関係は非常に興味深かったです。
イエスが手前に来て、その奥の主祭壇が聖母マリア。
イエスを通してマリアを見るという構図。
なぜマリアがここまで大切にされているのか。これは非常に重要な問題だと思います。
ヨハネ・パウロ2世の『救い主の母』ではそんな聖母マリアについての解説をじっくり聞くことができます。ここでそれを私が解説することは畏れ多くてできませんが、この本の中で最も端的にそれが語られていた箇所を引用します。
マリアは、人々の窮乏と貧困と苦悩の現実のなかで、彼らとイエスとの間に立っています。マリアは「間に入り」ますが、それは、第三者的な仲介者としてではなく、母の立場で、御子に人々の欠乏を示すことができる、いやむしろ、示す「権利を有する」ことを意識している者としてなのです。したがって、マリアがする仲介は執り成しの性格をもっており、マリアはあらゆる人々のために「執り成し」をするのです。さらに、マリアは、母として、御子のメシアとしての能力、すなわち、不幸な人を助け、形も深さもさまざまに人生に重くのしかかる悪から人を解放する能力が示されることをも望んでいます。これこそ、イザヤ預言者が予言し、イエス自身が、ナザレの村人たちの前で引用したメシアに関する有名な一節です。「主がわたしをお遣わしになったのは、貧しい者によい訪れを伝え、捕らわれびとに釈放を、盲人に視力の回復を告げるためである」(ルカ4・18)。
給仕たちに「何でも、この人の言うとおりにしてください」と言った言葉には、マリアの母としての役割の、もう一つの本質的な要素が示されています。キリストの母として、人々の前で、御子の意志の「代弁者」の役を演じ、メシア(キリスト)の救いの力が発揮されるためにはいかなる条件が満たされねばならないかを教えます。カナでは、マリアの執り成しと給仕たちの従順とのおかげで、イエスの「時」が始まりました。マリアはイエスを信じる者としてそこにいます。そして、この信仰がイエスの最初の「しるし」を誘い、弟子たちが信じるようになるのを助けました。
カトリック中央協議会、ヨハネ・パウロ二世著、荒井勝三郎訳『救い主の母』P50-51
ここで重要なのはマリアが「執り成し」の役割を果たしているという点です。あくまでマリア自身に神のような力があるのではなく、神に人々の苦しみを訴えかけ、神が苦しむ人々に目を向けてくれるよう執り成しをしてくださるという点にマリアの重要性があります。つまりマリア信仰はマリアを神として崇拝しているのではないということになります。ですので一神教のルールとは矛盾しません。しかし、マリアを執り成し役ではなく、神として崇めてしまうことはキリスト教信仰の根源とずれてしまうので信徒は気を付けてくださいとヨハネ・パウロ2世は教え諭します。
また、後半の箇所ではマリアが信仰者の理想の姿として解説されています。イエス・キリストが懐胎した時から聖母マリアは神の言葉を信じていました。神の子イエスを最も早くから信じ、最後まで無条件に信じ続けたマリアの姿があったからこそ弟子たちの信仰にもつながった。信仰者の理想としてもマリアは大きな存在であることが上の解説から伝わってきました。
これ以上はこの本をぜひ読んで下さいとしか申せません。
この本は文庫本サイズで150頁弱の非常にコンパクトな作品です。その中でヨハネ・パウロ2世が丁寧に聖母マリアの意義について語ってくれます。マリア信仰を考える上で非常にわかりやすい解説で、とても参考になりました。この本もおすすめです。
以上、「ヨハネ・パウロ二世『救い主の母』カトリックにおける聖母マリアの意義を解説した1冊」でした。
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