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『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』あらすじと感想~戦後のソ連体制下の東欧を知るのにおすすめ!

目次

 アン・アプルボーム、山崎博康訳『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』概要と感想~戦後のソ連体制下の東欧を知るのにおすすめ!冷戦をもたらしたソ連の鉄のカーテンとは

今回ご紹介するのは2019年に白水社より発行されましたアン・アプルボーム著、山崎博康訳の『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』です。

早速この本について見ていきましょう。

本書は、第二次世界大戦の終結から、スターリンの死、ハンガリー革命に至るまでの時代に、ソ連がいかに東欧諸国(主に東独、ポーランド、ハンガリー)を勢力下に収め、支配していったのか、そして各国がいかに受容し、忌避し、抵抗していったのか、その実態をテーマ毎に論じた力作だ。それぞれ多様な国情、特殊性を掘り下げることによって、ソ連支配の方法と各国の抵抗の姿がまざまざと見えてくる。

政治指導者を中心とした大きな物語だけにとどまらず、各国の当局や市民、労働者の本音にも目を配り、「鳥の眼・虫の眼」で対象を捉えている。支配と被支配、体制と反体制の二元論ではなく、「面従腹背」の構造にも着目し、したたかで、人間臭い側面も興味深い。

本書は、著者が『グラーグ ソ連集中収容所の歴史』(ピュリツァー賞受賞)で示した問題意識を東欧に移し、その「全体主義」の実態を暴いた現代史だ。その一方で、ポスト冷戦期を支えた価値観が揺らいでいる現在にあって、「警鐘」としても受け止められるものだ。全米図書賞最終候補作品。アントニー・ビーヴァー推薦。口絵写真多数収録。

Amazon商品紹介ページより

この本ではソ連の支配下に組み込まれた東ドイツ、ポーランド、ハンガリーがいかにソ連化していったかが語られていきます。商品紹介にもありますように、個々の事例において詳しく見ていくことでそれぞれの国が辿った道を明らかにしていくという流れになっています。

本書を貫く著者の主たるテーマは「全体主義」の実態解明にあると思われる。著者はこの概念に関してはさまざまなとらえ方があることを紹介したうえで、理論そのものよりも、「理論と実践においていかに機能したのかを把握する必要がある」と述べている。それは著者によれば、「二十世紀を理解するためには不可欠」だからだ。また、この概念は二十一世紀の現在においても「有益かつ必要な実証的説明」だとしている。

現実にもその政治体制がなお存在するほか、IT社会に生きる二十一世紀の世界にも同様の危うさがあると認識しているためだ。そこにはオーウェルの『一九八四年』も念頭にあるようだ。事実そのものよりも情動に訴える世論操作がまかり通る「ポスト真実」の時代である。SNSを駆使したフェイクニュースも現実の国際政治に影響を及ぼしている。そうした環境を考えると、本書は過去の時代検証にとどまらない。情報統制やプロパガンダ世界を詳述する内容は極めて現代性を帯びていることが分かる。

白水社、アン・アプルボーム、山崎博康訳『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』P319

ソ連がいかにして東欧を支配下に置いていったのかはオーウェルの『一九八四年』につながるものであり、さらにはITによる情報統制がますます強くなっている現代にもつながると訳者は述べています。

そしてもうひとつ、この本を貫く大きなテーマがあります。

もうひとつのテーマは、共産党による統治体制に組み込まれまいとした独立組織、「市民社会」の存在である。ソ連は共産主義体制の東欧への移植に当たって真っ先にソ連型秘密警察システムを導入、さらにメディア支配を通じて独裁権力の確立に努めながら、さまざまな抵抗形態を生み出し、やがて末路をたどっていく。ソ連支配が限界に直面し、全体主義が機能不全となる背景として「市民社会」の存在は侮れないと位置づけているようだ。その後の時代を見通せば、うなずける視点だろう。

なによりも、「献辞」がそのことを物語っている。これはチェコスロヴァキアの代表的な反体制知識人ヴァーツラフ・ハヴェルの『権力なき者たちのカ』を踏まえているのは明らかだ。冒頭に引用されるその言葉に著者が深く共感していることがうかがえる。「もし体制を支える主柱が偽りを生きることであるならば、体制への根本的な脅威とは真実を生きることであっても驚くに当たらない」とハヴェルは書いている。(ヴィクター・セベスチェン著『東欧革命1989 ソ連帝国の崩壊』一白水社、ニ〇〇九年)

そうした文脈で見ると、著者が本書で三カ国に焦点を当てた意図が鮮やかに浮かび上がってくる。一九五三年には早くもがベルリンで暴動が発生。またスターリン死後の五六年にはポーランドのポズナニで暴動が起き、それと連動してハンガリーの首都ブダぺストで動乱が勃発する。その状況を迫真のルポルタージュさながらに再現していく描写は本書の大きな読みどころのひとつだ。ソ連指導部が東欧支配に当たってあれほど入念に人間改造の「ホモ・ソヴィエティクス」育成を試みながら、その限界を思い知らされる。やがて訪れる破たんの予兆である。

白水社、アン・アプルボーム、山崎博康訳『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』P319ー320

この本を読んで驚かされたのはソ連の支配が戦後一瞬で完了したのではなく、さぐりさぐりで様々な過程を経て進んでいったということでした。

ソ連が東欧各地を実効支配しそれで鉄のカーテンが完成という単純な話ではなかったのです。

それぞれの国で様々な政治的背景がある中で、その地の共産党が政権を担うように仕向けるのですがなかなかそう簡単には事が進みません。驚いたことに各国で選挙まで行われていました。ソ連や現地共産党は共産党が圧勝すると思い込んでいましたが結果は惨敗。共産党が思いの他人気がないことが露呈します。そこで恐怖政治を用いて実効支配に向かって行ったというのが実際の流れなようです。

つまり、合法的に共産党が支持されて選挙で選ばれていたならそれでソ連や各国共産党はよかったのです。しかし選挙は大敗。それならばと軍事力や秘密警察を使って強制的に政権運営をするようになったのでした。

そして強力なプロパガンダ政策や教育プログラムを使って大衆を動かしていきます。

先ほどの引用でも出てきた「ホモ・ソヴィエテクス」という言葉が象徴的です。共産党政権は5歳の子供たちからソヴィエト的教育を施します。小さな頃から断続的に「ソヴィエト的人間とはかくあるべきか」を植え付けていきます。これは子供たちだけでなく全ての人間にも施される教育プログラムです。大人も理想的ソヴィエト人たる「ホモ・ソヴィエテクス」にならねばなりません。

こうして長期的な教育・社会プログラムによって人々を支配しようとしていったのです。

しかしことはそう単純にはいきません。いくらプロパガンダや教育プログラム、さらには恐怖政治による脅しや実力行使によっても完全には人間の心を支配はできません。

そしてついに1953年には東ベルリンで、1956年にはポーランドとハンガリーで大規模反乱が起きます。

この本ではそこに至るまでの過程を詳しく追っていきます。

ソ連がいかに鉄のカーテンを形成していったのかがよくわかります。ソ連が武力で実効支配してそれで終わりという単純な話ではなかったというのがすごくわかります。これは見過ごされがちな事実だと思います。私もここまで紆余曲折があって統治をしていたとは思ってもいませんでした。非常に興味深い事実が次々と出てきます。

ソ連がどのように他国を支配下に置いていったかということを知るには素晴らしい1冊です。とてもおすすめです。

以上、「『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56』戦後のソ連体制下の東欧を知るのにおすすめ!」でした。

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鉄のカーテン(上):東欧の壊滅1944-56

鉄のカーテン(上):東欧の壊滅1944-56

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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