保苅瑞穂『ヴォルテールの世紀 精神の自由の世紀』あらすじと感想~ヴォルテールの生涯をわかりやすく解説したおすすめ伝記!
保苅瑞穂『ヴォルテールの世紀 精神の自由の世紀』概要と感想~ヴォルテールの生涯をわかりやすく解説したおすすめ伝記!
今回ご紹介するのは岩波書店より2009年に発行された保苅瑞穂著『ヴォルテールの世紀 精神の自由の世紀』です。
早速この本について見ていきましょう。
「考える自由は人間の生命です」―絶対王政が崩壊に向かい、革命への予感が兆す一八世紀フランスにあって、ヴォルテールと名乗った男は、そう記した。生涯にわたって文化的に、そして政治的に巨大な存在であり続けたヴォルテールは、古代から同時代に至る文学・思想・芸術の圧倒的な教養を背景に、宗教権力や盲信と闘い、農奴解放のために奔走し、ついにはフランスの僻地フェルネーに共同体を建設する。彼を「ヴォルテール」たらしめたもの、それは「人間の生命」である精神の自由にほかならなかった。本書は、パリを追放され、べルリンの宮廷に招聘されたヴォルテールがプロシアを離れて以降の後半生を、一万数千通に及ぶ書簡を渉猟しながら克明に描き出す。そこに刻まれた激しくも伸びやかな軌跡は、この世紀のヨーロッパが生み出しえた最良の精神を今日に甦らせる。
Amazon商品紹介ページより
この作品は450ページを超える大作です。ですが一気に読めてしまうほどの面白さがこの本にはあります。著者の劇的な語り口によって、まるで小説を読んでいるかのような気持ちになります。
そして何より、ヴォルテールという人物の魅力!これに尽きます。
18世紀フランスの哲学者ヴォルテール。『哲学書簡』や『寛容論』、『カンディード』などで有名なヴォルテールですが、名前や作品は有名ではあってもこの人物がどんな時代に生きて、どんな生涯を送ったかというとほとんど知られていないというのが実際のところではないでしょうか。かく言う私も彼についてはほとんど知らなかったというのが正直なところでした。
ですがこの本を読んで驚きました。ヴォルテールという人物がどれほど革新的で、後の世にどれだけ大きな影響を与えたのかというのかが明らかになります。
1696年生まれのヴォルテールが生きたのは18世紀のヨーロッパです。彼が亡くなる1778年までのヨーロッパでは狂信による悲惨な争いや出来事がまだまだたくさんあった時代でした。
カトリックとプロテスタントとの争いが互いをより攻撃的にし、些細なきっかけでも狂信の熱によって処刑やリンチが行われてしまう危うい時代だったのです。
私は以前、こうした宗教的不寛容、狂信について描かれた本、トビー・グリーン著『異端審問 大国スペインを蝕んだ恐怖支配』を当ブログで紹介しました。
当時のフランスやドイツ、スイスなどでも、スペインほどではありませんが政治権力と宗教権力の結びつきは強く、民衆の狂信もやはり危険なほど強まっていたのでありました。
そんな中ヴォルテールは狂信による悲劇を食い止めるべく筆の力で戦おうとするのです。過激な反対運動ではなく、あくまで人間精神の自由を信じ、寛容な理性を説き続けたのでした。口でこのように彼の偉業をまとめるのは簡単なことですが、その時代にあってはこれがどれだけ凄まじいことだったことか・・・
そして彼と同時代人のルソーとの関係。2人とも人間の「自由な精神」を追求するも性格も思想も全く異なり、犬猿の仲になってしまいます。この2人の比較も非常に興味深かったです。
当時のヨーロッパの時代背景やヴォルテールが何に怒り、何を変えようとしていたかがはっきりとわかる素晴らしい伝記です。教科書などで名前や書名だけで知るヴォルテールとは全く印象が変わります。そして本の中でも語られているのですが、ヴォルテールを学ぶことは今の時代を生きる私たちにも必ず繋がってきます。
ヴォルテールはその哲学だけでなく、彼の人間性によって多くの人を惹き付けたのでした。
貧しい村の人々を救ったり、狂信による犠牲者を救うために奔走するヴォルテールをこの本では知ることができます。機知に富み、社交の才もあったヴォルテールの館へはるばるやって来る無数の人々。ヴォルテールの人柄がとても伝わってきます。
この本は非常におすすめです。西欧思想を学ぶためにも非常に有益な1冊だと思います。とにかく面白かったです!ぜひ読んで頂きたい1冊です!
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