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ザフランスキー『ショーペンハウアー』あらすじと感想~時代背景や家庭環境まで知れるおすすめ伝記

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R・ザフランスキー『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』概要と感想~時代背景や家庭環境まで知れるおすすめ伝記

ショーペンハウアー(1788-1860)Wikipediaより

今回ご紹介するのは1990年に法政大学出版局より出版されたリュディガー・ザフランスキー著、山本尤訳『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』です。

著者のザフランスキーは以前当ブログでも紹介した『ニーチェ その思考の伝記』の著者でもあります。

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この本が非常にわかりやすく、そして何より面白かったので著者の他の作品も読んでみたいなと思い探していたところ出会ったのが今回ご紹介する『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』という作品でした。

ニーチェはショーペンハウアーの影響を強く受けていたということから、ショーペンハウアーについてもっと知りたいなという思いが元々あったのでこの本はまさに私の思いにぴったりな一冊でした。

では早速この本について見ていきましょう。

内容(「BOOK」データベースより)

商人の徒弟修業から一転して学問の道へ。両親やゲーテと確執の末訣別し、大学社会からも離脱、傷だらけになりながら思索する日々。ナポレオン戦争や48年革命の時代のドイツ諸都市を舞台に、その生涯及び〈号泣と戦慄と叫喚〉を秘めた独創的哲学の形成過程を描く傑作伝記。

Amazon商品紹介ページより

ここで傑作伝記と紹介されていますように、この本はショーペンハウアー伝の傑作として世界的に評価されています。

訳者あとがきでこの本の特徴が解説されているので少し長くなりますが引用します。

堅苦しい哲学を主題にした書物でありながら、ドイツで大きな話題になり広く読まれたのは、著者ザフランスキーが大学で哲学を学びはしたものの、哲学の専門家というわけではなく、「まえがき」にあるように本書が「哲字に寄せる愛の告白」ではあっても、哲学プロパーの専門家の手になる解説書や啓蒙書ではなく、また伝記と銘打たれてはいても、「一つの伝記」とあるように、伝記作家の綿密な考証による偉人の生涯の畏敬の念に満ちた再現とも一味も二味も違っているところから来ている。

それというのが、もちろん主題はショーぺンハウアーであって、ショーぺンハウアーがいかに彼の哲学に至り着いたか、そしてこの哲学がこの哲学者を何にしたかが一貫して本書の縦糸になってはいるが、何よりも本書の特徴は、カント以来、フィヒテ、シェリング、ロマン派の哲学、へーゲル、フォイエルバッハ、若きマルクスの活躍した、著者の言う「哲学が荒れ狂った時代」の中で、思索すること哲学することがどのように行われ、どんな意味をもっていたのか、これなショーペンハウアーという人物のまわりの文化的状況を横糸にして立体的に記述し、目次を見てもわかるように、小説もどきに構成しているからである。

父親との精神的葛藤、偉大な哲学者にこうした裏面があるとは想像もできないような、母親との醜いいさかい、妹との不幸なつながり、周囲の社会とのぎすぎすした関係、講壇哲学に敵意を抱き続けた偉大な独創的な思想と傷だらけの日常生活のいわば「二重生活」が残された書簡や当時の人々の証言を縦横に駆使して語られていて、その語り口は文学作品とも言え、おそらく哲学の専門家には考え及ばない視点からのものである。

それ以上に本書を生き生きとさせているのは、ショーぺンハウアーの生涯に絡ませたダンツィヒ、ハンブルク、ワイマール、ベルリン、ドレースデンその他の都市の当時の状況、ワイマールでのゲーテやロマン派の文学者たちの状況、当時の大学や哲学に限らず一般的な学問の状況、ナポレオン戦争や三〇年革命、四八年革命などの政治的状況の描写であって、これらが本書を極めて興味深い読み物にしている。

著者ザフランスキーは、ジャーナリストとしての、また市民大学での経験に基づいてであろうか、ショーペンハウアーの生涯とその文化史的状況を生き生きと語りながら、哲学な語ることで、読者に哲学について考えてもらおうとしているのである。

ドイツの十八、十九世紀の哲学、著者の言うあの「哲学の荒れ狂った時代」のドイツ観念論哲学は、哲学の歴史に大きな足跡を残した。どうしてあんなにまで興奮して思索がなされ、あんなにもその思索に興奮させられたか、現代のわれわれには不思議な気さえする。その熱気が本書に実に巧みに再現されている。
※一部改行しました

法政大学出版局、リュディガー・ザフランスキー、山本尤訳『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』P623-624

この本もとにかく面白かったです。ショーペンハウアーというと厳めしい哲学者というイメージがありましたがこの本を読んだことでだいぶそのイメージも変わりました。

ショーペンハウアーの著作については、以前このブログでも紹介しましたがやはりなかなか理解するには手強い存在です。特に主著『意志と表象としての世界』は太刀打ちできないほどの難しさでした。

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ですが、ザフランスキーの著作を読んだことでこの本でショーペンハウアーが述べようとしていたことが少しずつ見えてくるようになりました。

ザフランスキーの著作では当時の時代背景や思想の流れを解説してくれます。ショーペンハウアーが生きた時代や人となりを知った上で読むとまったくその本が違って見えてきます。

やはり抽象的な「思想」といえど、それは「生きた人間」から生み出されるものです。その思想だけ見ようと思ってもなかなか理解するのは難しい。思想もその時代や社会、人間と密接に関わり合って生まれてくるのだということをこの本では考えさせられます。時代背景がわかればぐっとその思想がわかりやすくなる。その素晴らしい例がこの著作であるなと思います。

この本はショーペンハウアーが主人公ですが、同時代を生きたゲーテやヘーゲルも出てきます。ヘーゲルに関してはマルクスにも強い影響を与えた人物ですので、マルクスを考える上でもこの本は非常に大きな意味があります。

難解で厳しい哲学を生み出した哲学者ショーペンハウアーだけではなく、人間ショーペンハウアーを知れる貴重な伝記です。この本が傑作と呼ばれるのもわかります。単にわかりやすくて面白いだけではなく、ものすごく深いところまで私たちを導いてくれます。

ショーペンハウアーの影響を強く受けたニーチェを知る上でもこの本は非常におすすめです。

18、19世紀のドイツの社会事情を知ることができ、ドストエフスキーを学ぶ上でも大きな収穫でした。これまで私はカントやヘーゲルなどのドイツ観念論が苦手でひたすら避けていたのですがこの本を読んだことで興味が湧いてきました。難解な哲学も時代や歴史、社会情勢と密接につながっていることを知ったことで、これならなんとか学んでいけるかもしれないと身近に感じられるようになってきました。

何はともあれ、非常におすすめな一冊となっています。ぜひ読んで頂ければなと思います。

以上、「R・ザフランスキー『ショーペンハウアー 哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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