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ロマネスク、ゴシック、バロック~教会建築とそれに秘められたメッセージとは チェコ編⑪

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ロマネスク、ゴシック、バロック~教会建築とそれに秘められたメッセージとは 僧侶上田隆弘の世界一周記-チェコ編⑪

さて、今回は前回の記事「マラーストラナの聖ミクラーシュ教会~プラハ散策の穴場!圧倒的な存在感を放つ彫像達 チェコ編⑩」の後半で述べたように、教会建築の違いとそこに秘められた教会のメッセージを紹介していきたい。

まずはロマネスク様式。プラハ城内にある聖イジ―教会を参考にしていこう。

建物の特徴として、窓が小さく、分厚い壁で囲まれた空間が挙げられる。

そのため、教会内は薄暗く、重たい雰囲気が漂う。

建物を支える太くて重心の低い柱が、一層教会の雰囲気に重さを加えている。

キリスト教が西暦4世紀になってようやく大きな発展を迎えるようになったことは以前もお話しした。

それまでは迫害されていたため、大きな教会などを持っていなかった。

そのため、初期キリスト教徒は小さな集会所に集い、礼拝を行っていた。

このロマネスクもその集会所の延長線上にある。

キリスト教徒が皆で共に祈りを捧げる礼拝の場としての役割。

祈りは厳粛なものだ。

だからこそ、重みがある空間作りになっている。

そして13世紀に入ると、建築界において革新的な技術が生まれる。

それが聖ヴィート大聖堂のようなゴシック様式だ。

1番の特徴はその高い天井。

この技術の革新的なところは、天井のアーチを尖らせることにより、ロマネスクのような重厚な壁と柱を用いることなしに高い天井を作ることを可能にしたところだ。

そして分厚い壁が不要になったことにより、巨大な窓を作ることができるようになった。

細く、垂直に高く伸び上がっていく柱のラインは、見る者にまるで石が天に舞い上がっていくかのような軽やかなイメージを与える。

そして巨大な窓に設置されたステンドグラスからは様々な色の光が降り注ぐことになる。

この時代のキリスト教会は、まさしくこのような美しくも軽やかで、そして幻想的な舞台としての教会建築を求めていた。

というのも、この頃の教会は集団の礼拝場としての役割だけではなく、教育の場としての役割や、奇跡が行われる舞台という側面が強くなっていたからだ。

もはや単に礼拝をするだけでは人々の需要を満たせていなかった。

教会側からしても、当時の字も読めない人々にいかに効果的に『聖書』の言葉を伝えるかということが問題となる。

そのためにはやはり絵画や像を使うことが効果的な方法だったのだ。

だが、さらに言えば教会の建築そのものが『聖書』の教えを体現していることがベストであると考えられた。

また、この頃には聖餐という儀式が司祭によって執り行われていて、これが非常に重要視されていた。

これはパンとぶどう酒が神の奇跡によって実際にイエスの体と血になるという儀式。

神の奇跡がまさしくここで行われ、目の前のパンとぶどう酒にキリストが宿る。

そのような信仰が当時の中心的な教えだった。

そして、教会側も従来の暗く重々しい雰囲気の建物ではなく、その奇跡にふさわしい神秘的な舞台を求めていたのであった。

『聖書』そのものとしての教会、そして神の奇跡の舞台としての教会。

教会が求めていた二つの理想。

それらが完璧に体現されたのが13世紀に発明された、このゴシック建築だったのだ。

思い出してほしい。

ステンドグラスから降り注ぐ様々な光。それは光の魔法のような美しさだ。

この幻想的な光の世界。

そして天に舞い上がっていくかのような柱の構造。

見る者は思わず天を仰いでしまう。

神の奇跡の舞台として、これほどふさわしい舞台はかつてどこにも存在しなかった。

そしてキリストの教えはまさしくそのような奇跡を教えている。

この神秘的な空間で、人々は『聖書』に説かれた世界を感じ、自分達がその世界の中にいることを実感する。

この当時の教会は信徒による集団礼拝よりも、神の力をこの場に顕現させる司祭の儀式に重きを置いていた。

神の奇跡を行う代理人としての司祭の働きが重んじられ、その司祭によって人々は導かれる。

「神の奇跡はまさしくここにあります。

この美しい光の魔法、そして天をも仰ぐこの教会。

神の力はあなたにも降り注ぎます。

神は必ずやあなた達にも奇跡をお与えになるでしょう」

そのような教えがゴシックの建築から与えられるメッセージなのだ。

ちなみに先日火事で焼けてしまったパリのノートルダム大聖堂は、このゴシック建築の代表であり最高傑作の一つと言われていた。

パリのノートルダム大聖堂(2013年)Wikipediaより

最後にバロック建築の代表、聖ミクラーシュ教会を見ていこう。

さて、これまでの教会との違いがわかるだろうか。

ぜひ、じっくりと観察してほしい

ヒントはバロック様式が17世紀、18世紀に繁栄した教会建築だということ。

つまり、対プロテスタントへの上書きの時期に繁栄したということだ。

おわかりになられただろうか。

そう、バロックは像がものすごく多い。

そして豪華で華やかな装飾で満ちている。

これが大きな特徴だ。

この時期の教会はカトリックとプロテスタントに完全に分離し、なおかつカトリックは戦争で勝利を収めた。

しかしそれでも、人々の心をカトリック側に引き戻すのは並大抵のことではなかった。

そしてなお悪いことにカトリック側の信徒にも動揺は広がっていたのである。

そこでカトリックは文化によって人々の心をまた引き戻そうとした。

そしてその最大の支援者になったのがハプスブルグ家。

ハプスブルグはスペインやドイツ、オーストリアを支配する巨大王朝。

特にスペインはコロンブスが発見したアメリカ大陸から莫大な量の黄金を持ち帰って来ていた。

ハプスブルグ家はその黄金を惜しげもなく使って、教会を豪華に飾り立てていったのだ。

どうだろう。その豪華さが伝わるだろうか。

もはや宮廷のような姿をしていると言ってもいいのかもしれない。

それもハプスブルグ家という貴族文化の影響とも言えるだろう。

そしてカレル橋の聖人像でも触れたように、像がいたるところに配されている。

これもこの時期の教会建築の特徴であると言える。

これらの特徴が発するメッセージは次のようになる。

「私達はあなた達を導きます。

神の教えを信ずるものはこのような素晴らしい世界に行くことが出来るのです。

あの聖人像を御覧なさい。

立派なお姿のあのお方は必ずやあなたを救いに導くでしょう。

プロテスタントの言うことには耳を傾けてはなりません。

彼らは『聖書』だけあればいいと言います。

しかしそれは嘘です。

これほど素晴らしい世界を見ればそれは自明のことではありませんか。

私達に付いてくればいいのです。

そうすればあなたは救われるでしょう。」

ということになる。

ざっくりとではあるが、ロマネスク、ゴシック、バロックという3つの教会建築について話させていただいた。

改めてその特徴をまとめてみると、

ロマネスク→重厚な造り、礼拝、集会場としての教会

ゴシック→高い天井と細い柱、大きな窓、光の魔法、奇跡の舞台としての教会

バロック→多くの聖人像と豪華な装飾、反プロテスタントとしての教会

これがわかるだけで、どの教会に行った時も、これは何の建築だろうか?どんな意味が込められているのだろうか?と謎解きしながら観察することができる。

すると、今まで漠然と見ていた教会が急にぼく達にメッセージを発するようになってくる。

次の記事では聖ミクラーシュ教会を題材にして、実際にぼくがどのように教会建築を観察したのかをお話ししていきたい。

聖ミクラーシュ教会の像達は驚くほどぼくにメッセージを投げかけてきた。

みなさんが教会やお寺にお参りに行かれる際に少しでも楽しさを感じられる手助けになれたら嬉しく思う。

続く

次の記事はこちら

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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