大鷹節子『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』あらすじと感想~大国ドイツとチェコの複雑な関係とは
大鷹節子『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』概要と感想~大国ドイツとチェコの複雑な関係とは
今回ご紹介するのは1998年に読売新聞社より発行された大鷹節子著『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』です。
では早速この本について見ていきましょう。
ナチス・ドイツによるチェコスロバキア解体と第2次世界大戦後の「ズデーテン・ドイツ人」の運命。現在の両国に真の和解はあるか?チェコの視点から探る。
チェコがNATO、EUに加わるために、解決しなくてはならない問題がある…。ドイツの圧力は正統なのか。「ズデーテンドイツ人」の問題の解釈とその歴史的背景を、小国チェコの視点から描く、ユニークな書。
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大鷹節子氏は前回紹介した『私はチェコびいき 大人のための旅案内』の著者でもあります。
この本は、「百塔の都、きらめくプラハ。しかし美しい景観だけでなく、チェコ人の平和主義、温かさ、優れた芸術的資質など、チェコの魅力は奥深い。愛情溢れる、大人のための旅案内。」と紹介されるように、プラハの魅力を紹介したものになります。
それに対して今回の 『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』 では大国ドイツによってチェコがどのように圧迫され続けているのか、その関係性はいかなるものかということが語られていきます。
これまでの記事でも1968年のプラハの春についてはご紹介してきました。チェコはソ連の抑圧下で苦難の歴史を歩んできました。
ですがそのおよそ30年前。1938年のミュンヘン協定によってチェコはナチスドイツの支配下に置かれることになり、その後ドイツに蹂躙されチェコという国は消滅することになってしまいました。
ドイツとチェコは国境を接し、単に地理的に近いだけではなく中世より政治的、文化的にも非常に密接なつながりがありました。
そして両国間の火種として最大のものがズデーデン問題でした。ズデーデン地方には古くからドイツ系のチェコ人が多数住んでおり、このドイツ系チェコ人の帰属を巡り両国の複雑な関係があったのでした。
この本ではこのズデーデン問題を中心に語られていきます。そしてなぜこの問題が起こってきたのかというのをチェコの歴史を振り返りながら解説されます。
そしてそこから大戦後からソ連崩壊後の現在に至るまでの二国間の関係も見ていきます。
ここでうまくまとめることはできないのですが、大国ドイツが1998年(※この本の出版年)に至ってもチェコに強力な圧力を与えていることをこの本では知ることになります。圧倒的な武力、経済力を誇るドイツの外交的な圧力、したたかさは読んでいて恐ろしくなりました。
これがヨーロッパの現実なのだと。国際政治の場では一見平和的な言葉を用いながら、自国の力を利用して有無を言わさず相手国の力を削ぎ屈服させる。その過程をまさしくこの本で目撃することになります。この本を読めばかなりショックを受けると思います。あまりに理不尽なことがドイツからチェコに要求されていることがこの本でわかります。
私は以前ボスニア紛争で起こったスレブレニツァの虐殺についてこのブログで紹介してきました。そしてそれを経て私は「アーレントの「悪の陳腐さ」は免罪符になりうるのか~権力の歯車ならば罪は許される?ジェノサイドを考える」という記事を書きました。
この記事では「悪の陳腐さ」が免罪符として使われることに対して私が疑問に思ったことを述べたわけですが、この『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』でもまさしくそのことを感じたのでありました。
この本で語られるヨーロッパ同士の戦後問題の駆け引きは私達日本人の想像を絶するようなものでした。ですがそれが私達一般の人にはなかなか見えてこない。あくまで私達が知ることができるのはドイツをはじめとした大国側からの情報ばかり。チェコ側の視点で書かれ、報道されたものはほとんどないと著者は述べていました。
そしてEU内でも圧倒的な地位、パワーを持っているドイツには他国も口出しできません。
そうしたヨーロッパ内のパワーバランス、現実もこの本では知ることができます。
この本はとにかくショッキングでした。ドイツに対する見方が変わりました。いや、国際政治の恐ろしさそのものを改めて感じたと言えるでしょう。
プラハの苦難の歴史を知れるだけでなく、国際政治を考える上でも非常に素晴らしい作品です。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「大鷹節子『チェコとドイツ 愛と憎しみの関係』今も続く大国ドイツによるチェコへの圧迫」でした。
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