鎌田茂雄『観音さま』あらすじと感想~観音菩薩の歴史や観音信仰の流れを知れるおすすめ解説書
鎌田茂雄『観音さま』あらすじと感想~観音菩薩の歴史や観音信仰の流れを知れるおすすめ解説書
今回ご紹介するのは2018年に講談社より発行された鎌田茂雄著『観音さま』です。
早速この本について見ていきましょう。
その相(すがた)は、仏から菩薩まで三十三変化。苦しみの中で名を唱えれば、即時に現れ、深い智慧で病やすべての辛苦から救ってくれる……。古来、インド、中国、東南アジア、日本で救世主として愛され続けてきた<観音さま>。そもそも観音はいつ、どこで生まれたのか。中国文化や日本文化に果たした役割は? 歴史的背景や、様々な観音像を検証し、法華教の経典をひもときながら、「観音信仰」の真髄を探る。
Amazon商品紹介ページより
本書は日本でも親しまれている観音菩薩について知ることができるおすすめ参考書です。
著者は本書冒頭で観音菩薩について次のように述べています。
仏教にはたくさんの仏や菩薩が説かれているが、もっとも人々によく知られ親しまれているのが観音菩薩である。それは中国でも韓国でも日本でも同じである。
中国大陸のどんな寺院、それは香港でも、台湾でも、東南アジアの華人社会(中国大陸から海外に移住した中国人の社会)にある寺院でも同じであるが、必ず大雄宝殿(お寺の中心になる建物、本堂)の中央にある釈迦仏などの本尊仏の背後には、観音が祀られている。
それらの観音は立っている姿がほとんどであるが、南海大土とか慈航大士とか呼ばれて中国の民衆に親しまれている。寺院によっては別に立派な観音殿があり、観音を祀ってあるところもある。韓国においても観音はいたるところに祀られており、多くの信者がいる。
学生時代に修学旅行で京都や奈良を訪れ、有名な寺院をまわり、たくさんの仏像を見たという読者の方も多いにちがいない。奈良の大仏のような大きな仏像だけでなく、法隆寺や広隆寺などの古い由緒ある寺院の中で、静かに安置されている仏像を見たことであろう。
しかし、その仏像が何であったかなどということは、ほとんど関心もなく覚えていないのではなかろうか。実はそれらの仏像の中に奈良・法隆寺の救世観音、法華寺の十一面観音、東大寺の不空羅索観音、広隆寺の如意輪観音、京都・三十三間堂(蓮華王院)の千手観音など、多くの観音像があったはずなのである。
どんな人でも人生において思わぬ不幸に出遭うことがある。交通事故などによって一瞬にして可愛い子供を亡くした親の悲しみはいかばかりであろうか。病によって配偶者に先立たれることもある。事故や病気は人生に必ず起こるものである。
そんなとき、生きる希望を失った人の、生きる支えとなり、心の糧となるのが宗教であるが、その中でもっとも多くの人々の信仰を集めてきたものが観音なのである。人間のあらゆる苦しみを救ってくれるという柔和な表情の観音の前で合掌することによって、心の安泰が得られる人は数多くいる。心の苦しみや不安をやわらげるために近くの観音を拝むだけでなく、遠く西国三十三所などの観音霊場をまわる人々も決して少なくない。
もともと仏教はインドに起こり、中央アジアを経て、西域を通り中国へ伝えられた。中国に伝わった仏教は、東アジアの仏教の中核となり、さらに朝鮮や日本に伝えられた。観音も初めはインドで成立した菩薩であったが、やはり中央アジア、西域を通って、中国から東アジア世界に伝えられてきた。そして中国においては女性化が進行し、女神のように慈悲深いとして造形されて、多くの民衆に信奉されてきたのである。(中略)
わたしたちにとってもっとも身近な仏である観音についての種々相を知っていただき、中国文化や日本文化に果たした観音の役割を理解していただければと思う。
講談社、鎌田茂雄『観音さま』P3-6
私達日本人にも馴染み深い観音菩薩でありますが、この引用にありますようにいざ観音菩薩とはどのような存在なのかと言われると意外とわからないですよね。私もそうでした。
インドから伝わってきた大乗仏教の菩薩たる観音さまでありますが、いつ、どこで生まれ、どのように伝わっていったのか、それを本書では知ることができます。
著者の鎌田茂雄氏は当ブログでも紹介した『仏教の来た道』、『中国仏教史』の著者であります。本書『観音さま』はその中でも特に一般読者向けに書かれていますのでとても読みやすい一冊となっています。
当ブログではここ最近中国史の本を更新していますが、中国の歴史を知った上でこの本を読むとさらに深く仏教を知ることができます。やはり観音さまの誕生や流行にも当時の時代背景が関わってきます。歴史を知ったからこそ見えてくる思想の奥深さというものを実感します。
また、観音菩薩は大乗仏教の菩薩ということでしたが、昨年私は上座部仏教の国スリランカを訪れ、ジャングル奥地の観音菩薩像と対面してきました。
スリランカといえば大乗仏教とは異なる上座部仏教の国というイメージがありますが、かつてこの国にも大乗仏教が栄えていた時期があったのです。そしてその時に作られた観音菩薩像がジャングルの中に残っていたのでありました。観音菩薩が東アジアだけでなくスリランカにも伝わっていたというのは私にとっても興味深いものがありました。
また、観音菩薩といえば変化能力で有名です。観音さまはその時の状況に応じて様々な姿をとって苦しむ者を救ってくれます。
私も大好きな三十三間堂の千手観音もその変化のひとつです。上で紹介した観音菩薩の画像はシンプルな姿でありましたが、この千手観音になると、まさに文字通り手が千本という変化をしています。このように観音さまは、「〇〇観音」という様々な姿で私たちを救済します。「如意輪観音」や「不空羂索観音」「馬頭観音」などもその例になります。
こうした変化の由来やその意味なども本書ではわかりやすく解説されますので、仏像好きの方にも必読の一冊となっています。
文庫サイズで200ページ弱というコンパクトな分量となっていますので手に取りやすいのもありがたいポイントです。中国史・中国仏教の流れで手に取った本書でしたが実に刺激的な読書となりました。ぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「鎌田茂雄『観音さま』あらすじと感想~観音菩薩の歴史や観音信仰の流れを知れるおすすめ解説書」でした。
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