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佐々木閑『出家とはなにか』あらすじと感想~そもそも僧侶とは何なのか。日本仏教や戒律について考えるためのおすすめ参考書

出家とはなにか 佐々木閑
目次

佐々木閑『出家とはなにか』概要と感想~そもそも僧侶とは何なのか。日本仏教や戒律について考えるためのおすすめ参考書

今回ご紹介するのは1999年に大蔵出版より発行された佐々木閑著『出家とはなにか』です。

早速この本について見ていきましょう。

見えてくる律なき仏教国の宗教的危機。「律」規定に基づくインド仏教の出家と僧団生活を社会との関わりを中心にして徹底描写する。

律蔵、特にパーリ律を基本資料として、シャカムニ時代及びそれに続く数百年間に及ぶインド仏教僧団の、現実の生活状況を具体的に描写し、仏教における僧団生活の基本理念を示す。

Amazon商品紹介ページより

本書『出家とはなにか』はその書名通り、出家とはそもそも何か、僧侶とは何かということを見ていく作品です。上の商品紹介の「律蔵やパーリ律を基本資料として」という言葉から本書は何やら難しそうだなという印象を受ける方もおられかもしれませんがご安心ください。佐々木閑先生の語り口は非常にわかりやすく、とても読みやすいです。

佐々木閑先生の著作は以前当ブログでも『仏教の誕生』という入門書をご紹介しました。

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全く仏教の知識のない方でも楽しんで読めるようこの本は書かれているので初学者の方にも安心です。また、仏教のことをある程度知っている方にとっても「ほお!そういう考え方があるのか!」という新たな発見があります。仏教における戒を信号機に例えたお話には私もポンと膝を叩きました。とても信頼できる学者さんです。その佐々木先生が手掛けた本ですので『出家とはなにか』も安心のクオリティーです。

本書について巻末のあとがきでは次のように述べられています。

律蔵、特にパーリ律を基本資料としてインド仏教僧団の出家生活を概観してきた。語るべきことは多々あるが、シャカムニ教団の基本理念を端的に示すことを本書の目的としたため、それにふさわしい主題をいくつか選び出し、的を絞って紹介した。基本は乞食である。実際に乞食してまわるにせよ、あるいはおよばれに行くにせよ、「人からもらって食べる」という生き方が仏教僧団のあり方を絶対的に決定する。外界に対してオープンであること、世俗の通念に背を向けることができないこと、一般社会と親密かつ良好な関係を維持せざるを得ないこと、いたずらに権力を志向しないこと、といった仏教僧団の特性はすべて乞食という生き方に由来する。それは仏教僧団だけの特殊な生き方ではない。当時のインドで数多くの沙門集団がこの道を採用していたことは間違いない。しかし中でも仏教は徹底してこの方針を守ろうとし、その結果、律蔵というきわめて特殊な法体系を生み出した。極論すれば律蔵とは他者に依存して生きる集団の理を成文化したものとも言えよう。

現在我々の眼前にある様々な仏教集団は等しくシャカムニの末裔を名乗る。もちろんシャカムニ当時と全く同じ形態の僧団などどこにも存在しないが、しかしシャカムニの末裔を名乗る以上はなにほどか、その基本理念を保持しているはずである。教義・教説の問題ではない。その集団がいかなる手段で生計を立て、外部社会との関係をどう設定しているかという現実面での立場が重要な判断基準となる。それがシャカムニの引いた基本の設計図に沿ったものか、それとも逸脱したものか、逸脱しているなら、どこがどの程度逸脱しているのか。この点を明確にすることが重要なのである。そしてそれは律蔵という仏教僧団独自の法体系との比較によって初めて明らかになる。この作業の一助となることを願って本書を上梓する。訂正、追加すべき点も多々あるに違いない。読者諸氏のご意見ご批判を期待している。

大蔵出版、佐々木閑『出家とはなにか』P291-292

私は浄土真宗の僧侶です。浄土真宗の開祖親鸞聖人は「非僧非俗」、つまり僧にもあらず、俗にもあらずという独特な戒律観、出家観を主張した僧侶でした。その中でも有名なのが妻帯です。まさにこれは上で佐々木先生が述べていたインド仏教からの明らかな逸脱です。しかし日本ではこうした戒律からの逸脱が行われたまま仏教が社会に溶け込んできたという歴史があります。ではその理由は何だったのか、インドやスリランカと何が違うからこういう状況になったのか、そして何をもって仏教教団と名乗っているのかということは改めてしっかり考え直さなければならないと強く感じました。もはや「なあなあ」で済まされる時代ではないと危機感を抱いています。

この本ではそうした日本仏教の独自性についても語られます。やはり比べてみるからこそ見えてくるものがあります。インドやスリランカの初期の仏教の生活実態もこの本では詳しく見ていけるのでとても刺激的です。

これは自分自身の実感なのですが、自分が浄土真宗に属しているとどうしても真宗の視点で書かれたものや親鸞思想に特化したものを読む機会が多くなってしまいます。これは真宗僧侶として当然のことですし、むしろ自身の宗派の教えがわからなければ本末転倒ですが、やはりここで一歩引いて他の仏教の姿を知ることは自分の宗派を知る上でも大きな意味があるなと感じます。これからもそうした視点を持ちながら仏教について学んでいきたいと思います。

本書は仏教の全くの初学者には少し厳しいですが、仏教をもっと知りたい方にぜひぜひおすすめしたい名著です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「佐々木閑『出家とはなにか』~そもそも僧侶とは何なのか。日本仏教や戒律について考えるためのおすすめ参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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