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P・マティザック『古代ローマの日常生活』あらすじと感想~古代ローマ人はどのように暮らしていたのか!刺激的なおすすめ参考書

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P・マティザック『古代ローマの日常生活』概要と感想~古代ローマ人はどのように暮らしていたのか!刺激的なおすすめ参考書

今回ご紹介するのは2022年に原書房より発行されたフィリップ・マティザック著、岡本千晶訳の『古代ローマの日常生活 24の仕事と生活でたどる1日』です。

早速この本について見ていきましょう。

ハドリアヌス治世下におけるローマのある1日を、そこに暮らす24人の視点から案内するユニークな歴史読み物。夜警から法学者、御者にパン屋に剣闘士まで、「世界都市」で日々を暮らすローマ市民のリアルな生活があざやかによみがえる。

Amazon商品紹介ページより

この本は紀元137年、ハドリアヌス帝治世下のローマの一般庶民の生活について語られた作品です。

この作品の特徴について著者は「はじめに」で次のように述べています。

時は紀元137年の9月上旬。ローマの帝国は権力の頂点まであと一歩のところまで来ている。タシロワシの徽章はメソポタミアおよびダキアへと運ばれた(そして、メソポタミアに関しては再び引いた)。テムズ川からテイグリス川にいたるローマ帝国は強大で、恐れ敬われる存在となっている。

本書で出会う人々の大半は、そんなことはあまり気にしていない。彼らにとって人生とは、帝国の栄華を称えることではなく、家賃を稼ぐこと、世話が焼ける親戚、家や仕事で生じる日々の課題に対処することなのだ。ローマはこの世で最も偉大な都市かもしれないが、それでもやはり、ここで暮らす人々は往来を通り抜け、隣人とうまく付き合い、市場で手頃な価格の美味しい食べ物を見つけなければならない。

本書ではハドリアヌス治世下におけるローマのある1日を紹介し、この町の住人の24時間をさまざまな視点から見ていく。まずは夜の第6時から始めるが、これがなかなか紛らわしい。ローマ人の1日、24時間は真夜中にスタートするが、夜の時間はその前の日没から数え始めていた。これはローマ人と現代の我々とでは、世界の見方が多くの点で異なっていることの一例にすぎない。

現代の読者の目で見ると、ここで描かれる人々の多くは、不公平かつ非常に不平等な社会で惨めな短い人生を送っている。感染症や病気による死と隣り合わせが日常だ。医療や警察活動は未発達で、社会福祉はほとんど存在しない。彼らにとって不正や病気はどこにでも見られる危険であり、耐えるべき、受け入れるべき危険なのだ。欠点や不便は数々あれど、ローマはやはり、世界中のどこと比べても住むには良い場所だと言っていい。ほかのあらゆる場所と同じ欠点はあるものの、ローマの利点はほかとは比べものにならない。

ローマの人々は町をぶらぶら歩きながら、記念碑や町の見事な建造物をぽかんと眺めて多くの時間を費やしているわけではない。彼らには続けていかねばならない生活があり、我々が晩夏のこの1日でざっと見ていくのはそのような生活だ。ただし、その主たる目的は、ローマの個々の人々の生活について我々が何を発見できるのではなく、ローマそのものについて、彼らが我々に何を語ってくれるかという点にある。ギリシア人やローマ人は、城壁や建物や道路を取り除いたとしても、町があることに変わりはないと信じているからだ。

そこで暮らす人々こそローマなのだ。後世の観光客が賞賛する建物や記念碑は二次的なもので、それを建設し、それに囲まれて暮らしてきた人々の物理的痕跡として重要であるにすぎない。というわけで、本書には記念碑がほとんど登場しない。我々が遭遇する建物は、一連の不毛な廃墟ではなく、活気があって多層的な、カを試される環境の一部なのだ。

原書房、フィリップ・マティザック、岡本千晶訳『古代ローマの日常生活 24の仕事と生活でたどる1日』P8-9

「彼らにとって人生とは、帝国の栄華を称えることではなく、家賃を稼ぐこと、世話が焼ける親戚、家や仕事で生じる日々の課題に対処することなのだ。ローマはこの世で最も偉大な都市かもしれないが、それでもやはり、ここで暮らす人々は往来を通り抜け、隣人とうまく付き合い、市場で手頃な価格の美味しい食べ物を見つけなければならない。」

この文章を読んで私はハッとしました。

ローマ帝国の歴史を学ぼうとするとどうしてもハンニバルやカエサルなどの英雄や、カリグラやネロの壮絶な暴君、強力なローマ帝国を築き上げた五賢帝などの大いなる人物たちの歴史にどうしてもフォーカスしてしまいがちですし、コロッセオやパンテオンなどの壮麗な建築物にも目を奪われてしまいます。

ですが上で述べられたように、実際に古代ローマを生きていたほとんどの人たちにとってはそんな巨大な歴史は関係なく、今を生きる私たちと同じような日常生活を送っていたのです。

これは意外と盲点ですよね。

歴史の大きな流れを読み取ろうとすると、そこに生きる一人一人の人生が見えなくなってくる。

ですがその一人一人の人生の集合が大きな歴史でもあるわけです。

理論的に大きな流れを頭で考えていくと世界観がすっきりします。ですが実際にそこで生活している人たちはそれこそ千差万別。歴史書に出てくる英雄だけで世界が動いているわけではありません。ここが歴史を学ぶ上で難しいポイントであり、同時に面白さが溢れてくる場面でもあります。

大きな流れを見つつも、一人一人の人生も想像する・・・これは歴史の醍醐味ですね。

この本はまさにそんな醍醐味を味わえる作品です。

上の本紹介にもありますようにこの本では24人の職業や暮らしが生活感たっぷりで語られます。まるで彼らの生活を覗いているかのような気分になれる作品です。

著者の語り口も絶妙であっという間に引き込まれてしまいます。これは面白い作品です!

繁栄を謳歌していた古代ローマの喧騒が聞こえてくるかのようです。活気が溢れ雑多な人々が行き交うローマ。あの高名なフォア・ロマーノも人でごった返すカオスだったのだろうかと想像するとゾクっとするものがありました。

ものすごく面白い本でした。知的好奇心がこれでもかと刺激される逸品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「P・マティザック『古代ローマの日常生活』~古代ローマ人はどのように暮らしていたのか!刺激的なおすすめ参考書」でした。

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古代ローマの日常生活:24の仕事と生活でたどる1日

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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