MENU

H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』あらすじと感想~曲紹介が充実のおすすめ伝記!

目次

曲紹介が充実のおすすめ伝記!H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』概要と感想

メンデルスゾーン(1809-1847)Wikipediaより

今回ご紹介するのは1999年に音楽之友社より発行されたハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳の『大作曲家 メンデルスゾーン』です。

早速この本について見ていきましょう。訳者あとがきでわかりやすくまとめられていましたのでそちらを引用します。

メンデルスゾーンは裕福な銀行家の長男に生まれ、幅広い豊かな教養を身につけることができた。三十八年の短い生涯とはいえ、幸福な結婚をして平和な家庭生活も送り、確かに、恵まれた音楽家だった。しかし、だからと言って、彼の生涯が苦しみや悲しみとは無縁の、平板なものだったわけでは決してない。彼は、さまぎまな経験を積み重ねながら、人間として、また芸術家としての成長を遂げているが、その様子は、彼が旅先などから家族宛に書いた多くの書簡からも窺うことができる。数多く残されている彼の書簡やスケッチには、彼の魅力的な人柄が反映されており、それらを通して、メンデルスゾーンという天才的作曲家を、より身近な、共感できる人間として捉えることができる。

本書は、ドイツのローヴォルト社から刊行されているロ・ロ・口伝記叢書の一巻であり、このシリーズの基本方針に従って、豊富を図版と文書によるドキュメント、本書の場合はとりわけメンデルスゾーンの書簡によって、作曲家の人生が語られている。メンデルスゾーンの周辺の人々の証言も多く引用されており、彼が生きた時代、彼の人間性が、立体的に浮かび上がってくる。メンデルスゾーンに興味のある一般読者にとって、格好の入門書といえよう。また、これまであまり演奏される機会のなかった作品についての解説も含まれており、今後さらにメンデルスゾーンの音楽の理解を深めていくうえで、貴重な指針を与えてくれる一冊にもなるだろう。

メンデルスゾーンの音楽は、彼自身のように、優美で、上品で、穏やかであるが、また、彼自身のように、それだけでは言い尽くせない奥深い魅力を湛えている。二十世紀も終わりに近づいている現在、彼の作品は、明らかに再評価の方向に向かっている。本書が、日本語で気軽に読めるメンデルスゾーンの伝記として、彼の音楽を愛好する人々の一助となれば、この上ない幸せである。

音楽之友社、ハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳『大作曲家 メンデルスゾーン』 P189-190

このあとがきにありますように、この伝記はメンデルスゾーンの入門書として非常に優れています。

メンデルスゾーンの生涯が130ページほどでコンパクトにまとめられており、しかも読みやすく、面白い。

読みやすさと内容の濃さのバランスが素晴らしいです。

絵も豊富でビジュアル的にも親しみやすい伝記となっています。

また、この伝記の特徴として、伝記部分を終えた後に60ページほどを使ってメンデルスゾーンの曲の紹介をしている点が挙げられます。

実際に彼の曲を聴いていく上でこれは非常にありがたいです。メンデルスゾーンの有名な曲はもちろん、まだあまり知られていない名曲たちも紹介されています。

この本はメンデルスゾーンの曲を聴く際の貴重なガイドとなります。

また、巻末の著名人によるメンデルスゾーン評も興味深いです。

あのニーチェがメンデルスゾーンを絶賛しているのには驚きました。

せっかくですのでここで引用します。

フリードリヒ・ニーチェ
そのうえ、ロマン派のすべての音楽は、劇場や大勢の聴衆の前以外の場所でも権利を保持できるほど十分に高級ではなかったし、十分に音楽と呼べるようなものではなかった。それは元来、真の音楽家の間ではほとんど考慮されないような二流の音楽だった。しかし、フェーリクス・メンデルスゾーンの場合は違った。彼は、その軽やかで、純粋で、恵まれた心のおかげで、すぐに崇拝されるようになり、そしてまた、同じようにすぐに忘れ去られた大家である。それは、ドイツ音楽の美しい突発事象だった。 (『善悪の彼岸』より 一八八六年)


音楽之友社、ハンス・クリストフ・ヴォルプス著、尾山真弓訳『大作曲家 メンデルスゾーン』 P 186

ニーチェの『善悪の彼岸』は読んだことがあったにもかかわらず、恥ずかしながら私はこの文章を素通りしていたようです。

あわせて読みたい
ニーチェ『善悪の彼岸』『道徳の系譜』あらすじと感想~道徳の起源とキリスト教倫理の成立を分析した作品 「深淵をのぞきこんでいれば、深淵もまたお前をのぞきこむ」という有名な言葉が収録されている『善悪の彼岸』。 そして『道徳の系譜』ではニーチェはキリスト教世界における道徳の歴史を分析し、考察します。 『道徳の系譜』はニーチェ作品の中でも特に私の印象に残っている作品です。また、ニーチェの思想を知る上でもとてもおすすめな作品です。

メンデルスゾーンを知ったのは最近でしたので、やはり知らなかったり関心がないものはなかなか目につかず、記憶にも残らないということを改めて痛感したのでした。

さて、話は戻りますがこの伝記はメンデルスゾーンの入門書としてとても優れた1冊です。

ひのまどかさんの『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生』と共にぜひおすすめしたいメンデルスゾーン伝記です。

以上、「曲紹介が充実のおすすめ伝記!H・C・ヴォルプス『大作曲家 メンデルスゾーン』」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

大昨曲家 メンデルスゾーン (大作曲家)

大昨曲家 メンデルスゾーン (大作曲家)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』あらすじと感想~奇跡の一冊!ドイツの天才作曲家メンデル... この伝記も非常におすすめです!奇跡の一冊です!読んでいて驚くようなことが大量に出てきます 祖父モーゼスが大哲学者だったこと。そして父アブラハムもあのロスチャイルドと一時期並ぶほどの大銀行を設立していたこと これは衝撃の事実でした。特に祖父モーゼスがあのカントが尊敬していたほどの人物だったという事実には度肝を抜かれました

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ひのまどか『メンデルスゾーン―「美しくも厳しき人生」』あらすじと感想~ナチスに抹殺された天才ユダヤ... これまで作曲家の物語シリーズをひたすら読んできたわけですが、正直、一番好きになったとも言える人物がこのメンデルスゾーンでした この伝記はあまりにドラマチックなメンデルスゾーンの生涯をひのまどかさん流の最高の語り口で堪能することができます。もうこれは読んで下さい!絶対に後悔しません!最高の読書体験になること請け合いです!

関連記事

あわせて読みたい
ドイツの天才作曲家メンデルスゾーン記事一覧~驚異の家系とその生涯、作品を知るのにおすすめの書籍も... スメタナの伝記から始まった私とクラシックとの出会い。 これまで全くクラシックに関心のなかった私でしたが、まさかこんなにはまるとは思ってもいませんでした。 そしてその中でもやはりメンデルスゾーンと出会えたのが何より大きかった・・・! なぜ私はこんなにも彼に惹かれたのか。 音楽はもちろん、彼の生涯、性格、そして文学とのつながりなどなど、考えてみればきりがないのですが、この記事で紹介した内容を読んで頂ければその魅力がきっと伝わってくれるのではないかと思います。
あわせて読みたい
シェイクスピア『夏の夜の夢』あらすじと感想~恋人たちと妖精のドタバタ喜劇!メンデルスゾーンの序曲... 『夏の夜の夢』は有名どころの作品と比べて、たしかに影の薄い作品かもしれませんが、大好きな作品です。 とにかく笑える愛すべき作品です。「スパニエル」、「石垣」がもう愛しくてたまりません。心がふっと軽くなる夢のような楽しい劇です。 シェイクスピア作品でこんなに笑える劇と出会えるなんて思ってもいませんでした。 ぜひぜひおすすめしたい作品です!
あわせて読みたい
作曲家メンデルスゾーンは絵もプロ級だった!『メンデルスゾーン(夢人館7)』私もお気に入りのおすす... メンデルスゾーンはモーツァルトに並ぶ神童と呼ばれ幼い頃から抜群の才能を示していましたが、彼にはなんと絵の才能までありました。 この画集にはずっと見ていたくなるような癒される絵がたくさん収録されてます。音楽家としてのメンデルスゾーンだけでなく、画家としての顔も見れるこの画集には大満足でした。
あわせて読みたい
星野宏美『メンデルスゾーンの宗教音楽』あらすじと感想~忘れられていたバッハを再発見したメンデルス... この本はメンデルスゾーンの宗教曲を楽しむための格好の解説書となっています。正直私は音楽家ではないので細かい音楽理論はわかりません。ですがそれでも楽しくこの本を読むことができました。
あわせて読みたい
メンデルスゾーンとゲーテの交流と友情~『イタリア紀行』に強い影響を受けたメンデルスゾーン ゲーテとメンデルスゾーン。 二人の天才の親交は年齢を超えた深いものがあったと私は感じています。 くしくも両者とも文学や音楽の幅を超えた万能の天才です。 二人にしかわからない何かがあったと想像するのはロマンがありますよね。 私はゲーテもメンデルスゾーンも大好きです。 その結びつきを感じることは、私にとってとても幸せな時間でした。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次