ひのまどか『シューベルト―「孤独な放浪者」』あらすじと感想~シューベルトの生涯を知るのにおすすめ伝記!
ひのまどか『シューベルト―「孤独な放浪者」』あらすじと感想~シューベルトの生涯を知るのにおすすめ伝記!
今回ご紹介するのは1985年にリブリオ出版より発行されたひのまどか著『シューベルト―「孤独な放浪者」』です。私が読んだのは2003年第11刷版です。
この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。
クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうして 「作曲家の物語シリーズ」 を手に取ることにしたのでありました。
この「作曲家の物語シリーズ」については巻末に以下のように述べられています。
児童書では初めての音楽家による全巻現地取材
読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。
リブリオ出版、ひのまどか『シューベルト―「孤独な放浪者」』第11刷版
一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。
ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。
さて、今作の主人公はウィーンの大作曲家シューベルトです。
この伝記を読んで驚いたのですがシューベルトは31歳というかなり若い時に亡くなっています。病気による死でしたが、まさかこんなに早く亡くなっているとは驚きでした。
シューベルトの音楽についてはこの動画がとてもわかりやすかったのでぜひおすすめです。
私自身、シューベルトに関しては名前は知っている程度で実際どのような人だったかはほとんど知りませんでしたので、この伝記は意外な事実がいっぱいでとても興味深かったです。
そしてこの伝記を読んで特に意外だったのは、シューベルトの引っ込み思案、謙虚さ、人のよさでした。
普通、歴史に残るような天才は強烈なエゴを持っていたり、破天荒な生活を送るイメージですが、シューベルトは全く違いました。自分の作品を売り込むのもためらったりするほどの引っ込み思案。人のいいシューベルトには彼を支えようとする友人たちがたくさん集まり、彼らがシューベルトの売り込みを担当するという不思議な関係性もありました。
自分の作品、思いをぶつけたいという強烈な衝動が他の作曲家に比べて明らかに少ないのが印象的でした。
その結果シューベルトの作品は存命中埋もれたままになり、死後しばらく経ってようやくその膨大な作品の全貌が顔を出し始めるという結果になりました。31歳にして命を落としてしまったのが非常に悔やまれます。
そしてシューベルトについて著者のひのまどか氏はあとがきで次のように述べています。
この本を書く間に、私はシューべルトの親友のショーバーと同じく幾度も「何ともいえないやり切れなさ」を感じた。それはひとえにシューべルトの運の悪さ、不器用さ、無頓着さに対するものだが、そのおかげで彼は早死にした天才たちの中でもトップを切る三十一歳という若さでこの世を去ってしまった。
まるで青春時代が終わるのと同時に、シューべルトの生命も燃えつきてしまったように思える。そしてたぶんシューべルトも自分の短い生命を予期していたのだろう、ひたすら純粋に、真剣に、青春のまっただ中を生きて生きて、生きぬいた。シューべルトの存在そのものが、ひとつの完璧な青春像といえよう。
では「青春とはどのようなものか」といえば、私は青春OBとしてこのように考える。
あらゆることを背中合わせに持っていること。たとえば、あこがれとあきらめ、大胆さと臆病さ、友情と絶交、恋と失恋、そして生と死、などなど……・
この相反するふたつの事柄の間を、不器用に、傷つきながら、泳ぎ渡ってゆくのが青春ではないだろうか。この振幅のはげしさに疲れをおぼえ、ついてゆけなくなった時、その人の青春は終わり、大部分の人が器用に傷つかないように世の中を渡る大人の仲間入りをしてゆく。人によってはずうずうしく、厚かましく。
こう考えてみると、シューべルトは無意識のうちに大人になることを拒否していたようにも思える。彼が心の底から憎み軽蔑していたのは、自分のしている事だけが正しいと信じているような、鈍感で押しつけがましい人間なのだから。
こうして純粋に青春のみを生きたシューべルトだったが、同時に彼は早すぎる晩年も生きなくてはならなかった。天才に限っていえるのかもしれないが、たとえ三十代の若さで世を去ろうと、その人の人生はとつぜん未完で終わるのではなく、ふしぎと長寿を全うした人と同じような完成度を保っているものなのだ。
そのことはシューべルトの音楽上にもよくあらわれている。《ます》や《野ばら》のような作品は青春を音で表現したかのように明るくキラキラと輝いているが、《冬の旅》のような連作リートは人生も終わり間近の人が感じるような悲しみやあきらめに満ちている。天才シューべルトは、若さと老い、青春と晩年を同時に生きた世にも稀な人物だったのだ。
そのシューべルトの作品だが、《未完成交響曲》については何ひとつ宣伝する必要がないほど有名だが、《魔王》《野ばら》《アヴェ・マリア》以外のリートが日本ではあまり知られていないことを残念に思う。ぺーター・シュライヤー氏が語っていたように、まず「ドイツ語でうたわれる」という言葉の問題があって、私たちにはなかなかなじみにくいのだろう。しかし、うたわれている詩の内容さえわかれば決して取っつきにくいものではない。それどころかシューべルト独特の美しいメロディーと、詩の深い内容に魅せられて、わすれられない音楽のひとつになるだろう。ウィーンの人たちは今でもシューべルトのリートをきいて涙を流すというけれど、それはシューべルトのリートがいかに時代を超えて人びとの心の奥底に訴たえる力を持っているかの証明にほかならない。
これから青春をむかえる人も、今青春のただ中にいる人も、すでに青春を終えてしまった人も、リートの元になっている詩を読み(本文中に引用した詩の多くは、話の進行上要約してあります)、リートをきいて、人生の喜びや悲しみ、あこがれやあきらめ、生や死についてのシューべルトのメッセージを深く感じとっていただきたい。それこそが「作曲をするためだけにこの世に生まれてきた」シューベルトの、唯一の望みであるのだから。
リブリオ出版、ひのまどか『シューベルト―「孤独な放浪者」』第11刷版 P283-285
いかがでしょうか。先程も述べましたようにこの伝記シリーズは一応は児童書として書かれています。表紙の絵の雰囲気も何か学校の図書館に置いていそうな雰囲気がありますよね。
ですが、児童向けの本と侮るなかれ。このシリーズは大人が読んでも「すごい本だ」と唸らされるほどのクオリティーです。それはこのあとがきを読んだだけでも感じられますよね。
この本を子供時代、学生時代に読めたとしたらそれはものすごく幸運なことだと思います。こんなに深くて面白い本を楽しみながら読めるのですから。その経験は絶対にそれからの人生に生きてくると思います。
そしてそれは私達大人にとっても同じです。これほどの本と出会えるのはなかなかありません。私はひのまどか氏のこのシリーズが大好きです。ぜひぜひおすすめしたいです。読めばきっとその面白さに驚くことでしょう。
以上、「ひのまどか『シューベルト―「孤独な放浪者」』シューベルトの生涯を知るのにおすすめ伝記!」でした。
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