中井真孝『法然絵伝を読む』概要と感想~浄土宗の開祖法然上人のおすすめ伝記

中井真孝『法然絵伝を読む』概要と感想~浄土宗の開祖法然上人のおすすめ伝記
今回ご紹介するのは2005年に思文閣出版より発行された中井真孝著『法然絵伝を読む』です。
早速この本について見ていきましょう。
国宝『法然上人行状絵図』(知恩院蔵)から、その生涯のトピックスとなる事項の記事を選び、読み下し・現代語訳と解説を付し、あわせて他本との比較も行う。法然伝研究の第一人者が描く”絵伝に読む法然像”。口絵カラー4頁・挿図45点。
思文閣商品紹介ページより


本書『法然絵伝を読む』は国宝に指定されている『法然上人行状絵図』に基づいて浄土宗の開祖法然上人の生涯を学べるおすすめの伝記です。
浄土真宗には本願寺によって伝承されて来た『御伝鈔』という親鸞聖人の伝記がありますが、著者によれば知恩院所蔵の『法然上人行状絵図』は浄土宗公式の法然伝と言えるとのこと。浄土宗が法然上人の生涯をどのように受け止めているのかを知る上でも本書は非常にありがたい作品となっています。
本書と『法然上人行状絵図』について著者はあとがきで次のように述べています。
『行状絵図』は絵巻物として優美な作品である。宗派では「勅修御伝」と呼び、最も権威ある伝記として尊んでいる。しかし、法然を信奉する人びとにとって身近な存在ではない。全巻そろって展示されることは物理的に難しく、実物を拝観できる眼福を得る人はまれであろう。写真版の書物が公刊されているので、手にとるように見ることは可能である。それでもなお、親しみがもてないのが実感だ。
その理由の第一は、法然絵伝の中では群を抜いて長大なボリュームをもつことである。しかも第二に、現代の人にとって通読に骨がおれるのは、いわゆる古文に属する文体で書かれているからである。絵巻物の絵図は楽しく見られても、詞書は漢字と変体仮名の草書体に苦しみ、読みこなせない。この二つがネックとなって、『行状絵図』を敬遠させているのだ。
そこで本書は、第一の点に対処するため、法然の生涯にトピックスとなる事項の記事を選んで読むという形を試みた。『行状絵図』は巨視的には〈紀伝体〉の史書といえるが、本編に当たる法然の伝記は、年代順に記事を配列していない。また枝葉末節のことがらに、やたらと詳しい記述に出会うことがある。法然の伝記を調べるのに『行状絵図』が案外と不便なのは、ひとえにこのためだ。
さらに『行状絵図』にかぎって、原文の用字法を尊重しつつ読みやすさを考慮し、漢字を仮名に、仮名を漢字に書き換えた。本書を読んで研究を深める方は、ぜひとも原文に直接当たられることを望む。つぎに簡潔な現代語訳をつけている。古典文学を読むことに自信のある方は、ここを飛ばしていただきたい。そして、掲載した『行状絵図』の記事に関連する伝記的な解説、若干の私見を提示しておいた。事項によって精粗まちまちであるが、容赦されたい。
思文閣出版、中井真孝『法然絵伝を読む』P223-224
ここで著者の指摘するように、この伝記は一般読者にはかなり厳しいとのこと。そんな中著者によってわかりやすく重要なトピックがまとめられた本書は実にありがたいです。
そして私が本書を手に取ったきっかけは実は重源にありました。
重源は平重衡によって焼かれた東大寺の再建を託された僧侶です。重源については以前当ブログでも「五味文彦『大仏再建 中世民衆の熱狂』あらすじと感想~東大寺再建の立役者重源の意外な事実が知れるおすすめ参考書!」の記事でご紹介しました。

重源は阿弥陀仏を篤く信仰していたことで知られ、浄土宗の開祖法然と親交があったということがよく言われますが、この『大仏再建』においてはそのことについてはあまり触れられていませんでした。なぜなら、重源と法然の親交は浄土宗の『法然上人絵伝』で語られるのみで、重源側の資料としてはほとんど残っていないというのが実情だからです。
しかも『大仏再建』を読んで驚いたのですが、重源の阿弥陀信仰はあくまで真言密教における阿弥陀信仰であり、法然の専修念仏の阿弥陀信仰とはかなり異なる教えになります。阿弥陀仏を信仰するという点では同じですが、その内実がかなり異なることをその本で知ることになりました。そんな2人が本当に深い親交を持っていたのかというのは正直なところ私には何とも言えないというのが私が感じた正直な思いでした。
そこで念のため本書『法然絵伝を読む』を参照したのです。浄土宗の公式伝記においてこの関係はどう説かれているのか、それが気になったのです。
するとやはりありました!本書でもこのトピックが取り上げられていたのです。
著者によれば、たしかに『行状絵図』には伝承としてそう書かれてはいるものの、重源が法然の弟子であったという伝承や、法然が重源を大仏勧進に推挙したということは史実としては認めがたいとのことでした。上の引用にもありましたように、本書では一般読者には難解な『行状絵図』に現代の研究から照らし合わせた解説がなされます。まさに「伝承」としては重源と法然の関係性が説かれてはいても、そこまで深い関係ではなかったというのが現在の研究の成果なようです。
このように、ただ伝承をそのまま史実として語るのではなく、実際はどうだったのかということまで本書では知ることができます。
公式の法然伝に拠りつつも現在の歴史学の成果も学ぶことができる本書は非常に貴重です。これはありがたい出会いでした。浄土宗や浄土真宗に興味のある方にぜひおすすめしたい一冊です。
以上、「中井真孝『法然絵伝を読む』概要と感想~浄土宗の開祖法然上人のおすすめ伝記」でした。
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