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藤善眞澄『隋唐時代の仏教と社会』あらすじと感想~中国の仏教弾圧はなぜ行われたのかを知れるおすすめ本

隋唐時代の仏教と社会
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藤善眞澄『隋唐時代の仏教と社会』あらすじと感想~中国の仏教弾圧はなぜ行われたのかを知れるおすすめ本

今回ご紹介するのは2004年に白帝社より発行された藤善眞澄著『隋唐時代の仏教と社会 弾圧の狭間にて』です。

早速この本について見ていきましょう。

中国における仏教受容の歴史は、21 世紀のメインテーマ、異文化交流―調和と融合―に大きな示唆をあたえる。
世俗にとらわれず、あらゆる執着からの脱却を願う仏教と、現世にこだわり政治優先の中国社会との間には、さまざまな確執が生じた。
多大の犠牲を払い苦難を乗越えて宗派を成立させ、中国の宗教となりおおせた隋唐時代の仏教を、再三にわたる弾圧の嵐に焦点を合わせながら、抵抗と妥協、そして変容への軌跡をたどる。    

白帝社商品紹介ページより

この本は三武一宗の法難と呼ばれる4つの中国の仏教弾圧のうち、隋唐時代にスポットを当てた参考書になります。

三武一宗の法難は、

446年の北魏太武帝の廃仏
574年の北周武帝の廃仏
845年の唐武宗の廃仏
955年の後周世宗の廃仏

の4つの仏教弾圧を指します。こう見るとほぼ百年おきに大規模な仏教弾圧が起きていることがわかります。そして興味深いのは、これらの弾圧を決定した皇帝が死去し新皇帝が即位すると再び仏教が一気に復活するという流れがある点です。仏教は大弾圧によってその度に壊滅的な被害を受けるのでありますが、それで消滅するのでなく何度となく復活するのです。この弾圧と復活の流れがなぜ中国で繰り返されるのかというのも本書の見どころとなっています。

そして本書ではそもそもなぜ中国王朝が仏教の弾圧を行ったのかを詳しく見ていくのでありますが、まさにそこで「宗教は宗教だけにあらず」という姿を見ることになります。これらの弾圧は単に宗教的な対立問題では片づけられない事情があったのでした。そこには極めて政治的、行政的な背景があったのです。

また、個人的に本書で一番印象に残ったのは不空の存在です。

不空(705-774)Wikipediaより

不空は金剛智と善無畏によってもたらされた密教を中国に根付かせた僧侶として有名です。そしてこの不空の弟子の恵果こそ、日本の空海に密教を伝えた人物になります。

さて、この不空がなぜここに登場したのかと言いますと、まさにその彼が755年の安史の乱の際に特筆した動きを見せるからであります。正直、これは私にとってあまりに予想外な動きでありました。

安史の乱については以前当ブログでも村山吉廣『楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡』や藤善真澄『安禄山』の本でも少しお話ししましたが、唐の全盛期をもたらした玄宗皇帝と楊貴妃のラブロマンスが引き金となって起きた大反乱です。この唐の命運を決する大事件の最中で密教僧の不空がどのような行動を取ったのか、そしてそれがその後の密教の展開においてどのような意味を持ったのかということが語られます。仏教と政治が密接に絡み合うその複雑な姿を私たちは目の当たりにすることになります。これは実に興味深いです。

この本は中国における仏教弾圧を通して、中国仏教と時代背景、政治的なつながりを知れる名著です。私も読んでいて驚くことばかりでした。

やはり、出家者の文化がそもそもあった古代インドと、律令制の巨大国家隋唐ではそもそも生活の前提が違います。

「(25)スリランカの気候は如何?気候と宗教の関係について考えてみた。日本仏教についても一言」の記事でもお話ししましたが、制度上の違いだけでなく気候風土が違えばその食糧事情も変わってきます。そうした違いを無視して教義だけを見ても見えてこないものがあります。

場所や時代が変われば宗教も変容します。そのことについても思いを馳せる読書になりました。これは面白い作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「藤善眞澄『隋唐時代の仏教と社会』あらすじと感想~中国の仏教弾圧はなぜ行われたのかを知れるおすすめ本」でした。

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隋唐時代の仏教と社会: 弾圧の狭間にて (白帝社アジア史選書 5)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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