ブッダ来島伝説の聖地ナーガディーパ島を訪ねて~スリランカ北部ジャフナ沖の仏教聖地へ
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【インド・スリランカ仏跡紀行】(35)
ブッダ来島伝説の聖地ナーガディーパ島を訪ねて~スリランカ北部ジャフナ沖の仏教聖地へ
ジャフナで内戦のことを考えながら市内を見学をした私は次なる目的地ナーガディーパ島へと向かった。
ナーガディーパ島はスリランカ仏教の伝承ではブッダが来島した聖地として信仰されている。史実としては難しいものがあるが、シンハラ人の文脈においては今も重要視されている聖地である。
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ナーガディーパ島へはジャフナからおよそ1時間ほど車で走り、そこからフェリーで島へと渡る。
道中はスリランカ北部の海岸沿いということで非常に美しい景色を楽しめた。
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そしてやはりスリランカ北部はヒンドゥー教寺院が多いことを実感する。
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ジャフナ近郊にもカンタロダイ(上の写真)というおよそ2000年前に建造された仏塔群の遺跡があり、この辺りにもかつて仏教があったのだということは感じられたがやはりこの地域はヒンドゥー教が主体なのだろうと実感した。ここはまさにインドの目と鼻の先。インド本土との交流も盛んであった。
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さて、船着場に到着した。ここから海に向かって真っすぐ歩いていくとフェリーがあるとのこと。
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ん?フェリーはどこだ?まだ着いていないのだろうか。
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おぉ!これか!これがフェリーか!
想像していたものとだいぶ違うが、我々もこれからこの船に乗るのである。
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船内はこの通り。かなりぎゅうぎゅうである。
出港したこの船はどんぶらこどんぶらことのんびり進み、無事ナーガディーパ島へと到着した。
ガイドさんによればこの日はこれでもかなり空いているらしい。いつもは船に乗るだけでも大行列で、祭りの時にはとんでもないことになるという。シンハラ人にとってここが巡礼地としていかに人気かがよくわかる。
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ぱっと見だと漂流船のようなルックスだったがこれはこれで味がある。
ガイドさんは笑って言っていた。「上田さんはラッキーですね!雨が降ると雨漏りでこの船すごいんですよ!」と。
・・・絶対避けたい展開である。
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さて、ナーガディーパ島に到着だ。正面に見える白い門はすでにナーガディーパ僧院のものである。
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門をくぐるとそこには道路を挟んですぐそこが境内だ。
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門を出てすぐには竜王(ナーガ)に守護されるブッダの像が。
お気づきの方もおられるかもしれないが、このナーガディーパという名前が「ナーガ(竜王)の島」という意味なのである。
なぜそのような名前になったかというと、ブッダがこの島に来島した時、ナーガ族が相争っていたのだがブッダがそれを和平させここに仏法をもたらしたという伝説が元になっているのである。
というわけでこの島の象徴たるナーガとブッダの像が至る所に安置されているのである。
このナーガとブッダの関係は仏伝のエピソードとも重なってくる。
「【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑾ブッダ瞑想の日々と梵天勧請~ブッダは人々への説法をためらった?インドの神ブラフマンによる説得とは」の記事でもお話ししたが、ブッダはブッダガヤでの悟りの後、その境地を楽しみながらいつものようにひとり瞑想に耽っていた。
だがその時突然大雨が降りだし、冷たい風が吹きつけてきたのである。ただ、ブッダは深い瞑想の境地に入っていたのでそんな悪天候も全く気にならない。
しかし雨風にさらされたブッダを気の毒に思い、ムチャリンダ竜王という巨大なコブラがブッダの下にやって来た。彼はブッダを中心にとぐろを巻き、ブッダが雨風に当たらないよう優しく守り続けたのだった。
この伝承がスリランカ流にさらに変化して新たに根付いたのがこのナーガディーパ島なのかもしれない。
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寺院の入り口もヘビ、ヘビである。どこかチャーミングな顔つきに少しほっこりしてしまう。
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境内は白を基調とした仏塔と僧院が並んでいる。大きさは控えめでコンパクトにまとまっている印象を受ける。
入ってすぐのお堂ではオレンジ色の衣を着た僧侶と団体御一行がお経を唱えていた。巡礼のグループらしい。こういう聖地に人生のうちで一回でも来れたら「いいことをした」と幸せな気持ちになるのだそうだ。
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さて、これより本堂に入っていこう。
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堂内には色鮮やかな涅槃仏が横たわっていた。
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そしてレースの向こうにご本尊のブッダ像が安置されていた。
天井画や壁画も明らかに新しい。右の写真に描かれた人物達はこのお寺にゆかりのある方達だろうか。
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本尊上の天井画も何とも言えない。
ここに来て私は思ってしまった。「あぁ、ここもそうか」と・・・
ここも近年急速に聖地として台頭してきた場所なのだ。たしかに古くからここが聖地であったという歴史はあるかもしれないが、残念ながら歴史的な連続性がないのである。だから私にはここが聖地であることを感覚的に直感できない。それができるためにはシンハラ人の文化コードを持っていなければならない。日本人の文化コードしかない私にはここのありがたみがわかるはずもないのである。私にはここの文脈がない。それぞれの文脈が宗教的感性にいかに影響を与えるかをここでも痛烈に感じることになった。
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タミル人の多いスリランカ北部にこうした聖地がある意味は大きい。
内戦中はここはシンハラ人が来れるような場所ではなかったという。激戦地のひとつであるジャフナのすぐそばであるならそれも当然だろう。民族紛争のど真ん中に位置するこの聖地を訪れることができたのは私にとっても大きなものとなった。
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ナーガディーパ寺院を出た後、私達は歩いてヒンドゥー教のナーガ・プージャニ・アンバル寺院へ向かった。帰りの船がこの寺院の目の前から出ているのである。
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10分ほどで到着。色鮮やかな建築と彫刻から一目でヒンドゥー教寺院とわかる。白に統一されたナーガディーパ寺院とのコントラストが際立つ。
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ヒンドゥー教寺院でもナーガの像が中心に来ているのは興味深い。インドでもナーガ信仰は盛んだったように、ここでも仏教、ヒンドゥー教の別なく信仰されていたのだろう。
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この寺院のメインの山門は特に巨大でその構造は実に南インド的。ここが南インド文化圏であることを実感する。
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それにしてもこの象の張りぼて感が微笑ましい。インドらしいなぁと笑ってしまった。
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さあ、ジャフナへと戻ろう。
この日の日程はこれで終わりではない。次に向かうはサンガミッタ尼がブッダガヤの菩提樹をもたらしたその上陸地点だ。そこはスリランカのほぼ最北端の地で、一般観光客もなかなか行くことのない場所だという。一体どのような場所なのだろうか。
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【インド・スリランカ仏跡紀行】の目次・おすすめ記事一覧ページはこちら↓
※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。
〇「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
〇「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
〇「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」
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