MENU

上田紀行『覚醒のネットワーク』あらすじと感想~私達の生きにくさはどこから?今こそ読みたい名著!

覚醒のネットワーク
目次

上田紀行『覚醒のネットワーク』概要と感想~私達の生きにくさはどこから?今こそ読みたい名著!

今回ご紹介するのは2022年にアノニマ・スタジオより発行された上田紀行著『覚醒のネットワーク』です。本書の初出は1989年にカタツムリ社版になります。そして本書は2016年に発行された河出書房新社版を加筆訂正し復刊したものになります。

では、早速この本について見ていきましょう。

出版社からのコメント

文化人類学者であり東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院長である著者が、20代の頃にフィールドワークでスリランカを訪れたときに書いた、数ある著作の原点にあたる作品。今、多くの人が、自分はいなくてもいいのではないかと悩んだり、何かがうまくいかないことを他人のせいにしてしまうなど、無力感を抱えているかもしれません。本書は、そのような状況から一歩踏み出して、他者と関係を築いていくきっかけを与えてくれる内容となります。前に進みたいと願っている人、特に若い世代の人にこそ読んでもらいたい、心がイキイキする一冊です。

Amazon商品紹介ページより

前回の記事では上田紀行先生の著書『スリランカの悪魔祓い』をご紹介しました。

あわせて読みたい
上田紀行『スリランカの悪魔祓い』あらすじと感想~悪魔祓いは非科学的な迷信か。人間と宗教のつながり... この本では単にスリランカの「悪魔祓い」だけでなく、宗教とはそもそも何か、なぜ人は「癒される」のだろうかということが語られていきます。 私達の命や健康、生命力と「心」のつながりについて改めて考えさせられる素晴らしい作品です。

この本があまりに面白く、私は感銘を受けたのでありました。そしてこの本のあとがきで次のように書かれていました。

本書は処女作『覚醒のネットワーク』(カタツムリ社、講談社+α文庫)と分かちがたい関係を持っている。「私を癒す、世界を癒す」というテーマのもと、「癒し」の総論を行ったのが『覚醒のネットワーク』であり、悪魔祓いから「隠されたカ」についての各論が本書ということになる。

つながりのイメージを持ちながらどのように具体的にこの世界と私を癒していくのか、という前著であつかった点については本書ではほとんど触れられなかったが、その視点があってこそ「癒し」もトータルなものになり、スリランカの悪魔も喜び、踊りだすはずだ。この本を読まれて何かをお感じになった方は、ぜひ前著『覚醒のネットワーク』にも目を通していただくことをお願いしたい。

講談社、上田紀行『スリランカの悪魔祓い』313-314

「この本を読まれて何かをお感じになった方は、ぜひ前著『覚醒のネットワーク』にも目を通していただくことをお願いしたい。」

『スリランカの悪魔祓い』に感銘を受けた私ですが、これはもう読むしかありません!私は早速『覚醒のネットワーク』に手を伸ばしたのでありました。

そしてそれは大正解!本書は上田紀行先生の原点を知れる素晴らしい作品でした。

本書冒頭の新装復刊版まえがきで上田先生は次のように述べています。少し長くなりますが重要な箇所ですのでじっくり読んでいきます。

私の人生はもっと輝いているはずなのに、全然輝いていない。

自分の人生のはずなのに、どうして自分のものだという気がしないのだろう。

自分がいてもいなくても、世界は変わらない。ほんとに無力だ。

どうして、気づくといつも不満ばかり言っているのだろう。あいつのせいだとか、社会が悪いとか。

この本はそんなあなたのために書かれています。あなたにはもっともっと輝いてほしい。自分の人生を生きてるんだ!と胸を張ってほしい。他人の不満を言う時間があったら、自分の夢を語りかけてほしい。

そう、この本の著者はかなりのおせっかいな人間です。私が輝いているかどうかなんて、勝手にしてくれよ!と言いたくなる人もいると思います。でもぼくはとてつもなくおせっかいな人間で、本当はもっと生き生きと生きたいと思っているのに、そうはなっていない人を見ると、君にはもっと君らしい人生があるのに!と叫びたくなってしまうのです。

正確に言うと、そんな溢れる思いから、ぼくはこの本を書いたのでした。

この本が出版されたのは、一九八九年のこと。もう三十年以上も前のことです。最初にこの本の原稿を書き始めたのは、まだぼくが二十代の学生で、スリランカで「悪魔祓い」のフィールドワークをしているときでした。ぼくの二十代は本当に自己嫌悪と空回りばかりの、悩み多き時間で、しかしスリランカという異国で急に言葉が溢れ出し、「そうだったんだ!」と自分の殻が割れるような気づきを得て、この本が書かれたのです。

そう、自分の人生が全然輝いてない、自分の人生だと思えない、自分がいてもいなくても世界は変わらない、無力だ、そしていつも不満ばかり言っている……、それは二十代のぼく自身そのものでした。そしてそんなぼくが、「その原因はここにあったんだ!」と気づき、「これから前に一歩踏み出していけるぞ~!」と確信し、「これを友達にも伝えなきゃ!」と書いたのがこの本だったのです。

三十年以上も前に、ひとりの若者が書いた本は過去の世界でしょうか?いえいえ、読んでいただければ、この本が時代を超えて、あなたの殻を破り、生き生きとしたエネルギーを湧き出させる、フレッシュさに満ちた本だということがわかってもらえると思います。取り上げられているいくつかの事柄にはその時代が刻印されていますが、その時代に真正面から向き合った姿勢を感じていただきたく、文章には一切手を入れませんでした。しかし三十年前のメッセージは今も力強くあなたに届くことでしょう。

私はなぜ輝かないのだろう。なぜ自分の人生を生きている気がしないのだろう。そんな意識は、この本が書かれた後の、新自由主義や成果主義の苛酷な進展、社会のブラック化によって、ますます加速されてきました。だからこそ、この時代にぜひ読んでほしい。そしてこの本の後半に書かれた、三十年前の「希望」が現在の運動にもつながり、大きな流れとなっていることも実感していただければと思います。

あなたが輝くことで、世界も輝く。あなたが自分らしく生きられれば、あなたの仲間も嬉しくなる、そしてみんなも輝きだす。そのシンプルで力強いメッセージをぜひ受け取ってほしいと思います。

アノニマ・スタジオ、上田紀行『覚醒のネットワーク』P3-5

この本自体は30年以上も前に書かれたものです。しかし「私はなぜ輝かないのだろう。なぜ自分の人生を生きている気がしないのだろう。そんな意識は、この本が書かれた後の、新自由主義や成果主義の苛酷な進展、社会のブラック化によって、ますます加速されてきました。だからこそ、この時代にぜひ読んでほしい。そしてこの本の後半に書かれた、三十年前の「希望」が現在の運動にもつながり、大きな流れとなっていることも実感していただければと思います。」と上田先生が述べるように、今こそこの本が活躍する出番なのではないかと強く思います。

私達は何に苦しんでいるのか、なぜ苦しいのか、どうすればそこから解放されるのか、そのことをこの本で見ていくことになります。きっと目から鱗の新しい知見を得られると思います。

上の引用部分を読んだだけでも感じられるでしょうが、上田先生の語りは非常に読みやすくわかりやすいです。専門用語の羅列や難解な議論とは全く違います。

ぜひ多くの方に読んで頂きたい名著です!私はこの本を仏教書としても推薦したいです。この本で語られることは仏教用語で語らない仏教だと私は感じました。上田先生がフィールドワークをしたスリランカはまさに仏教国です。この後に『がんばれ仏教』を執筆された上田先生の原点をこの本で感じることができました。『がんばれ仏教』に大きなパワーを頂いた私にとっても実に嬉しい読書となりました。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「上田紀行『覚醒のネットワーク』~私達の生きにくさはどこから?今こそ読みたい名著!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

覚醒のネットワーク

覚醒のネットワーク

次の記事はこちら

あわせて読みたい
澁谷利雄『スリランカ現代誌』あらすじと感想~スリランカの民族紛争と宗教の関係がわかりやすくまとめ... この本はスリランカについての知識がない方でも読めるように書かれていますので、初学者の方にもぜひおすすめしたい作品です。現代スリランカを知るのにとても役立つ作品です。民族紛争や宗教対立について学びたい方にもぜひおすすめしたい名著です。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
上田紀行『スリランカの悪魔祓い』あらすじと感想~悪魔祓いは非科学的な迷信か。人間と宗教のつながり... この本では単にスリランカの「悪魔祓い」だけでなく、宗教とはそもそも何か、なぜ人は「癒される」のだろうかということが語られていきます。 私達の命や健康、生命力と「心」のつながりについて改めて考えさせられる素晴らしい作品です。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』あらすじと感想~上座部仏教の葬儀や... 著者は実際に現地に赴き、そこで人々と接しながら現地の宗教や生活文化そのものについて見ていきます。文献だけではわからない現地の微妙な問題や曖昧な部分まで見ていけるのが本書の魅力です。 特にスリランカにおける葬儀や結婚などの儀礼についてのお話は非常に興味深かったです。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次