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シェイクスピア『恋の骨折り損』あらすじと感想~恋愛禁止条例を発令した当の男たちが恋に振り回される喜劇
今回ご紹介するのは1594-95年頃にシェイクスピアによって書かれたとされる『恋の骨折り損』です。私が読んだのは筑摩書房、松岡和子訳です。
早速この本について見ていきましょう。
ナヴァール王国(現在のスペイン東北部)の若き王ファーディナンドは、宮廷を学問芸術の華たるアカデミーにしようと決意し、3人の青年貴族とともに女性との交際を絶ち学問に励む誓約を立てる。ところがその直後、フランス王女が3人の美しい侍女を引き連れて外交使節として到着する。4人の若者は4人の美女にそれぞれ恋心を抱くのだが…。小気味よい恋愛劇。
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この作品は学問を究めんがためには恋愛なんてものに現を抜かすなんてありえないという、非常に堅物で真面目な青年たちが主役です。
4人は女から絶対に離れると誓いを立てるのものの、その誓いを立てたそばから美しい女性たちがやってきます。
4人は表向きは恋をしていないように振舞うのですが、実はあっという間に彼女たちの虜に・・・
真面目で頭でっかちな青年たちがそんな恋に狂っていく様がこの物語で語られます。
その中でもムードメーカー的なお調子者、ビローンが口にする言葉がすごくいいんですよね。
ああ、とうとう俺も恋に落ちた!
これまでは、恋を鞭打ち、
恋わずらいの溜め息を罰する役人だった俺が。
恋を批判し、夜警となって取り締まり、
どんな人間よりも堂々と
キューピッドを叱りつける教師だった俺が!
あのべそっかきで我がままな小童、目隠しで何も見えず、
大人で子供、巨人で小人のキューピッド様々。
恋の歌の摂政、憂い顔の腕組み連中の殿様、
溜め息とうめき声を司る正当な君主、のらくらしたり、ぶつくさ言ったりするやつらの支配者、
女性自身どもの大公、股間のいちもつどもの王、
性犯罪者を教会裁判所に呼び出す役人の親玉であり、
総大将であるキューピッドめ。ああ、俺の小さな心臓よ!
遂にこの俺までがやつの副官になり、アクロバット芸人の
ぴらぴらした飾りみたいに、やつの軍旗を振り回すのか!
えっ!俺が恋をする!女を口説く!妻を欲しがる!
筑摩書房、シェイクスピア、松岡和子訳『恋の骨折り損』P70-71
恋なんて絶対にするものかと思っていたのに、まさか自分がという驚きが非常によく表れていますよね。
そして私はこの言葉にどこか聞き覚えがあるような気がしました。少し記憶をたどってみたところ、私の大好きな札幌発の舞台『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』で主人公の堅物シェイクスピア教授、奥坂が恋をしてしまったときに述べていたのがこれだったのです。
こちらの演劇台本を読んでみると、ありました!シーン4「冬物語」に書かれていました。こちらは小田島雄志訳で、一部中略して語られたセリフだったようです。せっかくですのでこちらも見ていきましょう。
ああ!恋に落ちたのだ、おれは、一分一厘の狂いもなく!いままで恋の悩みに涙し溜息をつく連中を鞭うつ役人であり、批判者であり、厳しくとりしまる夜警であったおれが、キューピッドの小僧をどなりつける教師であったおれが!---ああ、あわれなわが心臓よ!このおれまでがキューピッドの手下となってチンドン屋よろしくやつの恋の軍機をふりかざさなければならぬのか!ああ!おれが恋をする!女を口説く!妻をほしがる!
弦巻啓太『弦巻楽団 上演戯曲集 「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」』より
おぉ!これです!これ!永井秀樹さん演じる奥坂教授のこのセリフが私の中で強烈に残っています!奥坂教授にまさにぴったりなセリフ。その元となった『恋の骨折り損』という作品をこうして今読んでいることにうきうきした気分になりました。
大好きな作品の元ネタになったものを読むというのは、「ゆかりの地巡り」をしているようでやはり楽しいです。このセリフをチョイスする弦巻さんはさすがだなあと感嘆しました。劇作家さんへの憧れがますます大きくなりました。
さて、話は戻りますが『恋の骨折り損』、自分たちで恋愛禁止条例を宣言しながらその舌の根も乾かぬ内に撤回せねばならなくなった男たちのどたばたぶりが何とも愉快な作品です。
そして最後は大団円かと思いきや、何とも歯がゆい結末。はたして頭でっかち4人組はこの後どうなってしまうのか気になるところです。彼女たちと交わした約束を守れることを願うしかありません。
以上、「シェイクスピア『恋の骨折り損』あらすじと感想~恋愛禁止条例を発令した当の男たちが恋に振り回される喜劇」でした。
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