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佐藤猛『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』あらすじと感想~シェイクスピア史劇の時代背景を知るのにおすすめの参考書

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佐藤猛『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』概要と感想~『リチャード二世』、『ヘンリー四世』などシェイクスピア史劇の時代背景を知るのにおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2020年に中央公論新社より発行された佐藤猛著『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の戦い』です。

早速この本について見ていきましょう。

フランスを主戦場として英仏王家が攻防を繰り広げた百年戦争(一三三七~一四五三)。イングランドの大陸領をめぐる積年の対立に、フランス王位継承権争いが絡んで勃発した。当初イングランドが優勢だったが、ジャンヌ・ダルクによるオルレアン解放後、フランスが巻き返して勝利する。戦乱を経て、英仏双方で国民意識はどのように生まれたか。ヨーロッパ中世に終止符を打った戦争の全貌を描き、その歴史的意義を解明する。

Amazon商品紹介ページより

この作品は以前紹介したイギリスの「薔薇戦争」に先立つ英仏百年戦争についての参考書になります。

薔薇戦争については以前紹介した陶山昇平著『薔薇戦争』が非常におすすめな参考書で、これを読めば『ヘンリー六世』『リチャード三世』の時代背景が非常にクリアになります。

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今回ご紹介している『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』は同じくシェイクスピアの『リチャード二世』の時代背景を知る上でとても参考になる作品です。

オルレアン包囲戦におけるジャンヌ・ダルクジュール=ウジェーヌ・ルヌヴー作、1886年 – 1890年。Wikipediaより

百年戦争といえばあのジャンヌ・ダルクが活躍した戦いです。ジャンヌ・ダルクという名を知らぬ人はいないと思いますが、彼女がいつの時代にどこで活躍したのかというのは意外とわからないですよね。私もそうでした。

そしてこの本を読んで驚いたのは「百年戦争」という壮大な名前が付けられたこの戦いが実際にはどういうものだったのかということでした。「百年間ずっと戦い続けていたわけではない」ということはよく言われることですが、では実際にこの時期に何が起きていたのかということをこの本では学ぶことができます。

私はこの時期のイギリス・フランスについてはほとんど知りませんでしたので、イギリスがフランス本土に多くの領地を持ち、なおかつフランス王の臣下としてその土地を領有していたということを知りかなり驚きました。

さらにはそもそもイギリス・フランスという国家意識が生まれてきたのがこの戦争からだったということ、これも大きな驚きでした。私達は「国」というと昔からそこにあったかのように感じてしまいますが「国」や「国民」という概念が人々の間で確固たるものになるのは本来とてつもなく難しいことなんだなということを考えさせられました。

そしてこの本の中で特に印象に残ったのが次の箇所です。

中世ヨーロッパの戦争は、二度の世界大戦など近現代の戦争とはいくつかの点で異なっていた。特に、両軍が相まみえる会戦では、勝敗を通じて神の意思や判断が示されると考えられた。勝利は正しい主張をした側にもたらされ、敗北は人々の不正や罪深さに対する神の怒りを伝えた。逆にいえば、戦いを通じて証明されるべき目的や動機の正しさ=「正義」がなければ、暴力行使は許されなかった。損害の回復や不正除去、犯罪者の処罰などが正しい動機とされた。このような戦いは、神学や法学の書物の中で「正当な戦争」=「正戦」と呼ばれた。

中央公論新社、佐藤猛『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』Kindle版位置No.639-650

中世における戦争には大義名分が特に重要だったということ、そしてその戦いの結果は神の審判であるというのは非常に興味深いものがありました。これはシェイクスピアの史劇作品を読む際にも大きな意味を持ちそうです。

そして著者はさらに続けます。

とはいえ、最前線で戦った兵士のなかには、正義よりも出征で得られる報酬、戦利品、名声のために戦った者が大勢いたことは間違いない。そのことは、先の攻囲戦関する記録にあった「金銭による褒美」の文言からも明らかである。しかし、建前であったとしても、戦争の目的が正しいか否かは死活問題であった。戦争を発令する君主にとって、その目的が人々に支持されるか否かは資金集めの成否を左右した。王の戦争が教会によって支持されている場合でも、兵士にとっては、直近の主君により戦利品目的で出征を命じられ、これに従って戦うなかで戦死したとすれば、行き先は天国か地獄か。

中央公論新社、佐藤猛『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』Kindle版位置No.650

ここで兵士の問題、つまり傭兵の問題が語られたのありますが、このことは以前当ブログでもご紹介した菊池良生著『傭兵の二千年史』とも強い関連があると思います。

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現代のような専門の常備軍がいない中世です。当時、兵士たちは基本的にその都度金で買われます。そしてその金をどれだけ集めることができるのかが勝敗の大きな分かれ目になります。ただ、上で説かれるようにそれでもただ金だけではどうにもならない問題があるのも事実。中世が「神における正義」を重んじていたことを感じさせられたのでした。

さて、この本は薔薇戦争に先立つ百年戦争について学ぶのに非常におすすめな参考書です。シェイクスピア史劇をより楽しむためにも必読な作品なのではないでしょうか。ぜひおすすめしたい作品です。

以上、「佐藤猛『百年戦争 中世ヨーロッパ最後の闘い』~シェイクスピア史劇の時代背景を知るのにおすすめの参考書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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