宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール』あらすじと感想~旧共産圏の過去と今をサッカーから知れる衝撃の名著!
宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』概要と感想~旧共産圏の過去と今をサッカーから知れる衝撃の名著!
今回ご紹介するのは2002年にみすず書房より発行された宇都宮徹壱著『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』です。
早速この本について見ていきましょう。
憎悪、そして憧憬―自由が抑圧された社会主義の時代を生きた人々にとって、“ДИНАМО”は二律背反の感情を抱かせる「栄えある称号」であった。ポスト冷戦時代を生きる、かつての名門クラブの物語。
目前に迫ったW杯。日本は謎多きロシアチームと対戦する。そのロシアと、クロアチアなど、東欧のサッカーをとりまく社会・政治状況を克明に取材したルポルタージュ。
Amazon商品紹介ページより
この作品は目次にありますように旧共産圏の様々な国のサッカー事情を知れる作品になります。
しかもただ単にサッカーを見ていくのではなく、タイトルにもありますように「国家権力とサッカーの結びつき」に特化して語られるのがこの作品の特徴です。
著者はこの本についてプロローグで次のように語っています。ものすごく重要なことが語られていますので少し長くなりますがじっくりと見ていきます。
果たして「ディナモ」とは何か。
すでに歴史の彼方へと葬り去られて久しい「共産主義」―そのシンボルともいえる「ディナモ」は、「ダイナモ(発電機)」に通じることから、これまで社会主義国家における「電気技師組合のクラブ」として広く認識されてきた。しかし、実は「ディナモ」が内務省、さらにいえば秘密警察のクラブであり、「権力」と同義語であったことは、あまり知られていない。
ソヴィエト・ロシアの衛星国家では、モスクワの「ディナモ」に倣ったクラブが相次いで誕生している。ディナモ・キエフ、ディナモ・トビリシ、ディナモ・べルリン、ディナモ・ブカレスト、そして、ディナモ・ザグレブ……。それらはいずれも、旧体制下においては内務省や秘密警察がサポートするクラブであり、さらにいえば「権力」の象徴であった。
「西側」にもその名を轟かせた、いずれ劣らぬ旧共産圏の強豪「ディナモ」が、一方で数奇な運命を共有していたことも見逃せない。冷戦が事実上終結した89年以降、ほとんどの「ディナモ」が名称変更を余儀なくされた。DDR(ドイツ民主共和国=東ドイツ)のディナモ・べルリンは「FCべルリン」に、ルーマニアのディナモ・ブカレストは、「ウニレフ・トリコロル」に、そしてクロアチアのディナモ・ザグレブに至っては「HASKグラジャンスキー・ザグレブ」、さらには「クロアチア・ザグレブ」と、猫の目のようにクラブ名が変わっている。
だが、とりわけ興味深いのは、いずれのクラブも紆余曲折を経ながら、最終的に「ディナモ」という「栄えある称号」を取り戻していることだ。その多くが、サポーターの熱烈な要望によるものであったことも留意すべきであろう。
憎悪。そして、憧憬。
自由が抑圧された社会主義の時代を生き抜いた人々にとって、「ディナモ」は二律背反の感情を抱かせる「装置」であった。すなわち、民衆にとって憎悪の対象である「権カ」の象徴でありながら、一方でサポーターが希求して止まない「栄光」への憧憬が、「ディナモ」という言葉には凝縮されているのである。
思えば89年の東欧革命は、それまで「鉄のカーテン」に閉ざされていた世界が一夜にして開放された、人類史上稀に見る瞬間であった。あれから10余年、共産主義の幻想が霧散し、あらゆる価値観が激しく変化・流転するなか、果たしてかの地のフットボールは、いかにして激動の時代をくぐり抜けてきたのであろうか―かつて圧倒的な強さを誇っていた「ディナモ」の現在について想いを巡らせながら、いつしか私は、その後の「ディナモの物語」を書き加えてみたいという衝動にかられるようになっていた。
ベルリン、キエフ、モスクワ、トビリシ、ブカレスト、そしてザグレブ……ただただ「ディナモ」を追い求める私の愚直な旅は、このようにして始まった。
みすず書房、宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』P21-23
「実は「ディナモ」が内務省、さらにいえば秘密警察のクラブであり、「権力」と同義語であったことは、あまり知られていない。」
「それらはいずれも、旧体制下においては内務省や秘密警察がサポートするクラブであり、さらにいえば「権力」の象徴であった。」
この事実には衝撃を受けました。
私はサッカーが好きなので、ディナモ・ザグレブやディナモ・キエフなどのチームは知ってはいました。ですがまさかそれが内務省や秘密警察から来ていたとは・・・!
内務省といえばソ連でいうとあのKGBです。現在はFSBに名前が変わっていますが、KGBはプーチン大統領が在籍していたことでも知られる組織です。ソ連時代の恐るべき組織が「ディナモ」の由来だったと知り本当に驚きました。
ここではその由来については詳しくはお話しできませんが、この作品ではそんな「ディナモ」の歴史、実態を現地取材と合わせて詳細に見ていくことになります。著者の語りも詩的と言いますか、なにかエモーショナルな雰囲気漂う実に読み応えある作品となっています。
ロシア・ウクライナ戦争をきっかけにロシアや東欧の歴史を学び始めた私にとってこの作品は非常に興味深いものがありました。ディナモ・キエフについてもこの本では語られますので、ウクライナの国家権力とサッカーの歴史も知ることができました。
これは名著です。思わぬところでものすごい本と出会うことになりました。
ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「宇都宮徹壱『ディナモ・フットボール 国家権力とロシア・東欧のサッカー』旧共産圏の過去と今をサッカーから知れる衝撃の名著!」でした。
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