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大銀行家アブラハムとメンデルスゾーン銀行の繁栄~作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの父ーあのロスチャイルド家とのつながりも

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大銀行家アブラハムとメンデルスゾーン銀行の繁栄~作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの父ーあのロスチャイルド家とのつながりも

前回の記事では作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの祖父モーゼス・メンデルスゾーンについてお話ししました。

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あのカントが尊敬するほどの大哲学者であったモーゼス。彼の存在はヨーロッパ中に轟いていたほどでした。

そんなモーゼスには三人の息子がいました。その次男アブラハムが作曲家フェリックスの父となります。このアブラハムは銀行家として大成功し、メンデルスゾーン銀行はドイツを代表する銀行へと成長することになりました。この莫大な資産があったからこそ、フェリックスへの最高レベルの教育が可能になったのでした。

ではモーゼスの三人の息子たちの話からこのメンデルスゾーン一族の繁栄について見ていきたいと思います。

モーゼスの優秀な息子たち~ヨーゼフ、アブラハム、ナータン

モーゼス・メンデルスゾーンには三人の息子がいた。父親が死んだ時、ヨーゼフは十六歳、アブラハムは十歳、ナータンはやっと四歳だった。ヨーゼフは後年、親孝行にも父親の伝記を書いたのだが、モーゼスがある友人に対して、「自分には蓄えなどほとんどない」から、自分が死んだあと、家族がどう暮らしていくかを考えると心配でならないと打ち明けているのを小耳にはさんだことがあると述べている。ヨーゼフは少々気取った文章で天国の父親に向かって次のように書いている。

「もし父上が曇りのない目で私たちを見下ろして下されば、子孫たちが神の恵みのもとでじゅうぶんな財産を持ち、誇るべき生活をしていることを納得して頂けるでしょう」

ヨーゼフのいい方はいささかもったいぶっているとはいえ、かなり事実に近い。モーゼス・メンデルスゾーンの息子は三人とも才能、知性、意欲にあふれ、父の尽力によってドイツに住むユダヤ人に与えられた新しい活動の場を早速利用するだけの機敏さも具えていた。(中略)

ヨーゼフは銀行を設立してこれが大当たりとなった。この銀行はメンデルスゾーン・アンド・カンパニーの名で一九三九年まで続くのである。


東京創元社、ハーバード・クッファーバーグ、横溝亮一訳『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』P135-136

長男のヨーゼフがまず銀行家として成功し、この一族の繁栄が始まっていきます。ただ、上の文にもありますようにメンデルスゾーン・アンド・カンパニーが1939年に終わってしまったのはなぜかというと、ナチスによって強制接収されてしまったからです。それがなければ今日まで続いていたかもしれません。

そしていよいよ次男のアブラハムへと入っていきます。

アブラハム・メンデルスゾーンは、好んで自分を有名な父と有名な息子との間にある「ゲダンケンシュトリッヒ」―つまり「ハイフン」だと称していた。この自分を卑下するユーモアの裏には、父子を共に誇りとしながら、父の遺産と息子の成長との間にはさまれてバランスを保つことに人生の大半を費した、複雑でしかも優雅な男の姿があった。


東京創元社、ハーバード・クッファーバーグ、横溝亮一訳『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』P 140

アブラハムが自分を「ハイフン」だと称していたという話は有名なエピソードで、別の機会では『かつて私は偉大な父の息子として知られていた。だが今では偉大な息子の父親として知られている』とも述べていたそうです。

そんな謙虚なアブラハムでしたが、彼も並々ならぬ才能を持った人物でした。

彼は若い時にパリに銀行家として修行に出て、勤務をしていました。そしてそこで出会ったレア・ザロモンという裕福なユダヤ人女性と結婚することになります。

ひのまどか『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生』より

フェリックスの母親ともなるこのレアも素晴らしい素養を持った女性でした。

レア・メンデルスゾーンは美しく、教養のある女だった。音楽に長じていて、優れたピアニストであり、またよい歌手でもあった。さらに英語、フランス語、イタリア語を話し、ギリシア語を読むことも出来た。アブラハム・メンデルスゾーンは妻の知的、芸術的な趣味に合わせて、一緒に音楽会や芝居に出掛けたり、画廊を訪ねたり、また熱心に読書もした。彼はドイツのいくつかの音楽関係の団体にも入って活動していたし、パリへ行く時は、たとえ銀行から派遣されたり、へンリエッタに会いに行くにせよ、必ずオペラやコンサートにも行った。こうして、パリではタリオーニのバレエを見たり、ゾンタークの歌やパガニーニの演奏を聴いたりして大感激し、同時に自分なりにそれらを評価することも忘れなかった。

東京創元社、ハーバード・クッファーバーグ、横溝亮一訳『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』P 141-2

フェリックスの多言語を流暢に操る能力や音楽的才能は母親譲りのものがあったのかもしれません。

そしてアブラハムは兄のヨーゼフが経営するハンブルクの銀行に就職するためにパリを離れます。こうして兄弟二人でメンデルスゾーン銀行を切り盛りしていくことになったのでした。

銀行の発展と共に、ヨーゼフとアブラハムはハンブルクの名士となり、アブラハムは「マルテンの水車小屋」という名の別荘を買った。初めての子ファンニーは一八〇五年十一月十四日に生まれた。(中略)

二人目の子供で、最初の息子であるフェリックス・メンデルスゾーンは一八〇九年二月三日に生まれた。次の娘のレべッカは一八一一年四月十一日、末っ子のパウルは一八一三年十月三十日に生まれた。しかし、その頃にはメンデルスゾーン一家はハンブルクを去り、再びべルリンに住んでいた。


東京創元社、ハーバード・クッファーバーグ、横溝亮一訳『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』P 142-3

ハンブルクで名士になったアブラハム。そしていよいよフェリックスが生まれてきます。そして姉のファンニー(ファニー)も並々ならぬ人物であり、フェリックスにとって欠かせぬ存在となります。後の記事でファニーについては改めて紹介していきます。

そして上の文の最後にありますように、この頃メンデルスゾーン一族はハンブルクを離れベルリンに拠点を移すことになります。ここがアブラハムを知る上で最も重要な箇所になりますので、じっくり見ていきます。

ナポレオン戦争下のメンデルスゾーン銀行~ロスチャイルド家との共通点

一家が引っ越したのは、ナポレオン戦争の間にハンブルクを占拠していたフランス軍当局の締めつけが厳しくなったためだった。このメンデルスゾーン兄弟は共に非常な親仏家で、特にアブラハムは手紙の中でフランス語を使うのが好きだったし、パリへの憧れも頭から去らなかった。彼はこんなことを書いている。

「パリの地を踏むのは、そのたびごとが、人生の重要な瞬間なのだ。そして、たとえ年老いて、好奇心が薄れ、気が弱くなったとしても、多少の教養を積んだ人ならば、パリにいるという喜びで毎日を過ごすにちがいない」

しかし、仕事上の要請、高まりつつあるドイツ人のナショナリズムによって、メンデルスゾーン兄弟の態度も変わり始めた。ハンブルクはハンザ同盟の自由港であり、ヨーロッパ各地に船を送り出していた。一八〇六年、ナポレオンが経済封鎖政策の一環として、イギリスとの貿易を一切中止せよという政令を公布し、ハンブルクの経済的繁栄は一夜にして崩れ去った。密輸などの不正行為が盛んになり、フランス軍の監視の網をくぐることは、経済的に必要というだけでなく、愛国的な行為とすらなっていた。

メンデルスゾーン一家は、銀行家、実業家として、フランス軍当局が手を伸ばしてくるまで、不法交易を率先してやっていた。一八一一年、脱出すべき時が来たと彼らは判断した。ある暗い霧の夜、アブラハムとレアと三人の幼い子供たち、そして八十六歳になっているフロメット・メンデルスゾーンたちは顔を見られないように布やマフラーを巻きつけて馬車に乗り込みハンブルクを脱出したのだった。彼らはかなりの金を持ち出すことが出来たので、べルリンで再び銀行を始め、まずは無難に事業を拡張することが出来た。一八一三年までに、アブラハムは市参事会員になっており、ナポレオンに対する解放戦争に従軍する義勇兵たちの装備に巨額の金を寄付していた。アブラハム・メンデルスゾーンは、フランスびいきのユダヤ人から、今や愛国的ドイツ人に変わっていたのである。


東京創元社、ハーバード・クッファーバーグ、横溝亮一訳『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』P 143-4

アブラハムはナポレオン戦争による貿易封鎖という経済的危機を逆手に、「愛国的行為」として財を成すことになります。そしてその後ベルリンで解放戦争への貢献からベルリンの名士となっていきます。

こうしてメンデルスゾーン銀行はますます繁栄していくことになりました。

そしてここで興味深いのはあの大銀行家一族との共通点です。

次の記事で改めて紹介しますが、ナポレオン戦争による貿易封鎖を逆手に取り莫大な財を築いたのはあのロスチャイルド一族も同じだったのです。ロスチャイルドもナポレオン戦争によってその強大な勢力を手にすることになったのでした。

ロスチャイルド家の祖も実はモーゼスと同時代人で彼と同じように一代で一躍名士にまでなった人物です。そしてその息子たちがヨーロッパ中に散り、ロスチャイルド帝国が生まれていきました。

メンデルスゾーン銀行とロスチャイルド銀行の共通点は非常に興味深いものがありました。

『かつて私は偉大な父の息子として知られていた。だが今では偉大な息子の父親として知られている』と話すアブラハムですがこれほどのことをやってのけた人物です。やはり彼も並々ならぬ人物でした。

そしてそんな彼はフェリックスに幼い頃から最高級の英才教育を施します。

ベルリンの最高レベルの音楽の教師をつけ、一流の学者を呼び勉学に励ませ、絵画の素養まで鍛える徹底ぶり。

フェリックスという、モーツァルトと並ぶ歴史上稀に見る天才に、世界最高レベルの英才教育を授けたアブラハム。

こうした背景があったからこそ、万能の天才フェリックス・メンデルスゾーンが生まれたのでした。

フェリックスが活躍するための下地を作ったのは、アブラハムと妻のレアです。彼らが用意した環境は世界最高レベルの恵まれた環境でした。この両親あってこそのフェリックスです。そういう意味でアブラハムという存在の大きさはとてつもないものがあったと私は思います。

祖父のモーゼス、父のアブラハム、そして天才作曲家フェリックス。

この三世代は奇跡と言ってもいいのではないでしょうか。

私は 『メンデルスゾーン家の人々―三代のユダヤ人』 を読んでつくづく驚きっぱなしでした。こんなすごい一族がいたことにただただ感銘を受けるばかりです。知れば知るほどメンデルスゾーンが好きになっていきました。

この伝記は非常に面白いのでぜひひのまどかさんの『メンデルスゾーン―美しくも厳しき人生』と共におすすめしたい一冊です。

では、次の記事でロスチャイルド家についてのおすすめの本を紹介していきます。ロスチャイルド関係の本や記事だと陰謀論系のものが大半を占めている中で、この本は歴史的な側面から見ていくので非常にありがたい一冊です。

メンデルスゾーン一族を知る上でもとても有益ですので引き続きお付き合い頂ければと思います。

以上、「大銀行家アブラハムとメンデルスゾーン銀行の繁栄~作曲家フェリックス・メンデルスゾーンの父ーあのロスチャイルド家とのつながりも」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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