ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バルトーク』あらすじと感想~ハンガリーの大作曲家バルトークのおすすめ伝記!
ひのまどか『音楽家の伝記 はじめに読む1冊 バルトーク』あらすじと感想~ハンガリーの大作曲家バルトークのおすすめ伝記!
今回ご紹介するのは2022年にヤマハミュージックエンターテインメントホールディングスより発行されたひのまどか著『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 バルトーク』です。
『音楽家の伝記 はじめに読む一冊 バルトーク』は1989年にリブリオ出版より発行された『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』の増補改訂版になります。旧版の『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』はすでに絶版になっており、そちらを復活出版させたのがこちらの作品になります。
以下の文章は以前の旧版を読んだ際に書いた記事になりますが、内容に大きな変更はありませんのでそのまま掲載させて頂きます。
ハンガリーの大作曲家バルトークのおすすめ伝記!ひのまどか『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』
今回ご紹介するのは1989年にリブリオ出版より発行されたひのまどか著『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』です。私が読んだのは1998年第5刷版です。
この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。
クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうしてこのシリーズ を手に取ることにしたのでありました。
この「作曲家の物語シリーズ」については巻末に以下のように述べられています。
児童書では初めての音楽家による全巻現地取材
読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。
リブリオ出版、ひのまどか『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』1998年第5刷版
一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。
ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。
さて、今回の主人公はハンガリーの大作曲家バルトークです。
バルトークはハンガリーやルーマニアなどの伝統的な民謡の研究者としても活躍し、そこから得たインスピレーションによって多くの名曲を生み出しました。
バルトークはハンガリー人として自分たちの音楽とは何なのか、そのルーツとは何なのかを生涯探究し続けました。
当時のハンガリーは事実上オーストリアの支配下にあり、音楽の世界においても進んだヨーロッパの文化を追いかけるだけの状況になっていました。
だからこそバルトークは奮起し、その突破口を地方の伝統的な民謡の研究に見出したのでした。
しかし、ナチスが台頭しハンガリーも同盟を組んだことによってバルトークはこの国での音楽活動が不可能になってしまいます。そこから彼は亡くなるまでずっとニューヨークでの亡命生活を余儀なくされることになってしまったのでした。
この伝記では19世紀末から第二次世界大戦終結までのハンガリー事情を知ることができます。ハンガリーが当時どのような状況に置かれていたのか、そしてナチスとの関係もこの本で語られます。
困難の中でも音楽と向き合い続けたバルトークの生涯を通してハンガリーの歴史も学べる素晴らしい伝記です。
では、最後に著者のひのまどかさんによるあとがきを見ていきたいと思います。
バルトークは、私たちの祖父母の年代の人である。
この時代の人は例外なくふたつの大戦に遭遇して、人間として最大の試練を強いられた。
そのなかにはバルトークを幾重にも上まわる悲惨な体験をした人も多いだろうし、英雄的な行為を残した人も多いだろう。
音楽家でありながら、彼ほど強烈に「平和の尊さ」「戦争の愚かさ」をアピールした人を私は知らない。
あらゆる非人間性に対して命をかけてたたかった彼の姿は、二十世紀という悲痛な時代を映しだす「良心の鏡」ともいえよう。
バルトークは、人間がどれほどの勇気と尊厳をもって許しがたい悪にたち向かえるかを、身を挺して証明した。
バルトークの生き方を知らなくても人生を送ることはできるが、知った後では、人生の一時一時をおろそかにはできなくなるような存在、それがバルトークであり、その意味からも私はこの物語を書く間、一天才作曲家の生涯を追う以上の重みと使命感を感じつづけていた。
いまだに世界の各地で戦争がおこなわれている現在、少しでも多くの若い世代の方々に「私の真の理想はこの地上の各民族がおたがいに兄弟になることだ」と語り、音楽という手段をもってこの信念を貫きとおしたバルトークの生き方を伝えたいとねがう。
さらに、彼の音楽家としての生き方。
これも、西洋ナイズされた日本の音楽家と音楽界に対する重要な示唆を含んでいる。
世界的にすぐれた西洋音楽を学び、楽しむことは非常に大切なことだが、同時に私たちもバルトークと同じように、みずからの伝統音楽を知り、より近隣の国々の音楽も知らなくてはならない。知る義務もある。
このことの重要性を私が指摘できるのは、東京芸術大学の、故小泉文夫教授のもとで民族音楽を学んだからであり、それ以後ひらけた音楽の世界の広さとすばらしさに魅せられつづけているからである。それゆえ、私はバルトークがおこなった調査の意味や内容がわかるし、彼が作曲家としての仕事を犠牲にしてまでも民族音楽の研究にのめりこんでいったその心情が、よく理解できる。
これらのことへの感謝をこめて、私はこのバルトークの伝記を心のなかで恩師小泉文夫先生に捧げている。
私たちの置かれている環境は、バルトークのように政治的にも地理的にもせっぱつまったものではないが、しかし、つねに自分たちの音楽上の母語というものを意識して、これを育てる努力を怠ってはならないのだと思う。
きたる二十一世紀には、真に国際的ということは、真に民族的ということと同意語になるだろう。
外国に出るたびに「日本のバルトークはだれか?」といった質問を受けるにつけ、世界の我々を見る目はきびしい、と痛感する。
バルトークの音楽をきいてみたいと思われる方には、私なりにふたつの曲を推せんしたい。
ひとつはピアノ、ヴァイオリン、弦楽合奏、オーケストラの四つの形で知られている《ルーマニア民族舞曲》で私自身も弦楽合奏団のメンバーだったころ、たびたび演奏した。
バルトークのことをよく知らないころにも、この作品の力強く土俗的なリズムやメロディーにふしぎな魅力をおぼえたものだが、いまではバルトークがもっともしあわせだった時代を伝えるこの作品を、東ヨーロッパからのすてきな贈り物、と思っている。
もう一曲は、バルトークがサラナク湖で書いた《オーケストラのための協奏曲》なのだが、これは楽しむためにきく音楽とは、まちがってもいえない。
胸をえぐられるような悲愴感や、ところどころで神経を逆なでされるような異様なひびきをもつこの作品を、なぜきいてほしいかといえば、これが二十世紀をもっともよく象徴する音楽のように思えるからである。
バルトークは、今世紀最大の作曲家と称えられているが、その彼がこうした音楽を書かなくてはならなかったのだ。
深く考えさせられる音楽であり、未来への思いを新たにさせられる音楽である。
リブリオ出版、ひのまどか『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』1998年第5刷版 P282-285
この伝記シリーズを読むきっかけとなったスメタナはチェコの音楽家でした。チェコもオーストリアの支配下にあった国です。そして今回紹介したバルトークの祖国ハンガリーもオーストリアの支配下にありました。
スメタナの伝記ではそんなチェコの社会情勢を学んだわけですが、この伝記ではハンガリーの歴史を知ることができました。
抑圧された中でも自分たち独自の音楽、文化を生涯かけて探究し続けたバルトークにはただただ頭が下がるのみです。凄まじい精神力です。
第二次世界大戦時のハンガリーやアメリカの状況も学べる素晴らしい伝記でした。ぜひぜひおすすめしたいです。
以上、「ハンガリーの大作曲家バルトークのおすすめ伝記!ひのまどか『バルトーク―歌のなる木と亡命の日々』」でした。
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