ひのまどか『バーンスタイン―愛を分かちあおう』あらすじと感想~ウエストサイド物語の作曲者バーンスタインのおすすめ伝記!
ひのまどか『バーンスタイン―愛を分かちあおう』あらすじと感想~ウエストサイド物語の作曲者バーンスタインのおすすめ伝記!
今回ご紹介するのは2002年にリブリオ出版から発行されたひのまどか著『バーンスタイン―愛を分かちあおう』です。
この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。
クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうして 「作曲家の物語シリーズ」 を手に取ることにしたのでありました。
この作曲の物語シリーズについては巻末に以下のように述べられています。
児童書では初めての音楽家による全巻現地取材
読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。
リブリオ出版、ひのまどか『バーンスタイン―愛を分かちあおう』
一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。
ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。
さて、今作の主人公は『ウエストサイド物語』で有名なアメリカの作曲家バーンスタインです。
『ウエストサイド物語』といえば日本でも劇団四季が公演しています。
バーンスタインは作曲家、ピアニスト、指揮者、教育者と多方面で活躍したユダヤ系アメリカ人です。
特に、指揮者としての天才ぶりはこの伝記でもとても強調されていました。
こちらは短い動画ですが、バーンスタインの指揮ぶりの一端を観ることができます。コンサート本番の姿もものすごいものがありますが、こうした練習時点での姿も印象的でした。彼のカリスマ、オーケストラを導いていく力が伝わってきます。
恥ずかしながら私はこの伝記を読むまでバーンスタインのことを何も知りませんでした。ですがこの伝記を読み、いかにバーンスタインが巨大な人物であるかに驚くことになりました。指揮者として超一流、作曲家としても、演奏家としても、教育者としても超一流。テレビの教養番組まで手掛けそれも大絶賛の嵐。
恐るべき才能です。(もちろん、その陰には信じられないような集中力を発揮して練習や勉強に打ち込む彼あってのことですが)
そして何よりも、彼の驚異のバイタリティー!常人では確実に倒れてしまうような殺人的なスケジュールをずっとこなし続けるエネルギーに私は度肝を抜かれました。体力もなくすぐ疲れて動けなくなってしまう私からするとあまりにうらやましい肉体、精神の強靭さでした。
著者のひのまどか氏はバーンスタインについてあとがきで次のように述べています。
音楽家で、彼ほど影響力のある存在を、私は他に思いつかない。今正にバーンスタインが求められている時代だというのに、その彼が居ないというのは、人類にとって不幸なことだ。彼は「世界的大指揮者」とか「スーパースター」とかを超えた、偉大な存在だったのだと、改めて思う。
バーンスタインの曲の中では、何と言っても《ウエスト・サイド物語》が圧倒的に有名で、人気が高い。
日本でもブロードウェイの引つ越し公演が今までに三回あったし、劇団四季や宝塚もこの名作ミュージカルをくり返し上演してきた。
私にとっては、《ウエスト・サイド物語》との出会いは強烈だ。というのも、一九六四年、ブロードウェイが総勢四十九名のキャストを引き連れて初来日した時、音大を出たばかりだった私はアルバイトでオーケストラの一員として公演に加わり、ほぼニケ月近く、日比谷の日生劇場で《ウエスト・サイド物語》を弾いていたのだ。その時のオーケストラは、弦楽器がクラシックの奏者で、管・打楽器がニュー・ハードというジャズのビッグ・バンドだった。我々はオーケストラ・ピットに入っていたのでステージは観られなかったが、連日《マリア》《トゥナイト》《サムホェアー》などのヒットナンバーに聴き惚れ、《体育館のダンス》《アメリカ》《ランブル(決闘)》の強烈なビートにしびれた。
それまでクラシック音楽しか弾いてこなかったので、ジャズやラテン音楽の混ったバーンスタインの音楽が非常に新鮮で、現代的に感じられたのだった。
残念ながら私はバーンスタインの指揮で弾く機会には恵まれなかったが、コンサートで見る、或は映像で見るバーンスタインが「本物の天才だ」ということは良く分った。それは本文中でも、インタビューでも語られている通り、オーケストラで演奏した経験を持つ人には瞬時に分るものなのだ。
二十代のバーンスタインは見惚れるほどの美男子だが、私が一番好きなのは最晩年の写真だ。内面の苦悩や葛藤が深く刻まれているが、その瞳と表情は愛に溢れた彼の人間性を何よりも雄弁に物語っている。
「芸術だけが、世界を救う力を持っている」
と、彼は我々に訴えつづけている。
リブリオ出版、ひのまどか『バーンスタイン―愛を分かちあおう』P274-275
この伝記では栄誉の絶頂にあるバーンスタインの苦悩も知ることになります。傍から見れば「こんな大成功の人生なのに何を不満に思うのか」と思ってしまうかもしれませんが、人間はやはりそう単純なものではないということを考えさせられます。
いかに名誉があろうと、経済的に成功しようと、人は誰しもが苦しみを抱えているということをこの伝記では見ていくことにもなります。人間の華やかな面だけでなく、その人が抱える苦悩にまで目を向けるひのまどかさんの伝記はやはり素晴らしいです。読み応え抜群です。
アメリカの偉人バーンスタインの生涯を学ぶことができる素晴らしい逸品でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
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