ひのまどか『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』あらすじと感想~ワーグナーの生涯を知るのにおすすめの伝記!
ひのまどか『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』あらすじと感想~おすすめワーグナー伝記!
今回ご紹介するのは1984年にリブリオ出版より発行されたひのまどか著『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』です。私が読んだのは1998年第8刷版です。
この作品は「作曲家の物語シリーズ」のひとつで、このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。
クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみたい」と思い、こうしてこのシリーズ を手に取ることにしたのでありました。
この作曲の物語シリーズについては巻末に以下のように述べられています。
児童書では初めての音楽家による全巻現地取材
読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。
リブリオ出版、ひのまどか『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』
一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。
ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。
さて、今回の主人公はワーグナーです。
ワーグナーについては以前当ブログでも「ニーチェとワーグナーとの出会い~巨匠ワーグナーの巨大な影響」でもご紹介しました。
ワーグナー(1813-1883)はドイツの作曲家です。
彼についてはここであまり詳しくは解説できませんが、『図説 ワーグナーの生涯』では次のように書かれています。
リヒャルト・ワーグナーは伝統的なオぺラに革命をもたらした。彼は独自の作曲技法を駆使して表現豊かな次元を切り拓き、新たな画期的指揮法をひっさげて表舞台に登場し、現代のスター指揮者の先駆けとなった。彼は2000年前の古代ギリシアの祝祭演劇の原則に則った独自の祝祭劇を創造し、世間の逆風をものともせず、懐には一文もないのにバイロイトの地に自分専用の祝祭劇場を築き上げた。彼の人生には昇竜の勢いの大成功があったかと思えば、また地獄行きの凋落の連続でもあった。彼は、天才、山師、女誑し、詐欺師、神話の創造者、音楽の魔術師などと言われてきた。
アルファベータ、ヴァルター・ハンセン、小林俊明訳『図説 ワーグナーの生涯』まえがきより
ワーグナーは1800年代中頃から後半にかけて活躍した音楽家です。
ワーグナーで有名な曲といえば何と言ってもこちらです。聴けば絶対わかります。
ワーグナーらしさが前面に出ているのがこの『ヴァルキューレの騎行』という曲です。
映画『地獄の黙示録』で用いられ、他にも様々な場面で耳にする曲だと思います。
ワーグナーの参考書は以前当ブログでも「樋口裕一『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』ワーグナーの特徴を知るためのおすすめ参考書!」の記事で紹介しましたが、『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』は彼の思想的な面がメインとなっていますので生涯を学ぶとなれば今回ご紹介するひのまどか著の『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』がおすすめです。
この作品もこれまで紹介してきたひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」と同じくものすごく面白いです。ドラマチックで、しかも感動的。
そしてこの伝記で驚いたのはワーグナーの最大のパトロンであるバイエルン国王ルートヴィヒ2世との物語です。
若いときからワーグナーに心酔しきっていたルートヴィヒ2世。国家財政を傾けてでもワーグナーを支援し、その活動を支えました。彼がいなければワーグナーは資金繰りに窮して破滅していたでしょう。
そして何より驚いたのがあのノイシュヴァンシュタイン城がこのルートヴィヒ2世によって建てられ、しかもワーグナーに強く影響を受けていたという事実です。
私はこれまでお城にあまり関心がなかったのでこの城のことは名前以外はほとんど知りませんでしたが、まさかワーグナーとつながりがあったとは!この伝記を読んでこのお城にものすごく行きたくなってきました。
この城とワーグナーのつながりはどの辺にあるのか、それはぜひこの伝記を読んで確かめてみて下さい。きっと驚くと思います。ルートヴィヒ2世にとってワーグナーがどれだけ大きな存在だったかがわかります。
そしてもう1点。ワーグナーの奥様コジマ夫人の偉大さもこの伝記で特に印象に残っています。
圧倒的な天才であり、破天荒なワーグナーを支え続け、最大の理解者でもあったコジマ夫人。普通の人ならワーグナーを支えることなど到底不可能です。しかもワーグナー死後のコジマ夫人の活躍ぶりにも度肝を抜かれました。やはりあのワーグナーを理解し支えることができたというのは彼女自身が並々ならぬ人物だったことの証だったのかもしれません。これは非常に興味深かったです。
最後にあとがきより著者の声を聞いていきたいと思います。
今も昔も、ワーグナーに対する評価は極端にわかれている。すきな人は熱烈にすきだが、きらいな人は毛ぎらいしている。
これはたぶんにワーグナーの人柄に対する、すききらいと関係しているのだろうが、私の体験からいえばそれ以上に、ワーグナーの作品に対する理解度によるものと思えてしかたがない。
正直にいって私も、ワーグナーの病的に自己中心的な性格は大きらいだが、しかしふしぎなことに、彼の作品を深く知れば知るほど、そうした嫌悪感はうすれてしまう。
反対に、そうしなくてはならなかった彼に対する同情さえ湧いてしまう。
それほど、彼が残した仕事は偉大なのだ。
だいたい、過去のどの大作曲家が自分でオぺラの台本まで書けただろうか!しかもワーグナーの作品のように、込み入った文学的な台本を!
それだけではなく、彼が生涯に発表した著作・論文のたぐいは、ゆうに作家一生分の量に達しているのである。
その上に彼は哲学者であり、俳優であり、革命家でもあった。
ようするに、その作品やその業績の前に出る時、彼の人間的欠点などは取るに足らぬことに思えてしまうのだ。
それがワグネリアンの条件だとすれば、私は今やりっぱなワグネリアンのひとりである。
そして、この本を読んで下さるみなさんに、心から願っている。
ともかく「管弦楽名曲集」あたりからワーグナーを聴きはじめて、彼の壮大なオぺラの雰囲気だけでも感じ取っていただきたい。そうした名曲の中には、これまでどこかで聴いていた音楽がかならずあるはずだし、特に人気の高い《ワルキューレの騎行》は、最近映画やコマーシャルの音楽にも使われている。
そうして、一歩、ワーグナーの世界に足を踏み入れたみなさんは、その後自発的に、彼のオぺラに興味を持たれるにちがいない。
ワーグナーの音楽はふしぎと「あとを引く」魔力を持っていて、いつの間にかそれ無しではいられない気持ちにさせられてしまうのだ。世界中のワグネリアンがそうした経過をたどって、ついにはバイロイトまではるばる足を運ぶことになるように……。
リブリオ出版、ひのまどか『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』1998年第8刷版 P323-325
この本を読めば現地に行きたくなります。著者は現地まで取材をし、現地の様子もこの本で紹介してくれます。それがまたいいんですよね。この「作曲家の物語シリーズ」は本当に素晴らしい試みだと思います。
ワーグナーの入門書として非常におすすめな作品です。
以上、「ひのまどか『ワーグナー―バイロイトの長い坂道』ワーグナーの生涯を知るのにおすすめの伝記!」でした。
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