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ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』あらすじと感想~モーツァルトとプラハの関係とは~波乱の生涯を知るのにおすすめの伝記!

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ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』あらすじと感想~モーツァルトとプラハの関係とは~おすすめ伝記、

今回ご紹介するのは1998年にリブリオ出版より発行されたひのまどか著『モーツァルト―美しき光と影―』です。

この作品は「作曲家の物語シリーズ」の第10巻目にあたります。このシリーズと出会ったのはチェコの偉大な作曲家スメタナの生涯を知るために手に取ったひのまどか著『スメタナ』がきっかけでした。

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クラシック音楽には疎かった私ですがこの伝記があまりに面白く、「こんなに面白い伝記が読めるなら当時の時代背景を知るためにももっとこのシリーズを読んでみようかな」と思い、こうして 「作曲家の物語シリーズ」 を読むことにしたのでありました。

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この「作曲家の物語シリーズ」については巻末に以下のように述べられています。

児童書では初めての音楽家による全巻現地取材

読みながら生の音楽に触れたくなる本。現地取材をした人でなければ書けない重みが伝わってくる。しばらくは、これを越える音楽家の伝記は出てこないのではなかろうか。最近の子ども向き伝記出版では出色である等々……子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています。

リブリオ出版、ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』

一応は児童書としてこの本は書かれているそうですが、これは大人が読んでも感動する読み応え抜群の作品です。上の解説にもありますように「子どもと大人が共有できる入門書として、各方面で最高の評価を得ています」というのも納得です。

ほとんど知識のない人でも作曲家の人生や当時の時代背景を学べる素晴らしいシリーズとなっています。まさしく入門書として最高の作品がずらりと並んでいます。

そして今回ご紹介する『モーツァルト―美しき光と影―』 』もやはり素晴らしかったです。

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791) Wikipediaより

モーツァルトはオーストリアのザルツブルクで生まれ、幼いころから神童としてヨーロッパ中を駆け巡り、生涯多くの名曲を生み出した天才中の天才です。

この本はそんなモーツァルトの生涯をわかりやすく知ることができる素晴らしい一冊です。

私の中でモーツァルトといえば『レクエイム』の「怒りの日」のイメージが強烈にあります。これを大音量で聴いていると体が勝手に動いてしまいます。

こちらの動画では彼の名曲にはどんなものがあるかがすぐにわかりますのでこちらもおすすめです。

さて、今回の記事のタイトルにもありますようにモーツァルトはプラハの街ゆかりの作曲家でもあります。主な拠点はオーストリア、特にウィーンでしたが、彼は大人になって父のサポートから離れると、社会人としてうまく立ち回ることがまったくできませんでした。音楽に関しては天才中の天才でも、世渡りに関しては彼は子供のままだったのです。

せっかくお金を稼いでも湯水のごとく消えていき、結婚相手との生活もうまくいかず、無理な生活に心身は疲弊し借金に苦しめられる日々・・・

神童としてあれほどもてはやされていたのが嘘のような落ちぶれ方でした。ウィーンで彼は行き詰ってしまったのです。

しかし、そんな時に手を差し伸べてくれたのがプラハだったのでした。

プラハの人々は熱狂的にモーツァルトを迎えます。

そしてそのことに感激したモーツァルトは次のオペラの新作をプラハで公演することを約束します。

そうして発表されたのがあの『ドン・ジョバンニ』だったのでした。

『ドン・ジョバンニ』は言語の違いによって「ドン・ファン」、「ドン・ジュアン」となります。

「ドン・ファン」という言葉は私達もよく耳にしますよね。

その「ドン・ファン」の起源はスペインで1630年に書かれた『セビーリャの色事師と石の客』という作品が始まりだそうです。

美男で好色で放蕩的人物として強烈な個性を放ったドン・ファンはその後の作家や芸術家に影響を与え続け、いつしか「ドン・ファン」はプレイボーイ、女たらしの代名詞となっていったようです。

ドン・ファンはスペイン語でDon Juanと綴ります。

面白いことにこれをイタリア語風に読むと「ドン・ジョヴァンニ」、フランス語風だと「ドン・ジュアン」という読み方に変わります。

モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』もここから来ています。

ロシアの国民詩人プーシキンもこのドン・ファン物語から『石の客』という作品を発表しています。モーツァルトとプーシキンの「ドン・ファン」物語の違いを比べてみると二人の国民性の違いも感じられて非常に興味深いです。以下の記事でそのことについてもお話ししていますので興味のある方はぜひご覧ください。

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さて、プラハとモーツァルトの話に戻ってきましょう。ここからは著者の声を聞いていきます。

モーツァルトはプラハを四度おとずれた。

《フィガロの結婚》の作曲者として招待されたときと、《ドン・ジョヴァンニ》初演のときと、ポツダム旅行の往路に立ちよったときと、オペラ《皇帝ティトの慈悲》初演のときである。

はじめての訪問は、モーツァルトのザルツブルク時代からの親友で、プラハの有名な作曲家ドゥーシェクと、その夫人で美しいソプラノ歌手ヨゼフィーネの心のこもった招待計画によるものだった。

このときは、夫妻がホスト役をたのんだトゥーン伯爵の館(現在イギリス大使館)に泊まったが、つぎからは夫妻の夏の別荘ヴィラ・べルトラムカに腰を落ちつけて、作曲したり、おしゃべりや玉突きに興じたりした。

晩年のモーツァルトに、思いもかけないよろこびをあたえてくれたプラハ。そのプラハでの楽園となったべルトラムカ荘は、町を見わたす「黒い丘」に建っている。

丘の下から荘にのぼる道は、モーツァルト通りと名づけられており、プラハの人びとのモーツァル卜によせる愛着をしめしている。

ベルトラムカは二階建てのしっとりとした建物で、現在二階全部がモーツァルト記念館になっていた。

モーツァルトが使っていた部屋には、美しい時代ものの家具と白いチェンバロが置かれてあり、彼がいかにドゥーシェク夫妻から歓待されたかが伝わってくる。

リブリオ出版、ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』 P315-316

プラハとモーツァルトがいかに深い結びつきがあるかがここからもわかりますよね。

ですがこの後すぐ、著者は私たちがちょっと悲しくなるような、ある事実も語ります。

モーツァルトが亡くなったとき、世界に先がけてまっ先に追悼ミサをあげたのは、このプラハだった。

しかしその三か月まえ、プラハの興行師の依頼によるオぺラ《皇帝ティトの慈悲》の初演のためにきたときには、プラハは以前ほど彼に好意的ではなかった。ウィーンから皇帝一行がきていたせいもあったが、彼は、はなやかな祭典の外に置かれた。早くも彼は、あきはじめられていたのだ。

彼の追悼ミサがおこなわれた聖ニコラウス教会のなかにすわって、わたしは思った。

モーツァルトを一番悲しませたのも、結果的に彼を死に追いやったのも、人びとの移り気ではなかったのか。人ははじめ熱狂してモーツァルトの天才に飛びつくが、一度むさぼりつくすとまた別の刺激をもとめて別のものに飛びつく。これは時代をこえた、国をこえた、人間の習性でもある。しかし、人は必ずまたモーツァルトにもどり、今度こそ本物の崇拝者となるのだ。ウィーンとプラハのふたつの都が、そのことの表明に全力をあげているではないか。


リブリオ出版、ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』 P 316-317

あれだけ熱狂していたプラハ市民もモーツァルトに飽き始めていたというのです。

著者の「人ははじめ熱狂してモーツァルトの天才に飛びつくが、一度むさぼりつくすとまた別の刺激をもとめて別のものに飛びつく。これは時代をこえた、国をこえた、人間の習性でもある」という言葉の重みを感じます・・・

これは考えさせられますよね・・・天才の宿命と言いますか、存命中は苦難の人生であるものの、死後時間が経つにつれ名声が高まっていく。モーツァルトもまさしくそうした道を辿ったのでありました。

私も2019年にプラハを訪れました。その時はまだモーツァルトのことをほとんど知りませんでしたのでこの記念館は訪れていません。次に行くときはぜひ行ってみたいと思います。

ですが、モーツァルトがオルガンを演奏したといわれる聖ミクラーシュ教会には私も足を運んでいます。

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この教会の美しさには度肝を抜かれました。この教会がモーツァルトにゆかりのある場所だったというのは後から知りましたが、非常に素晴らしい教会でした。

では、最後にモーツァルトの特徴について著者が述べている箇所を見ていきたいと思います。

逆説的ないいかたになるが、モーツァルトを弾くのはむずかしい。

譜面づらはかんたんで子どもでも弾けるのだが、これを「モーツァルトの音」で弾こうと思うと四苦八苦してしまう。

音楽があまりに完ぺきに、簡潔にできあがっているので、ごまかしがきかないのだ。

はやいパッセージは、音符のひと粒ひと粒を真珠のネックレスのように均等に光らせなくてはならないし、ゆるやかな楽章はフレーズの頂点を定めて、息長く歌いつがなくてはならない。

結果として、モーツァルトは奏者の音楽性やテクニックや、知性やセンスの良し悪しを残酷なほどあらわにしてしまう。

このモーツァルトの「こわさ」に気づいたときから、わたしはソロの場でモーツァルトをとりあげるのをやめてしまった。モーツァルトは完ぺきに弾けてあたりまえに聞こえ、わずかなミスがだれにでもわかってしまう、こわい、こわーい作曲家なのだ。これを解決するには、高度に職人的なテクニックと、音楽づくりの綿密な計算が必要なことを、わたしはつい最近もウィーン・フィルのコンサート・マスターの講義をとおして、再確認したところである。

反対にモーツァルトを聞くにあたっては、むずかしいことはまるでない。

これがモーツァルトのすばらしいところで、大曲にも小品にも上質の娯楽と深く心に浸みいるメロディーが散りばめられている。モーツァルトのすぐれた演奏に接する機会が多いせいか、このところとみに、わたしはモーツァルトにひかれる。とくに、モーツァルトニ十代なかばからの交響曲や協奏曲のゆっくりとした楽章は、美の極致のように思える。

日本ではモーツァルトのオペラを聞く機会があまりないので、モーツァルトを聞こうと思われるかたは、やはり、器楽曲から入門されるのがいいだろう。第三十九番、四十番、四十一番の三大交響曲もポピュラーだし、映画音楽に用いられたほどロマンティックな、ピアノ協奏曲第二十一番もある。セレナードやディヴェルティメントは、小さなお子さんにもよろこばれている。

モーツァルトを聞くには、まったくかまえる必要がないし、BGMとして流しておいてもいい。その目的で書かれた曲もたくさんあるのだから。「モーツァルトのひびきのなかに身を置くこと。」これほどかんたんな方法で親しんでいける作曲家はそうはいないように思う。


リブリオ出版、ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』 P 324-325

なるほど、演奏家ならではの視点が非常に興味深いですよね。そして私のようなクラシック初心者でもモーツァルトはわかりやすいというのはありがたいです。

そして最後になりますが、モーツァルトに関しては『アマデウス』という有名な映画があります。

この映画もものすごく面白いです。かなり衝撃的な結末を迎えるこの映画ですが、実はこの映画、プラハでロケが行われています。

現代でもなおプラハとモーツァルトのつながりを感じさせられます。

この映画もぜひぜひおすすめしたい映画です。

さて、ここまでプラハとモーツァルトについてお話ししてきましたが、ひのまどか著『 モーツァルト―美しき光と影―』 はとにかく素晴らしい伝記です。スメタナに続きモーツァルトの伝記も読んだわけですがもうすっかりひのまどかさんのファンになってしまいました。こんな面白い本に出会えて私は幸せです。

こうなったらもうひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」を全部読みたい!

私はいつものごとくまたひたすら読書沼にはまっていくことになってしまったのでした。

というわけでこれから先しばらくはひのまどかさんの「作曲家の物語シリーズ」を当ブログで紹介していくことになります。どの伝記も非常にクオリティーが高く、とても面白いのでぜひおすすめしたいです。当時の時代背景も学べるので一石二鳥以上の内容となっています。

今作の『 モーツァルト―美しき光と影―』もぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「 ひのまどか『モーツァルト―美しき光と影―』モーツァルトとプラハの関係とは~波乱の生涯を知るのにおすすめの伝記!」でした。

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私のプラハ旅行記はこちらです。愛すべきプラハの魅力を紹介していますのでぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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