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タミム・アンサーリー『イスラームから見た「世界史」』あらすじと感想~イスラム教の歴史を知るのにおすすめの名著!

目次

タミム・アンサーリー『イスラームから見た「世界史」』概要と感想~イスラム教の歴史を知るのにおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2011年に紀伊國屋書店から発行されたタミム・アンサーリー著、小沢千重子訳『イスラームから見た「世界史」』です。

早速この本について見ていきましょう。

9・11―その時はじめて世界は“ミドルワールド”に目を向けた。西洋版の世界史の後景に追いやられてきたムスリムたちは自らの歴史をどう捉え、いかに語り伝えてきたのか。歴史への複眼的な視座を獲得するための、もうひとつの「世界史」。

Amazon商品紹介ページより

著者のタミム・アンサーリーはアフガニスタンの出身で、それゆえ自分のアイデンティーに苦しんだ経験があると述べています。この作品はそんな著者が中東のイスラーム世界〈ミドル・ワールド〉の歴史をイスラム教徒側の視点から描いたものになります。

訳者あとがきではこの本について次のように述べられています。

本書はムスリムが語り伝えてきた世界の歴史を血の通った人間のドラマとして描いたものである。著者は序章で「私が目指しているのは主として、実際に生じたとムスリムたちが思っている原動力であり、世界史における彼らの役割を理解する手立てとなるからだ」と述べている。

著者は多様な世界史が存在しうることを認めたうえで、西洋版世界史物語とイスラーム版世界史物語を対置し、それらが交差したときに生じた摩擦と軋轢から現在の世界を苦しめている対立が生まれたと主張する。

そして終章では「人類が共有するただ一つの歴史の中に位置づけられる普遍的な人類共同体を築くことを目指して、数多の歴史を編集する」必要性を説いている。

アイデンティティーの分裂に悩みながらも、幼少時に培われたムスリムとしての視点と、アメリカ移住後に育んできた視点から、歴史を複眼的に考察する著者の言葉には説得力がある。

本書は広く東西の文化を渉猟し、イスラームの伝承を咀嚼して生まれた得がたいイスラーム入門書である。ルーミーやラービア、バーブルら魅力的な人物が詩情たっぷりに描かれ、読者を驚嘆させること必至のアフガーニーなど日本人には馴染みの薄い人物が登場する。本書での出会いをつうじて、読者がイスラームの知の伝統や遺産について関心を深めることを願ってやまない。
※一部改行しました

紀伊國屋書店、タミム・アンサーリー著、小沢千重子訳『イスラームから見た「世界史」』P660-661

「歴史」とは、「誰か」が「何らかの立場」に立って書くものです。

世界史はこれまで、西洋、あるいは東洋からの視点で書かれ、イスラム教徒が世界をいかに認識していたかということはあまり取り上げられることがなかったというのが実情でした。

中東のイスラーム世界は世界史において脇役に置かれ、しかもそのイスラム世界が最も繁栄していた時期の歴史ですらほとんど語られることはありませんでした。

しかし9・11事件をきっかけに世界はイスラム世界に目を向け始めます。

しかしその目の向け方は相変わらず西欧、東洋中心のものの見方で、イスラム教世界を正しく把握できているとは決して言えないものでした。

そこでこの著書が書かれることになったのです。

この本は600頁超のかなり分厚い本となっていますが、面白過ぎてあっという間に読めてしまいます。

この本ではイスラム教の始まりからその発展の過程を見ていくことになります。開祖のムハンマドはいかなる人物だったのか、そして側近たちはどのようにムハンマドを支え、そこから教団を拡大していったのか、この時点ですでにものすごく面白いです。と言うのも著者の語り口が絶妙で、まるで小説を読んでいるかのようにすいすい読めてしまいます。イスラム教の歴史というと、難しいイメージがあるかもしれませんが、びっくりするほど物語の面白さに引き込まれてしまいます。

この本の素晴らしい点はまさにこの著者の語り口にあります。宗教や世界史の知識がない人にもその面白さが伝わる語りというのはなかなかできることではありません。それを著者は見事にやってのけます。

そしてイスラム教の成立段階の後は、そこから現代に繋がるまでの歴史をじっくりと追っていきます。イスラム世界の繁栄と衰退の歴史が非常にわかりやすく解説されています。これまたドラマチックで一気に読めてしまいます。

イスラム教の歴史を知る上でこの本は最高の本です。

単にイスラム教そのものを知るだけではなく、世界とのつながりにおいてそれを見ていくことができます。

私は以前当ブログでキリスト教史のおすすめの本フスト・ゴンサレス著『キリスト教史』をご紹介しました。

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この本もそうなのですが、世界全体とのつながりという視点から宗教の歴史を書き上げる作品は非常に貴重なものです。しかもそれがわかりやすくて面白く、なおかつ信頼できるものであるとすればなおさらです。

タミム・アンサーリーの『イスラームから見た「世界史」』はまさしくこれを満たした名著中の名著です。

私はこの本が大好きで何度も読み返しています。2019年に海外を旅する前にもこの本でイスラム教の歴史を学びました。

この本を読めばきっと意外な事実をたくさん発見すると思います。こんな刺激的な本はなかなかお目にかかれません。

現在、パレスチナ問題やアフガン問題で中東情勢は非常に危機的な状況です。

それらはなぜ起こってしまったのかということもこの作品を読めばその背景が見えてきます。今現在起きている問題の根の深さが明らかになります。

世界情勢を考えていく上でもこの作品は私たちに大きな視点を与えてくれる良書です。

宗教を学ぶことは世界そのものを学ぶことであり、人間を学ぶことであるというのがこの本では感じられると思います。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「タミム・アンサーリー『イスラームから見た「世界史」』おすすめ参考書!イスラム教の歴史を知るのに最適!」でした。

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イスラームから見た「世界史」

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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