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神田千里編『民衆の導師 蓮如』概要と感想~本願寺中興の祖蓮如の生涯と時代背景を知れるおすすめ本
今回ご紹介するのは2004年に吉川弘文館より発行された神田千里編『民衆の導師 蓮如』です。
早速この本について見ていきましょう。
親鸞の子孫として法灯を継ぎ、戦国の乱世を精力的に伝道、大教団を築き上げた蓮如。寂れた本願寺の再興を決意し、布教を開始。その活動は旧勢力の反発を招き、近江、越前へと移り、北陸一帯を一向一揆の基盤とする。その後山科に移住浄土真宗隆盛の基礎を築いた。民衆への接近、親鸞思想との相違、女性観や現代の民俗に蓮如の巨大な足跡を辿る。
吉川弘文館商品紹介ページより
蓮如(1415-1499)Wikipediaより
本書『民衆の導師 蓮如』は浄土真宗中興の祖蓮如の生涯と時代背景を知れるおすすめ参考書です。
編著者の神田千里氏は当ブログでもこれまで『一向一揆と石山合戦』や『宗教で読む戦国時代』をご紹介しました。
神田氏は従来の通説的な歴史観ではなく、近年どんどん明らかになってきている当時の時代背景をベースに驚きの事実を紹介してくれます。私も上で紹介した本を読んでかなり驚きました。
そして以下が本書の目次なのですが、蓮如の伝記部分としては神田氏の「蓮如の生涯」で語られていくことになります。
私の蓮如
寛正二年、この世とあの世………峰岸純夫
中・高年世代の希望の星………大村英昭
蓮如のことば………大隅和雄
錯綜する人物像………神田千里
蓮如の生涯………神田千里
本願寺教団の創造………金龍 静
民衆のなかの蓮如………遠藤 一
「御文」による伝道………岡村喜史
政治権力と蓮如………木越祐馨
親鸞と蓮如………青木 馨
蓮如と女性………西口順子
蓮如伝承の生成と門徒の信仰………蒲池勢至
この目次を見て頂ければわかりますように、本書では様々な観点から蓮如という人物を見ていくことになります。
本書はかっちりとした蓮如研究書といった雰囲気ですので、入門書としてはおすすめしにくいものがありますが、かなり深いところまで蓮如について学べるので私にとってはありがたい一冊でありました。
蓮如の伝記ですと同じく吉川弘文館より発行された笠原一男著『蓮如』というロングセラーがあります。私もその本を読んだのですが1963年発行ということでその記述に階級闘争史観の影響があるのが気になりました。またかなり本願寺寄りの叙述なので、現代の歴史学からすると鵜呑みにはできない説もいくつか出てきます。とはいえ、そうした面もありつつも、この伝記は当時の政治情勢や経済事情などにも目を配っており蓮如の優れた伝記と言えると思います。全面的には鵜呑みにはできませんが、笠原一男著『蓮如』も合わせておすすめしたい参考書であります。
蓮如については新書などでも様々な本が出ていますが、学術的にかちっと学ぶならば今回紹介した2冊がおすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「神田千里編『民衆の導師 蓮如』概要と感想~本願寺中興の祖蓮如の生涯と時代背景を知れるおすすめ本」でした。
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民衆の導師 蓮如 (日本の名僧 13)
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