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香取忠彦、穂積和夫『新装版・奈良の大仏 世界最大の鋳造仏』あらすじと感想~大仏はどのようにして作られたのかをイラストで学べるおすすめ参考書
今回ご紹介するのは2010年に草思社より発行された香取忠彦著、穂積和夫イラストの『新装版・奈良の大仏 世界最大の鋳造仏』です。
早速この本について見ていきましょう。
奈良の大仏の建造は、日本が統一されてから初めて行われた国家的な規模の大事業であった。史上空前の大鋳造仏建設の波瀾に富んだ全過程を描いた力作。
ソフトカバー新装版になって再登場。
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本書はあの東大寺の大仏がいかにして作られたかをイラストで学べるおすすめの参考書です。
東大寺の大仏については以前当ブログでも武者小路穣著『天平芸術の工房』や五味文彦著『大仏再建 中世民衆の熱狂』をご紹介しました。
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美しい仏像や荘厳な寺院建築の裏には名も残らぬ多くの制作者たちの存在があります。この本では仏教の伝来後、国家の下どのように仏像制作の専門家達が組織され活動していたのか、また、そうした国家事業としての東大寺建造はどのように行われたのかも知ることができます。
特に、前代未聞の大事業たる東大寺造営がいかなる規模で行われていたのかはとても興味深かったです。
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重源という名前は大仏再建の責任者ということでよく耳にはしていましたが、実際このお方がどのような思想を持ち、どのような活動をしていたのかというのは恥ずかしながら私もよく存じ上げておりませんでした。
ですがこの本を読んで驚きました。これほどの行動力、組織力、そして真摯な仏道への姿勢にはただただ頭が下がる思いです。
特に『天平芸術の工房』では当時の人口600~700万の内、材木の運搬だけで166万人もの動員があったというのは衝撃的な事実を見ることになりました。しかもこれはあくまで材木の運搬だけの人数であり、その他にも膨大な作業があったことは言うまでもありません。まさに国民を総動員した大国家事業だったということがわかります。
ただ、そんな信じられない規模で行われた大仏造営ですが、これがどのような方法で作られたかというとあまりイメージが湧きませんよね。
私達はすでに出来上がった仏像やその写真を見ています。当たり前ですがそれができる前にはそこに何もなかったわけです。その何もなかった土地にあの巨大な仏像が造られたのです。そう考えるとあの大仏がいかにとてつもないものなのかが何となく感じられますよね。
本書ではそんなゼロからの大仏造りを見開きいっぱいのイラストと共に見ていくことができます。あの巨大な仏像はこうして造られていたのかと驚くこと間違いなしです。
そして改めて気づかされたのが大仏造営に関わる人々の多種多様さです。土木の運搬や大工、彫刻師などこれまでも様々な本を読んで多くの職人が作業していたのはたしかにわかってはいたのですが、やはりイラストで実際に大仏の前で作業をしているたくさんの人々を見ると文章だけの時と比べて受ける印象が圧倒的に違います。1300年前に、私達のご先祖様がそれこそ精魂かけて作ったのがあの大仏なのだということがよくわかります。
この本を読めば東大寺の大仏への見方がきっと変わることでしょう。私も次に東大寺大仏殿に行ける日が楽しみでなりません。
ぜひおすすめしたい参考書です。
以上、「香取忠彦、穂積和夫『新装版・奈良の大仏』あらすじと感想~大仏はどのようにして作られたのかをイラストで学べるおすすめ参考書」でした。
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奈良の大仏 新装版 世界最大の鋳造仏 (日本人はどのように建造物をつくってきたか)
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本書は私達に新しい視点をくれる実に刺激的な一冊です。
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