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桃崎有一郎『武士の起源を解きあかす』概要と感想~脳内スパーク間違いなし!武士の始まりに迫る衝撃の一冊!

武士の起源を解きあかす
目次

桃崎有一郎『武士の起源を解きあかすー混血する古代、創発される中世』概要と感想~脳内スパーク間違いなし!武士の始まりに迫る衝撃の一冊!

今回ご紹介するのは2018年に筑摩書房より発行された桃崎有一郎著『武士の起源を解きあかすー混血する古代、創発される中世』です。

早速この本について見ていきましょう。

サムライ好きの日本人が、誰も知らない武士の正体。
歴史学界が匙を投げた、
日本史、最大級のミステリーに気鋭の歴史学者が挑む!

武士はいつ、どこで、生まれたのか? 七世紀ものあいだ日本を統治してきた彼らのはじまりについては、実ははっきりとした答えが出ていない。かつて教科書で教えられた「地方の富裕な農民が成長し、土地を自衛するために一族で武装し、武士となった」という説はでたらめで、都の武官から生まれたという説は確証がなく、学界は「諸説ある」とお茶を濁す。この日本史における長年の疑問を解消するために、古代と中世をまたにかけ、血統・都鄙・思想に着目し、武士の誕生の秘密を明らかにする。

Amazon商品紹介ページより

まずはじめに言わせてください。

「本書は衝撃的です。脳内スパークのとてつもない作品です」

上の商品紹介にもありますように、本書では「武士の起源とは何か」という問題に真正面から立ち向かいます。この引用にあるように「武士の起源とは何か」という問題が今も「諸説ある」という状況で解決を見ていないとあるのも驚きですよね。著者はこうした状況に対して次のように述べています。

それにしても、〈武士がどこからどう生まれてきたか〉という問いへの、シンプルで納得のゆく答えを、まだ専門家から得られないというのは、実に驚くべきことだ。武士は日本の教科書に必ず、、載っていて、義務教育を受けた全員が、、、覚えさせられるというのに。

そればかりか、武士はサムライと呼ばれ、日本特有の文化として長らく西洋人に珍しがられ、日本人自らもしばしば良き伝統文化だと誇ってきた。今でも野球やサッカーの世界大会のたびに、日本代表チームを「侍JAPAN」とか「SAMURAI BRUE」と呼んでマスコミがサムライ精神を煽り、かなりの数の国民が熱狂する。テレビではまだ盛んに時代劇が放映され、NHKの大河ドラマも圧倒的多数が武士の話だ。それほど日本人は武士が好き(なはず)なのに、武士の正体を誰も知らず、専門家さえ答えないとは。〈武士とは何か〉を日本人が説明できないなら、一体誰が説明できるいうのか。

わが国の歴史は、卑弥呼の時代から一七〇〇年あまり、後の「日本」につながる倭国の姿がはっきり見えてから一五〇〇年あまり、「日本」の国号が定まってからでも一三〇〇年ほどある。そのうち七〇〇年近くを、鎌倉幕府の成立から江戸幕府の滅亡までが占める。わが国の歴史の約半分に及ぶ、七世紀もの間、この国の支配者は武士だった。ならば、武上が何者か不明ということは、この国の歴史の半分が理解できないのと同じことだ。

日本の学問が近代化されてから、もう一世紀半も経った。もう待ちくたびれた、と日本人は声をあげてよい。そろそろ、学問的に信頼できる武士の正体・素性を知りたいのだが、と。いつまでも「諸説ある」では将が明かない。歴史学も、この大問題を棚上げしたまま、細かいことばかり論じていても仕方ない、日本中世史への理解は大きく先に進めない、というのが、中世史家としての私の判断だ。

筑摩書房、桃崎有一郎『武士の起源を解きあかすー混血する古代、創発される中世』P16-17

本書は著者のこうした信念の下、今まで考察されてこなかった角度から様々な驚くべき事実が語られることになります。

これは衝撃です。これまで漠然としか武士というものを考えることはありませんでしたが、どこからこうした存在が生まれてきたのかというのはまさに目から鱗でした。そしてこの武士の起源を考えることが当時の時代背景そのものを見ていくことになるというのがまた刺激的でした。

とにかく私達がイメージする平安時代と全く異なるのです。当ブログではこれまで奈良、平安時代の本をいくつも紹介してきました。特に『平安京の下級官人』『平安貴族の夢分析』では平安京の人々の生活について見ていくことになりましたが、武士の土壌となる地方の恐るべき状況というのはあまり想像もしていませんでした。とてつもない収奪の現場がそこにあり、平安京の朝廷とはまるで異なる修羅の世界がそこにあったのです。しかもこの朝廷と地方が実は密接につながっており、その相互作用で武士が生まれてくることを本書で知ることになります。

特に桓武天皇や嵯峨天皇が子だくさんすぎ、その子孫たちが増えたことで治安が悪化し、武士へと繋がっていったという流れには驚きでした。他にも「えっ!」と思うことがどんどん出てきます。これは脳内スパークでした。

ただ、本書を読んでいて不安に思うこともありました。

それは著者の言葉が強すぎることと、推測、断定が多いということです。私は他者への攻撃性が強い本や感情的な本からは一歩引くようにしています。本書の著者桃崎有一郎氏の語りはまさに「~に違いない」などの断定も多く、先行研究への批判も強めです。Amazonのレビューにおいても賛否両論分かれている作品です。

本書の内容が刺激的で面白いだけに、この本で説かれることを本当に信じてよいのかと私は迷ってしまいました。はたしてこの本は学術的にはどのような評価を受けているのか、信用してよい本なのか、それが私にとって大きな不安です。桃崎有一郎氏は新進気鋭の歴史学者として各所で紹介されていて、ざっと調べたところ大きな批判等はないようです。

ただ、本書の続編ともいえる『平安王朝と源平武士ー力と血統でつかみ取る適者生存』で桃崎氏が述べた次の言葉に少し安堵と言いますか、「なるほど、だからそのような言葉を使っていたのか」ということがわかりました。そちらをここで紹介します。

高校生の頃、私は新書という媒体と出会った。その頃から新書が好きだ。(中略)

新書は、プロの研究者が専門的な内容を述べていながら、本気を出した高校生なら読める敷居の低さに、無二の魅力がある。研究者でない著者の本に飽き足らなくなっていた思春期高校生の、未熟で無尽蔵の好奇心にはぴったりだった。

何よりの魅力は、著者たちの〝言葉〟にあったと思う。学術論文や研究書では、感情や想いはすべて胸のうちに秘め、冷静を装わなければならない。客観的事実とその論理的帰結のみを述べ、自分を消さなければならない。「思う」という言葉を使うな。「考える」も自分が主語だからだめ、「考えられる」と受け身にせよ、「私」という主語を使うな。論文指導をしてくれた先輩が、そう叩き込んでくれる。そうした言葉でしか表しにくい著者自身の想いを、新書なら存分に表明できる。高校生の私を魅了したのは、専門的な内容と、その著者の想いが絶妙な塩梅で同居して、強く訴えかけてきたからだった。

研究者は、ビジョンを持っている。その日までの情報収集や研究実績に基づいて、〈きっと世界はこうなっている(いた)んだろう〉と思い描く、それなりに壮大なビジョンでもある。実証は完了していないし、想いが多くを占めるから、学術論文での発表には適さない。しかし、新書ならそれを発表できる。しかも、想いを存分に込めて。そして、一部の専門家ではなく、広く世に問える。そうして新書の形でしか発表できないアイディアが、学界に影響を与えることもある。(中略)

史実も、発見するだけでは足りない。発表し、共有してこその発見だ。私は研究者を志したが、いつか、私を研究者の道へと進ませた新書の形で、新しい知的興奮を世に問いたい、という野望を抱いた。幸いにも、本書と同じ筑摩書房の御厚意によって、その野望の第一歩となる『武士の起源を解きあかすー混血する古代、創発される中世』を出版できた。

筑摩書房、桃崎有一郎『平安王朝と源平武士ー力と血統でつかみ取る適者生存』P352-355

新書だからできる方法で自身のアイディアを広めたい。そしてそれが一般にも学会にも広がるきっかけとなる。そして新書ならではの文体で書きたいという筆者の熱意が伝わってきます。だからこそ本書のような強い言葉が多用されていたようです。この箇所を読んで私は少しほっとした気分になりました。

専門家ではない私には桃崎氏の研究が厳密に正しいのかそうでないかの判別はできません。ですが、本書で説かれる内容は刺激的で間違いなく面白いです。私達の思考を刺激してくれる独自の視点が本書にはあります。歴史学会としてはこの本がどのように受け止められているかの対談のような本がこれに関連して出版されれば私としてはもっともっとありがたい展開だなと感じています。

私としてはこの本はものすごく面白い傑作新書であります。ただ、それを自信を持って言えないところにもどかしさがあります。その点を強調しつつも、この本はぜひおすすめしたいなと思います。

以上、「桃崎有一郎『武士の起源を解きあかす』概要と感想~脳内スパーク間違いなし!武士の始まりに迫る衝撃の一冊!」でした。

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武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世 (ちくま新書 1369)
武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世 (ちくま新書 1369)

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武士の起源を解きあかす

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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