瀧浪貞子『聖武天皇』概要と感想~奈良の大仏造立や政治の流れを知れるおすすめ伝記!聖武は誤解されてきた?
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瀧浪貞子『聖武天皇』概要と感想~奈良の大仏造立や政治の流れを知れるおすすめ伝記!聖武は誤解されてきた?
今回ご紹介するのは2022年に法藏館より発行された瀧浪貞子著『聖武天皇「天平の皇帝」とその時代』です。
早速この本について見ていきましょう。
奈良東大寺の毘盧遮那大仏造立という日本史上に残る大事業を成した聖武天皇は、本当に政治的意志を持たない「ひ弱な天皇」だったのか――。
二人の女帝の期待を一身に背負い、天武天皇の血脈を嗣ぐ正統天皇として即位した聖武。その聖武を、強烈な個性と政治力を発揮して数々の事業を推進した「天平の皇帝」として捉え、皇帝たらんとした生き様に迫るとともに、その治世がいかなる時代であったのかを鮮やかに描き出す。
長らく誤解のベールに包まれてきた聖武天皇像に、根本から見直しを迫った意欲作。
※本書の原本は、2000年に講談社より『帝王聖武:天平の勁き皇帝』として刊行されました。文庫化に当たって系図・年表等を追加し、文章を改めました。
Amazon商品紹介ページより
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本書は奈良時代を代表する人物、聖武天皇のおすすめ伝記です。
本書について著者は文庫版あとがきで次のように述べています。
二十年前、わたくしが執筆した当時、聖武天皇についての伝記研究といったものはほとんどなかったといってよい。ひ弱な、優柔不断な天皇とのイメージが強く、光明皇后や藤原仲麻呂の傀儡であったという聖武像が固定していた。そんな虚像を覆し、聖武の実像を明らかにしたつもりであったが、聖武に対するイメージは、二十年経ったいまでもあまり変わっていないといってよい。というより、聖武やその時代への関心、取り組みは依然として高まる気配がないように思われる。それほどに聖武像は凝り固まり、定着しているということであろう。
しかし重ねていうが、聖武は、従来の印象とは異なり、きわめて個性的で政治性の強い天皇であった。政治手腕だけではない、文化・芸術、あるいは外交面においても洗練された感覚の持ち主で、まさに〝天平の皇帝〟ともいうべき存在であった。極端にいえば、奈良時代を方向づけただけでなく平安時代の基盤を形づくったともいえる。平安京の始祖として崇敬される桓武天皇でさえ、聖武を手本にしていると思われる行動が少なくないのが、聖武の存在の大きさを物語っている。(中略)
文庫化に際して、聖武の立場と役割の大きさ、そして意志の強さを改めて確認した次第である。
本書はたんに聖武の生涯を辿ったというのではなく、聖武を通して奈良時代を考え直してみたものである。聖武を抜きにした奈良時代はあり得ないし、それなしに古代史の理解は不可能といってよい。聖武は元明・元正という二人の女帝を中継ぎとして、その期待を一身に背負って即位した。そうした天皇としての役割を担いながら、精一杯使命を果たそうとした聖武の生さ様についても、考えてみたつもりである。
法藏館、瀧浪貞子『聖武天皇「天平の皇帝」とその時代』P373-374
ここで語られますように、本書ではこれまで誤解されてきた聖武天皇の知られざる姿を知ることができます。
「ひ弱な、優柔不断な天皇とのイメージが強く、光明皇后や藤原仲麻呂の傀儡であったという聖武像」
このようなレッテルが貼られていたという聖武天皇ですが、正直申しますと私はそのようなイメージすらなくもっとシンプルに「仏教信仰が篤く、奈良の大仏を建立した天皇」というイメージしかありませんでした。聖武天皇という存在に対し政治的な側面をイメージすることがそもそもなかったのです。なので「ひ弱、優柔不断、傀儡」というレッテルも今こうして日本史を学び直して初めて知ったくらいです。きっと私と同じ方も多いのではないでしょうか。
ですがその「奈良の大仏のイメージしかない」ということそのものが聖武天皇に対する理解の不十分さを物語っているのかもしれません。
上の引用にもありましたように、聖武天皇はただ大仏を建立した天皇というだけにとどまらず、政治的、文化的にも後の日本に大きな影響を与えた存在でありました。この伝記を読めば驚くような事実がどんどん出てきます。「聖武天皇はそこまで考えていたのか!」とびっくりすると思います。そして従来語られてきた聖武天皇像がいかに不適切であったかを実感することになります。
著者が述べますように、奈良時代を知るには聖武天皇は欠かせぬ存在です。彼の存在無くして奈良時代は語れません。仏教の歴史を学ぶために手に取った本書でしたが、これは刺激的な一冊でした。
そして本書とセットでおすすめしたいのが同じく瀧浪貞子氏によって書かれた『光明皇后』という参考書です。
光明皇后 – 平城京にかけた夢と祈り (中公新書 2457)
こちらは聖武天皇の妻光明皇后の伝記です。上の引用でも光明皇后の名は出てきていましたが、聖武天皇だけでなくこの光明皇后も誤ったレッテルが貼られていた存在でもあったのです。
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1897年(明治30年)下村観山 画
(三の丸尚蔵館 蔵)Wikipediaより
聖武天皇と光明皇后は同い年で幼少期から同じ家で育ったという間柄でした。しかもこの二人は最後まで仲睦まじかったようで、光明皇后が聖武天皇を傀儡のように扱っていたというのは考えにくいことが本書で明らかにされます。
『聖武天皇』では聖武側からの奈良の歴史を、『光明皇后』では光明皇后側からの歴史を学べるので2冊連続で読めば復習にもなり、さらに違う視点からも歴史を見れるのでより深くこの時代を考えることができます。両書ともわかりやすく奈良時代の歴史が解説されていますのでこの時代を学ぶのにとてもおすすめの参考書となっています。
この聖武天皇と光明皇后がいたからこそ正倉院の素晴らしい宝物が現代にも残されることになりました。以前紹介した杉本一樹著『正倉院宝物 181点鑑賞ガイド』も本書と合わせて読めばさらに楽しめること間違いなしです。
本書『聖武天皇』は奈良時代の歴史や仏教を学ぶのに必読の参考書です。奈良仏教、特に東大寺大仏建立というのは私たち僧侶にとっても非常に大きな出来事であります。仏教を学ぶ上でも本書は非常にありがたい一冊となりました。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「瀧浪貞子『聖武天皇』概要と感想~奈良の大仏造立や政治の流れを知れるおすすめ伝記!聖武は誤解されてきた?」でした。
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