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五味文彦『大仏再建 中世民衆の熱狂』あらすじと感想~東大寺再建の立役者重源の意外な事実が知れるおすすめ参考書!
今回ご紹介するのは1995年に講談社より発行された五味文彦著『大仏再建 中世民衆の熱狂』です。
早速この本について見ていきましょう。
治承4年12月、平氏の南都攻めで大仏は炎上した。飢饉、地震、大火、源平の争乱。末法の予感におののく人びと。祈りの声が巷に満ちたとき、一人の僧、重源が再建の「勧進」に立ちあがった貴族、武士、庶民のすべては熱狂し、新しい信仰が生れまてくる……。古代の終焉と中世の到来を告げた15年にわたる大事業の実態が、いま浮かびあがる。
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1180年、平家の焼き討ちによって東大寺と興福寺は焼失し、大仏も焼け落ちてしまいました。
その大仏の再建事業を任されたのが重源(1121-1206)という真言宗僧侶です。
重源上人像 奈良国立博物館ホームページより
重源という名前は大仏再建の責任者ということでよく耳にはしていましたが、実際このお方がどのような思想を持ち、どのような活動をしていたのかというのは恥ずかしながら私もよく存じ上げておりませんでした。
ですがこの本を読んで驚きました。これほどの行動力、組織力、そして真摯な仏道への姿勢にはただただ頭が下がる思いです。
そして重源は阿弥陀仏を篤く信仰していたことで知られ、浄土宗の開祖法然と親交があったということがよく言われますが、この本においてはそのことについてはあまり触れられません。なぜなら、重源と法然の信仰は浄土宗の『法然上人絵伝』で語られるのみで、重源側の資料としてはほとんど残っていないというのが実情だからです。
しかも本書を読んで驚いたのですが、重源の阿弥陀信仰はあくまで真言密教における阿弥陀信仰であり、法然の専修念仏の阿弥陀信仰とはかなり異なる教えになります。阿弥陀仏を信仰するという点では同じですが、その内実がかなり異なることを本書で知ることになりました。そんな2人が本当に深い親交を持っていたのかというのは正直なところ、私には何とも言えません。
念のため中井真孝著『法然絵伝を読む』を参照したのですが、この本でも重源が法然の弟子であるという伝承や、法然が重源を大仏勧進に推挙したというのも否定されていました。絵伝では記されていても史実としては厳しいとされていました。『法然上人絵伝』の解説書においてもそのように書かれていますので、2人の交流はあったとしてもそこまで深い関係ではなかったというのが実際のところではないでしょうか。
ただ、真言密教における阿弥陀信仰というものが存在し、それが当時の一般民衆にもかなり受け入れられていたというのは驚きでした。その土壌があったからこそ法然教団が民衆に広がったというのも本書のハイライトです。本書タイトルの『大仏再建 中世民衆の熱狂』というのもここにつながってきます。民衆の信仰熱を高めたのは東大寺再建という巨大事業があったからこそだったのでした。法然教団が台頭してくるその前史を本書で知ることができ、私としては思いもよらぬ大収穫となりました。この本と出会えたのは本当にありがたいことでした。
この本もものすごい名著です。こんな刺激的な本はなかなかありません。ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「五味文彦『大仏再建 中世民衆の熱狂』あらすじと感想~東大寺再建の立役者重源の意外な事実が知れるおすすめ参考書!」でした。
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大仏再建 中世民衆の熱狂 (講談社選書メチエ 56)
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特に、前代未聞の大事業たる東大寺造営がいかなる規模で行われていたのかはとても興味深かったです。
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