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岡本隆司『物語 江南の歴史』あらすじと感想~中国史の見方に新たな視点をくれるおすすめ参考書!中国は北西南東で見ればすっきり!

江南の歴史
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岡本隆司『物語 江南の歴史』概要と感想~中国史の見方に新たな視点をくれるおすすめ参考書!中国は北西南東で見ればすっきり!

今回ご紹介するのは2023年に中央公論新社より発行された岡本隆司著『物語 江南の歴史』です。

早速この本について見ていきましょう。

「中国」は古来、大陸に君臨した北方「中原」と経済文化を担った南方「江南」が分立、対峙してきた。湿潤温暖な長江流域で稲作が広がり、楚・呉・越の争覇から、蜀の開発、六朝の繁華、唐・宋の発展、明の興亡、革命の有為転変へと、江南は多彩な中国史を形成する。北から蔑まれた辺境は、いかにして東ユーラシア全域に冠絶した経済文化圏を築いたのか。中国五千年の歴史を江南の視座から描きなおす。

Amazon商品紹介ページより

長江流路図 Wikipediaより
長江流域 Wikipediaより

本書『物語 江南の歴史』は中国の歴史を学ぶ上で実に助かる1冊となっています。

と言いますのも、本書のタイトルにありますように、この本では長江の南側の地域を表す江南を中心に見ていくことになります。私達日本人にとっていきなりぽんと「江南」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、この江南地方を知ることで中国の見え方ががらっと変わることになります。

私もこの本を読んで驚きました。これまでいくつもの中国史に関する本を読んできましたが、正直、中国には王朝や都市が多すぎていつどこに何があったか混乱してしまっていたのです。しかしこの本を読んだことでそのこんがらがりがすっきり解消したのです。これには私もびっくりでした。

長江を分水嶺に北と南の地方が分かれる。そしてそれは同時に社会や文化の違いでもありました。

中国は大きい!大きすぎる!そんな中国を「ひとつの中国」と呼んでもよいのか、こうした問題提起がこの本ではまず語られます。広大な土地と多種多様な民族、文化が織りなす中国。その多様な歴史を知るためのひとつのものさしとなるのが長江であり、江南地方なのでした。これは面白い!

本書の「むすび」でも著者は次のように述べています。

中国史は黄河文明にはじまる。そこを当初から「中原」「中国」と表記、自称したこともふくめ、中国史の起源・出発はまちがいなく黄河流域の華北、つまり「北」にあった。そして中華人民共和国の首都も、北京である。いきついた現在も「北」が中央だといってよい。このように中国史とは、北で終始一貫している。

けれども、その「北」の履歴・推移だけでは、中国史は成立しない。中国史とは、北方中原に発祥した文明が南進した歴史でもある。かつまたその「南」が独自に発展してきた歴史でもあった。

そして「ひとつの中国」という概念が存在する以上、「南」を欠いた現代の「中国」は存在しえない。確かに中国の歴史は、「北」からはじまった。しかし現代中国は、「南」がなくてははじまらなかったのである。

北方から南進すれば、南北の関係が当然、焦点とならざるをえない。中国史は政治も経済も、大半はこの南北、つまり中原と江南の関係を基軸にすすんだ。春秋戦国の楚、漢代の呉楚、孫呉にはじまる「三国六朝」、隋の煬帝にはじまる大運河と江准の開発で長命を保った唐、「五代十国」・南北両宋、そしてモンゴル帝国の征服から明朝の興起。以上の大まかな史実だけで、二千年以上、一四世紀の終わりまでたどれる。

中央公論新社、岡本隆司『物語 江南の歴史』P237-238

また、さらに次のようにも述べています。ここも重要な指摘ですので少し長くなりますがじっくり読んでいきます。

日本からすれば、最も近い、最も交わりの多い国は古来、やはり中国だった。ここに逆説があり、また錯覚・誤解も生じる。

中国に学び、中国と向き合うことで、日本人は日本を作りあげてきた。文字・宗教・制度のコピーにはじまる古代史、経済的な紐帯が太くなって貿易交流の密度の高まった中世史、往来は疎遠になりながらも文化の理解を深めた近世史、政治的に対立し干戈まで交えた近代史。日本の歴史は好むと好まざるとにかかわらず、ほとんど中国とともにあった。

それはまちがいない。しかしその中国は、一言で「中国」と片づけてしまってよいのか。日本人が古来とりいれ、今も日本に息づいている古典文化の源流は、じつに多く江南に由来した。漢字に「呉音」があり、服装に「呉服」がある。儒教の朱子学・陽明学も仏教の宗派も然り。書道も絵画もそうだろうか。

そもそも「日出づる処」の列島の黎明にあたって、大陸は「日の没する処」、すなわち「呉(くれ)」であったし、近世の日本も中国・海外の異称は「南京」、つまりは江南だった。南京町に南京錠「南京玉すだれ」の呼称もあれば、果ては南京虫までいる。

ところが近代になって、朝鮮半島に深入りした日本にとっての中国は、北に転じた。そして「中国」「支那」と呼称して、南北一体とみなし、そのあげく「満洲」に入植し華北を侵略し、江南・四川に拠った蔣介石を「対手(あいて)に」しなくなる。やがて日本自身も破滅した。

中国史に内在する南北、その多元性を考えない習性が、どうやら日本人にはある。戦前の歴史ばかりではない。蔣介石を「対手に」しない処遇は、一九七二年のいわゆる「国交正常化」でもくりかえしたところである。

それから「五十周年」、日中をとりまく情勢はすっかり変わった。対応すべきわれわれの認識は、ではどうなのか。

「一つの中国」を呼号するのは北京政府である。その強権ぶりに嫌悪感を覚える向きも少なくあるまい。しかし中国は古来、決して「一つ」ではなかった。南北の分立・分岐、多元性が厳存していたのであり、現今の北京の強権的な動きもふくめ、その歴史的な推移・趨勢まで考えなくては、結果的に中国を「一つ」とみていることになる。

それなら「一つの中国」というテーゼを無意識裡に支持しているのも、日本人自身であるらしい。大国化した中国に直面するわれわれが今みなおすべきは、やはり多様にして豊饒な江南の歴史・もう一つあったはずの中国史なのだろう。

中央公論新社、岡本隆司『物語 江南の歴史』P243-244

「中国史に内在する南北、その多元性を考えない習性が、どうやら日本人にはある。」

たしかにこれは私もまさにそのひとりでした・・・。

近いがゆえに逆にわかっていないというのが中国に対する実際のところだったなと私も反省しました。

よくよく考えれば本当にそうですよね。中国はとにかく大きい。そしてこれはまさにインドとも重なってきます。インドもその広大な国土と多様な民族が生きる大国です。インド国内の公用語だけで10以上もあるというのですから驚きです。私もインドについて学びその多様性にかなり驚いた記憶があります。

本書はそんな中国の多面性を学べるおすすめの参考書です。中国史の勉強をする上でも大いに役立つこと間違いなしです。ぜひおすすめしたい一冊です。

以上、「岡本隆司『物語 江南の歴史』~中国史の見方に新たな視点をくれるおすすめ参考書!中国は北西南東で見ればすっきり!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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