鎌田茂雄『中国仏教史』概要と感想~中国仏教と政治のつながりや時代背景を学べるおすすめの教科書!
鎌田茂雄『中国仏教史』概要と感想~中国仏教と政治のつながりや時代背景を学べるおすすめの教科書!
今回ご紹介するのは1978年に岩波書店より発行された鎌田茂雄著『中国仏教史』です。
早速この本について見ていきましょう。
仏教伝搬から現代にいたるまでの中国仏教の歴史を,中国仏教学の諸成果を踏まえ,仏教がいかに中国的に変容し漢民族に適応したかという観点から,実証的に解明する.とくに政治・社会と仏教との関係を重視し,中国固有の思想である儒教・道教との交渉にも目を配って,教理史・教団史に偏することのない中国仏教史の全体像を提示する.
岩波書店HPより
本書は中国仏教の大枠を掴むためのおすすめの教科書です。
著者は本書冒頭で次のように語っています。
本書は教理史にも教団史にも偏することなく、仏教が中国の大地と社会にあって如何に中国的に変容し、漢民族に適応し、その精神生活にどのような影響を及ぼしたかという点を解明するため、その歴史的叙述を意図したものである。中国における仏教の変遷は、勝れて政治的であるため、国家権力と仏教教団との関係はきわめて密接である。そのため政治と仏教、社会と仏教との関係の叙述に意を用いた。なお紙数の関係から隋・唐仏教諸宗の教理はできるだけ簡略化したので、各節にかかげた宗派の概説書を参考にして頂ければ幸いである。
岩波書店、鎌田茂雄『中国仏教史』Pⅳーⅴ
「中国における仏教の変遷は、勝れて政治的であるため、国家権力と仏教教団との関係はきわめて密接である。そのため政治と仏教、社会と仏教との関係の叙述に意を用いた。」
これこそ本書を貫く大きなポイントになります。
この本では単に仏教の歴史や教義を見ていくのではなく、その時代背景も見ていくことになります。まさに「宗教は宗教だけにあらず」ということを感じさせられます。
仏教発祥の地インドでは王権と仏教教団はある程度の距離がありました。しかし中国ではその伝播の始まりから国家との関係を余儀なくされることになります。それはそうですよね、外来の宗教が入ってくるということはそれだけの一大事です。特に古代国家においては宗教問題は国家運営の根幹とも関わってきます。
そしてこれは中国だけの問題ではなく上座部仏教の聖地スリランカにおいてもそうでした。スリランカもインドから仏教が伝来し、王権と結びついて定着していくことになりました。しかもその伝来そのものもアショーカ王の息子マヒンダ長老が来島し、スリランカ王と直接会談したという伝説が残っています。スリランカ仏教もまさに国家運営と直結していたのです。(詳しくは以下の「(27)スリランカ仏教伝来の聖地ミヒンタレーを訪ねて~聖地の名にふさわしい神話的な世界!」の記事参照)
仏教が伝播し他国に入っていくということは国家において非常に重大な問題です。それが受け入れられるか拒否されるかは実に複雑な展開を見せることになります。
特に中国においては頻繁に王朝が変わっていきます。王朝が変わればどの宗教を重んじるかも変わることになります。また、王朝の交代だけでなく皇帝の考え方ひとつで弾圧も起こってきます。それほど中国における宗教事情というのは危ういものがありました。そんな中興亡を繰り返してきたのが中国仏教なのです。
そしてその中国仏教が伝わって形成されたのが日本仏教になります。日本においてもどう仏教を受容するかは重大な国家問題でした。中国における仏教史の展開を知ることは日本仏教の姿を知る上でも非常に重要です。そのことを改めて感じることができるのも本書の魅力です。
ただ、この記事のタイトルにも書きましたように、あくまでこの本は教科書としておすすめです。入門書としては情報量が多すぎるのでかなり苦労すると思います。
この本を教科書として授業でじっくり習うことができたらこれは最高だなと私は読みながらつくづく感じていました。
当ブログでは以前、同じく岩波書店から出版された中村元著『インド思想史』も紹介しました。
こちらの本も時代背景が詳しく説かれる名著中の名著です。この『インド思想史』も入門書としては少し厳しいのですが、『中国仏教史』は完全に入門書のレベルを超えています。
ですので他の入門書や中国の歴史書を読んでざっくりとでも中国仏教のことを知ってから読むことをおすすめします。私はその順番で読みましたのでこの本が面白くて面白くてたまらなかったです。体系的に中国仏教のことが解説されますので頭もすっきりしました。
ぜひおすすめしたい名著です。
以上、「鎌田茂雄『中国仏教史』~中国仏教と政治のつながりや時代背景を学べるおすすめの教科書!」でした。
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