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荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治』あらすじと感想~中国と関係を深めたラージャパクサ政権の仕組みとその後の流れを知るのにおすすめ

内戦終結後のスリランカ政治
目次

荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治―ラージャパクサからシリセーナへ—』概要と感想~中国と関係を深めたラージャパクサ政権の仕組みとその後の流れを知るのにおすすめ

今回ご紹介するのは2016年にアジア経済研究所より発行された荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治―ラージャパクサからシリセーナへ—』です。

早速この本について見ていきましょう。

26年間続いたスリランカ内戦を終結させ、経済発展をもたらしたマヒンダ・ラージャパクサは、なぜ失脚しなければならなかったのか。めまぐるしく変化した内戦後のスリランカ政治をコンパクトに解説する。

アジア経済研究所商品紹介ページより

本書では1983年から2009年にかけて起きたスリランカの内戦が終わってから2016年までの政治状況を知ることができます。

本書の流れについて「はじめに」では次のように述べられています。

本書では、ラージャパクサへの権力集中とその崩壊をもたらした要因やアクターについて述べる。内戦終結前後のスリランカ政治は、ラージャパクサによる権威主義的な体制に象徴される。1章ではラージャパクサが大統領としてどのように権力基盤を強化し、権威主義的体制を築いたかについて説明する。

2章では、盤石とみなされていたラージャパクサ体制が崩壊する過程をみる。ラージャパクサを支持する人々、野党統一候補のシリセーナを支持する政党・市民団体が入り乱れ、選挙活動が繰り広げられた結果、2015 年1月の大統領選挙でシリセーナが勝利した。

3章では、シリセーナとウィクレマシンハによる新政権の政治改革、およびラージャパクサと彼を支持する人々の揺り戻しについて説明する。ラージャパクサが国会議員選挙に出馬し、首相の地位を脅かす事態に発展したが、スリランカの有権者は、2015年8月の総選挙において、シリセーナ/ウィクレマシンハ体制の政治を支持した。

内戦の終了後は、内戦の原因となった問題の解決が期待された。しかしその前に内戦中の人権・人道上の問題が立ちはだかった。とくに内戦末期の政府軍およびLTTEによる深刻な戦争犯罪・人権侵害が問題視された。ラージャパクサ政権時は、これらの問題に対して国際社会の介入を拒否し、国内調査で解決できるとし、スリランカ政府の対応策は北部・東部のインフラ開発と最低限の生活の保証にとどまった。政権交代により、国際社会との関係も良好になったものの、北部の人々の不満を解消するような新たな動きは今のところみられていない。

4章では人権・人道上の問題についてのスリランカ政府、および国連をはじめとする国際社会の取り組み、各種委員会の報告書を中心にこれまでの動きをまとめる。

5章では内戦終結後のスリランカと中国・インドとの関係をまとめた。内戦終結後は中国との関係が強化された。これは長らく非同盟外交政策とインドとの友好関係を基本としてきたスリランカにとって異例であった。中国との関係の深化は、スリランカのインド洋における地政学的な役割が見直されたこと、それに中国が利益を見いだしたこと、中国の利益とラージャパクサ体制の利益が合致したことから説明できそうである。

アジア経済研究所、荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治―ラージャパクサからシリセーナへ—』Pⅳ-ⅴ

これだけを見ると何やら見慣れない名前や出来事が多く難しそうな本に思えてきますがご安心ください。本書ではわかりやすく内戦後の政治情勢が語られます。

特に、本書の主要人物であるラージャパクサ大統領はほとんど独裁レベルで国を支配した政治家でその一族や側近は莫大な富と権力を手にすることになりましたが、この人物についての詳しい解説を聴けるのはとてもありがたいものがありました。まさにこの人物こそ2022年のスリランカの暴動で国外逃亡することになったあの人物です。ニュースでも2022年のスリランカの暴動はよく取り上げられていたことを私も記憶しています。

そして何と言ってもスリランカと中国の関係です。スリランカが借金を返せず南部のハンバントタ港が中国の支配下になるという債務の罠はニュースでも何度も目にしました。なぜスリランカはこうした事態に陥ったのか。そしてラージャパクサ大統領と中国の蜜月関係はどのようなものだったのかも知ることになります。

ただ、本書は2016年に出版された本ですのでそれ以降の出来事については知ることができません。あくまで内戦終結から2016年までの政治状況についての解説が本書になります。

2017年以降、特に2022年から2023年までの政治情勢を知りたくて知りたくてたまらなくなります。

昨年の出来事に特化した本が出てくることを願わずにはおれません。

ですが、本書は本書で内戦後の政治情勢を詳しく知れたのでこれは私にとって非常にありがたいものとなりました。

スリランカの政治情勢を知るのにおすすめの作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治』~中国と関係を深めたラージャパクサ政権の仕組みとその後の流れを知るのにおすすめ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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