渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む』あらすじと感想~現代にも通ずる古典中の古典をわかりやすく学べるおすすめ参考書
渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む』概要と感想~現代にも通ずる古典中の古典をわかりやすく学べるおすすめ参考書
今回ご紹介するのは2022年に中央公論新社より発行された渡邉義浩著『孫子―「兵法の真髄」を読む』です。
早速この本について見ていきましょう。
兵法書・戦略論の古典として知られる『孫子』。二千数百年前から読み継がれてきたが、現在読まれている版が三国志の英雄・曹操の注釈にもとづくことはあまり知られていない。本書はまず、孫武と孫臏のどちらが主な著者かという成立の謎と、曹操の解釈を解き明かす。そして、『孫子』の特徴を合理性・先進性・実践性・普遍性に分けて追究し、今日に活かすヒントを探る。巻末に『孫子』全十三篇の現代語訳を収録。
Amazon商品紹介ページより
『孫子』といえば「孫子の兵法書」として有名な古典中の古典です。あの武田信玄の風林火山もここから来ています。現代においてもビジネスの場に用いられるなど、時代や場所を超えて読み継がれているのが『孫子』です。
そんな超有名な古典ですが、この度私も初めて読むことになりました。
本書では前半から中盤にかけて『孫子』が生まれてきた時代背景やその歴史が解説されます。そしてそこから本文を読みながら『孫子』の思想を学ぶことになります。巻末には現代語訳版の『孫子』の全文が収録されていますので、本文を一気読みしたい方にもおすすめです。
そして本書を読んで一番驚いたのは以下の箇所です。
『孫子』を知るためには、「三国志」の英雄曹操(一五五~ニニ〇年)を知らなければならない。現行の『孫子』十三篇は、曹操が確立したためである。
中央公論新社、渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む』P37
なんと、現行の『孫子』はあの三国志の英雄曹操がまとめたものだったのでした。これには驚きでした。曹操が文芸にも圧倒的な才を示していたことはこれまで『中国の歴史04 三国志の世界 後漢 三国時代』の本などでも聞いてはいましたがまさか『孫子』をまとめたほどだったとは!
もちろん、曹操はそれ以前に伝わっていた多数の『孫子』文献に注をつけてまとめたということで『孫子』の著者ではありません。ですが『孫子』を現代にまで伝わる形で生まれ変わらせたというのはあまりに大きな意味があると思います。
また、次の解説もとても印象に残っています。
『孫子』の軍事思想の第一の原則は、戦いに勝利することを論ずる兵法書でありながら、なるべく実際の戦闘をしないよう説くことにある。それを象徴する言葉が①「百戦して百勝するは、善の善なる者に非ざるなり」である。百戦百勝したとしても、戦争による財政破綻は免れない。また、火攻篇の最後に述べていたように、戦争による死者は再び生き返ることはなく、亡国は再び存在できない。そのために『孫子』は、冒頭の始計篇から、戦争が国家の大事であり、民の生死が決まり、国家存亡の岐路である、と説いているのである。
戦争を否定する『墨家』が積極的に戦いに参加するのに対して、兵家の『孫子』が戦わずに勝つことを最善とすることは興味深い。『墨家』が非攻を説きながら戦うことを矛盾として捨ておかないのと同様に、『孫子』がなぜ、戦わないことを最善の戦いとするのかについて考えていくと、『孫子』の兵法の真髄に近づく。
ここには、なぜ戦うのか、という根源的な問いかけがある。『孟子』は侵寇する側の正義を追究して「義戦」論を説いた。だが、正義は相対的である。このため『墨子』は、侵寇そのものを絶対的な悪と考え、侵寇された者を守ることで「非攻」を貫こうとした。これらに対して『孫子』は、戦いを善悪により判断しない。戦いは、すでに現実として存在する。そこで戦いの目的を突き詰めていく。そのことにより『孫子』は、戦いの目的を相手国の蹂躙や人間の殺害に求めない。相手を自分に従わせることを戦いの目的と考え、相手をなるべく傷つけずに自分に従わせようとする。それが②「戦はずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」という表現となっているのである。
中央公論新社、渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む』P86-87
性善説の『孟子』、平和主義の『墨子』、兵法の『孫子』。この三者の違いや思想を比べて考えるとものすごく興味深いですよね。
こうしたことも考えながら読むことができた本書はとても刺激的でした。
さすが古典中の古典として長きにわたって愛されている名著です。そんな『孫子』の概要や背景を知れるこの参考書はとてもおすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「渡邉義浩『孫子―「兵法の真髄」を読む』~現代にも通ずる古典中の古典をわかりやすく学べるおすすめ参考書」でした。
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