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『WILDHOOD 野生の青年期』あらすじと感想~なぜ若気の至りは起きるのか。青年期の悩みは動物界と共通?若者にぜひ読んでほしい快作!

WILDHOOD
目次

『WILDHOOD 野生の青年期』概要と感想~なぜ若気の至りは起きるのか。青年期の悩みは動物界と共通?若者にぜひ読んでほしい快作!

今回ご紹介するのは2021年に白揚社より発行されたバーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ著、土屋晶子訳の『WILDHOOD 野生の青年期』です。

早速この本について見ていきましょう。

ラブソングにときめくクジラ
いつまでも親の巣を出ようとしないワシ
友情の力でいじめを克服するハイエナ
危険な海域にみずから飛び込むペンギン……

見た目はぜんぜん違っていても、人間と動物の若者には驚くべき共通点がある。
どちらもおとなへと成長する過程で「青年期」を経験し、身につけなければならないスキルも同じ。
「安全でいるには?」
「社会的ヒエラルキーをうまく生き抜くには?」
「性的なコミュニケーションを図るには?」
「親もとを離れて自立するには?」
の4つの課題を、ペンギンのアーシュラ、ハイエナのシュリンク、クジラのソルト、オオカミのスラウツとともに探っていく。
波乱に満ちた青年期を乗り越えようと奮闘するさまざまな動物の、不器用だけど愛らしい生態のすべてがわかる1冊!

前作『人間と動物の病気を一緒にみる』で医学界に一大センセーションを巻き起こしたタッグが、今まで語られることのなかった動物の青年期の不思議に挑む。

Amazon商品紹介ページより

まずはじめに言わせてください。

「この本、めちゃめちゃ面白いです・・・!」

★絶賛の声続々 !★

青年期の危険な旅路をこれほどまで深く掘り下げた本はほかにない。
すばらしい書きぶりにページをめくる手が止まらなかった。
——フランス・ドゥ・ヴァール『ママ、最後の抱擁』著者

人間と動物のティーンエイジャーがこんなにも似ているなんて、ほんとうにびっくり!
この本大好き!
——テンプル・グランディン『動物が幸せを感じるとき』著者

子どもはどのようにしておとなになるのか、あなたの考えを変える1冊。
——ダニエル・E・リーバーマン『人体600万年史』著者

不安や苛立ち、興奮や喜びなど、人も動物も若者の心はつねに揺れ動く。
この本を読めば、なぜ彼らにとってそれが必要不可欠なのかがわかるだろう。
——ニール・シュービン『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』著者

子どもから大人へと成長するのは簡単なことではない。
しかしこの比較生物学にはたくさんの斬新なアイデアが詰まっており、どうすればうまくいくのかを教えてくれる。
——リチャード・ランガム『善と悪のパラドックス』著者

Amazon商品紹介ページより

ここに様々な絶賛の言葉が並んでいますがそれに違わぬ名著であること間違いなしです!

上の絶賛のコメントを寄せたフランス・ドゥ・ワールは当ブログでも以前『道徳性の起源』という本を紹介しました。

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フランス・ドゥ・ヴァール『道徳性の起源』あらすじと感想~宗教とは何か?人間と動物は何が違うのかを... この作品はチンパンジーやボノボの研究を通して得た知見を基に人間の道徳性や宗教について語っていきます。 私たちの道徳はどこから生まれてきたのか。 性善説、性悪説、人間ははたしてどっちなのか。 こうした議論はこれまで、哲学的、思想的な側面から語られてきました。 しかしドゥ・ヴァールはそれらは人間だけにあるものだけではなく、動物にも存在するものであり、人間だけが特権的に善悪の基準を持っているわけではないことを語ります。 私たちの常識を覆すような驚きの事実が満載です。ぜひぜひ読んでみてください!ものすごくおすすめです!

私はフランス・ドゥ・ヴァールの大ファンで、彼の邦訳された著作はほぼ全て読んでいます。その彼が大絶賛するならばと私はこの本を手に取ったのでありました。

そしてそれは大正解。この本は私に新たな世界を開いてくれた素晴らしい作品だったのです。

この本について巻末の訳者あとがきでは次のようにまとめられています。少し長くなりますがこの本の特徴や面白さが伝わる素晴らしい解説ですのでじっくり読んでいきます。

本書のテーマは、「青年期」。題名の『WILDHOOD(ワイルドフッド)』は、あらゆる動物の青年期を意味し、前著の『Zoobiquity』と同様に、著者たちの造語だ。ほかの動物もヒトと同様に青年期を迎えるのだ。前著の一章分に割りふられていた内容がさらに深められ、考察が重ねられていく。若者たちは、四つの重要な課題に直面する。そして、その四つのS、すなわちSAFETY(安全)、STATUS(ステータス)、SEX(セックス)、SELF-RELIANCE(自立)についてのスキルを磨き、おとなへと成長していかなければならない。

本書は、太古より無数の動物が体験してきた道程を、四匹の野生動物の成長物語として提示する。キングぺンギンのアーシュラ、ブチハイエナのシュリンク、ザトウクジラのソルト、ハイイロオオカミのスラウツ。種も異なり、生まれ育ったところも違えば、降りかかる困難もみな違う。ただし、物語体をとっていても、記されているのは、すべて研究者たちが機器を駆使しながら調査して知りえた事実だけだ。著者は科学者として、擬人化の危険性を肝に銘じながらも、それぞれの動物がヒトと共通した部分をどれほどたくさん持っているかを見つけ出していく。

若い動物たちは、危険な捕食者にわざわざ近寄って、それがどんなようすをしているのかを調べにかかる。かたや、ヒトの若者もあえて背伸びして、深夜のバーやナイトクラブに潜りこもうとする。

ニワトリたちの間では「つつき順位」がすぐにできあがる。そして、ヒトの若者の間にも瞬く間に序列ができる。にもかかわらず、ヒトもほかの動物も、青年期の仲間の存在はかけがえのないもので、仲間どうしでの社会的学習はなくてはならない。

自然界では、公平な条件での競争の場はないこと、親の序列の継承が実際に行われていること、動物たちは必ずいじめを行うが、個々の粘り強さと少々の運があれば、長じて境遇を引っくり返すことは可能なことが語られる。

野生動物は、年長者の行動を観察して、セックスだけでなく、自分の欲求の伝え方や相手の気持ちを理解する方法を学ぶ。対して、ヒトの場合は、露骨な性描写の情報は絶えず流れてくるが、年長者の側から、求愛行動の機微や性的関係に進む合意を得る方法を若者に伝える機会が少ない。

自然界の動物も、子が親たちから離れて独り立ちするのは、大きな試練になる。環境が劣悪なときは巣立ちを延ばしたり、親がサポートを続けたりもする。ヒトの場合、子に対していつまでも過保護でいる親がよく批判されるが、それは一概に駄目と言えない場合もある。

ざっと思いついただけでも、興味深い指摘がこうして次々に出てくる。

そして、自然界のエピソードのそれぞれがこれまた面白い。サンショウウオのキュートな求愛儀式、求愛行動初心者のヨーロッパアワノメイガの様子、イべリアカタシロワシの子育て最終段階の親のハードなしごき!著者はこの本を科学者だけでなく、一般読者、特に若者の周囲の人々、そして若者自身に読んでもらいたいと望んでいるのだ。

「ヒトも地球上にすむ生物のひとつ」ということは、誰もが知っている。しかし、著者でさえニ〇一四年のTEDのプレゼンテーションで、「科学者である私たちは、頭では自分たちヒトが単なるひとつの種でありほかの種と変わらないとわかっている。しかし気持ちとなると、その通りにはいかない。モーツァルトを聴いたり、マックのノートブックで火星探査車を見ているとき、ヒトは特別だという思いをどうしても抱いてしまう」とまずは自戒しているのだ。

暗くなると子が出歩くために、夜な夜な悩んでいる親が本書を読んで、「動物の若者はとにかく仲間が一番大事だ」と知ったところで、すぐに何らかの展望が開けはしないだろう。ラッコの若者もホホジロザメにわざわざ近づいていくのだから、自分の息子の危ない行いも仕方ないとあきらめられるわけがない。ただ、ずっと自分の足元ばかりに集中していた視線がふと、空のほうを見上げる瞬間が生まれないだろうか。ひと呼吸分だけでも、心を静める時間が手に入るかもしれない。

また、いじめに遭っている子どもが、「ほかの動物の間でもいじめはある」と言われても、苦しみは決して消えはしない。自然界でいじめ行為があることは、私たちの間でのいじめを正当化することにはならない。しかし、動物もほかの居場所を見つけることで、より幸せな暮らしができているといった観察事実から、現状にとらわれすぎず、自らの得意な領域に関わるグループに入るといったアドバイスには、一読の価値があるだろう。

加えて、著者たち自身が本書を執筆中、思春期の子どもを持つ親の身だった。大自然の厳然たる事実も語っていながら、決して突き放した筆致になっていないのが本書の魅力のひとつだ。

白揚社、バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ著、土屋晶子訳『WILDHOOD 野生の青年期』P410-413

いかがでしょうか。この解説を読むだけでなんだか面白そうな気がしてきますよね。

この本は私たちに世界の新しい見方を開いてくれます。

なぜ私たちは青春時代あんなにも悩み、血迷った行動を繰り返すのでしょう。思い出すと恥ずかしくなるような黒歴史や、今思えばぞっとするような軽率な行為も多くの人が経験したことだと思います。そうした行動がなぜ引き起こされてしまうのか、その鍵が「我々人間も動物である」という点にあったのです。

上の解説でも「ただ、ずっと自分の足元ばかりに集中していた視線がふと、空のほうを見上げる瞬間が生まれないだろうか。ひと呼吸分だけでも、心を静める時間が手に入るかもしれない。」と述べられていたように、自分という人間に対し距離を置いて客観視できるような感覚をこの本では得ることができます。

これはぜひ若者に読んでほしい作品です。色んな事にぶつかり、悩むのが思春期、青年期でありますし、まさに自分探しの時期であります。そんな多感な時にこの本を読むことは自分と向き合うという意味でも大きな意義があると思います。

また、教育の場に携わる方や、子を育てる親にとってもこの本はぜひおすすめしたい作品です。人間も動物なのだという視点があると、それこそ世界の見え方が変わってきます。

いや~素晴らしい本でした!これは面白い!ぜひぜひ手に取って頂きたい名著です!

以上、「『WILDHOOD 野生の青年期』~なぜ若気の至りは起きるのか。青年期の悩みは動物界と共通?若者にぜひ読んでほしい快作!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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