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川端香男里『100分de名著 トルストイ『戦争と平和』』あらすじと感想~あの大作をコンパクトかつわかりやすく解説した奇跡の参考書!

目次

川端香男里『100分de名著 トルストイ『戦争と平和』』概要と感想~~あの大作をコンパクトかつわかりやすく解説した奇跡の参考書!

今回ご紹介するのは2013年にNHK出版より発行された川端香男里著『100分de名著 トルストイ『戦争と平和』』です。

早速この本について見ていきましょう。

生きる喜びは、どこにあるのか?

19世紀ロシアの文豪トルストイの代表作『戦争と平和』。ナポレオンの侵攻に向き合うロシアの人々を描いた長編小説には、「幸福な家庭生活の讃歌」という作家自身の理想郷が投影されていた。「豊かな人生とは、他者との関わりからしか得られない」。魅力あふれる物語を通して、人生の真の意味を知る。

Amazon商品紹介ページより

この作品はあの大作『戦争と平和』を解説したものになりますが、先に言わせてください。

「この本は奇跡の1冊です!」

私はこの本を読んで感動しました。

『戦争と平和』は誰もが知るトルストイの代表作です。そしてこの作品の長大さたるや世界文学でも屈指のものです。私が読んだ新潮社版で全4巻2500ページ超という恐るべきボリュームです。

その長大かつ深遠なるこの作品をここまでコンパクトにわかりやすく解説するこの本に私は驚愕してしまいました。

著者の川端香男里先生はロシア文学の専門家です。その著作や訳書はこれまで当ブログでも紹介してきました。

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当ブログではまだ紹介していませんが、川端先生の『ロシア文学史』もぜひおすすめしたい名著です。当ブログでもプーシキンやゴーゴリなどの記事を書く際に参考にさせて頂きました。文学だけでなく歴史と文化と絡めた解説が非常にわかりやすく、読みやすさも抜群です。ぜひぜひおすすめしたいです。

では、本書『100分de名著 トルストイ『戦争と平和』』に戻りましょう。

『100分de名著』ということで全4回のプログラムで『戦争と平和』を見ていくのですが、改めてこの大作を4回でコンパクトに紹介する川端先生には驚くしかありません。

そしてこの本の中ではイラストや人物相関図も豊富に掲載されています。特に人物相関図にはものすごく助けられました。

もしこの相関図がなければ『戦争と平和』を読むのにも挫折していたかもしれません。『戦争と平和』はとにかく登場人物が多いです。しかもロシア語の名前の呼び方はただでさえややこしいことこの上ありません。

そんな時にこの本に掲載されている相関図を見て、頭を整理しながら読書を進めることができました。本当に大助かりでした。

『戦争と平和』は難解な言葉や思想が説かれるから難しいというよりかは、人物がとにかく多かったり、場面が次々に展開していくことで頭が混乱するところに読む大変さがあると思います。逆に言えば、そうした頭の混乱さえクリアしてしまえば、読むこと自体はそんなに難しい作品ではありません。むしろ、トルストイの見事な筆のおかげでぐいぐい引き込まれることになります。

そしてこの『100分de名著』では、人物の関係性だけではなく、時代背景もしっかりと解説してくれます。『戦争と平和』で語られる物語にはどんな背景があり、何がそこで表現されようとしているのかということまでとてもわかりやすく説かれます。

いわばこの作品の「読みどころ」をピンポイントで示してくれます。

ただ漠然と読んでも見えてこないであろう「トルストイのすごさ」をこの解説書を読むことで知ることができます。

先ほども申しましたがもしこの解説書を読んでいなかったら私も挫折していたかもしれません。

この解説書があったからこそ『戦争と平和』の面白さやすごさを体感することができました。

この本は『戦争と平和』を読む際の必読書と言っていいのではないでしょうか!

トルストイの『戦争と平和』は名著中の名著として名高い作品です。

ですが川端香男里先生のこの解説書も素晴らしい名著だと私は思います。この大作をここまでコンパクトかつわかりやすく解説したこの本は奇跡です!しかも単にわかりやすいだけでなく、ものすごく深い所まで連れて行ってくれます。「すごい!」としか言いようがありません。この記事の最初でも申しましたが私はこの本を読んで感動しました。もう脱帽です。

それほど素晴らしい解説書です。

ドストエフスキーと比較する上でもこの本は非常に参考になりました。

トルストイやロシア文学に関心のある方にはぜひおすすめしたいです。

以上、「川端香男里『100分de名著 トルストイ『戦争と平和』』~あの大作をコンパクトかつわかりやすく解説した奇跡の参考書!」でした。

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トルストイ『戦争と平和』 2013年6月 (100分 de 名著)

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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