森耕治『マグリット 光と闇に隠された素顔』あらすじと感想~マグリットの生涯と作品の背景を知るのにおすすめの参考書
森耕治『マグリット 光と闇に隠された素顔』概要と感想~マグリットの生涯と作品の背景を知るのにおすすめの参考書
今回ご紹介するのは2013年にマール社より発行された森耕治著『マグリット 光と闇に隠された素顔』です。
前回紹介した『もっと知りたいマグリット 生涯と作品』はマグリット入門に最適のガイドブックでしたが、この本はもっとマグリットを知りたいという方におすすめな参考書となっています。
では、早速この本について見ていきましょう。
日本人初のベルギー王立美術館公認解説者・森耕治氏による、マグリットの作品を新しい解釈で読み解いた作品解説書です。《光の帝国》《大家族》《ピレネーの城》といった日本でも有名な作品はもちろん、マグリットの人生を解き明かすうえでかかせないシュルレアリスム以前の作品や、これまで日本では画集に掲載されたことのない貴重な作品なども収録した、画集としても充実の1冊です。作品のほかに、当時のモノクロフィルムや、現在のマグリットゆかりの地の写真も豊富に掲載! “イメージの魔術師”の異名を持つマグリットが追い求めたもの。それが人類普遍の願いであることに、あなたもきっと驚くはずです。
マール社商品紹介ページより
この本はベルギー王立美術館公認解説者・森耕治氏による解説書です。
序文では著者はこの本について次のように述べています。
20世紀のベルギーが生んだシュルレアリスムの巨匠マグリットといえば、皆さんどのような印象をもたれていますか?
星空を飛翔する、青空の国からやって来た巨大なハト。青空の下の闇の世界に、灯りをともしてたたずむ館。荒波の上を飛ぶ巨大な石の塊。そうかと思えば、青空にふわふわと浮かんだ無数のメロン帽子の男たち。部屋いっぱいに膨らんで今にも破裂しそうな巨大な青リンゴ。
我々はこのような幻想的で詩情あふれるイメージを思い浮かべがちです。
しかし、過去の多くの巨匠たちと同様に、画家マグリットも彼の作品が詩的で幻想的な画風になって多くの人々を魅了するまでには、計り知れない苦難と変遷の歴史がありました。
画家マグリットの若いときの言動には、後の「巨匠マグリット」のイメージにそぐわないマイナスの要素が数多くありました。そのために、彼の真実の素顔はごく一部の専門家のあいだでは知られていたにも関わらず、今まで複雑な事情により事実上黙殺されてきました。
なぜマグリットは死ぬまで自分の若いときのことを語るのをかたくなに拒んだのか、本書を読めばその理由が想像できると思います。マグリットの個人的な人生、特に幼少から青年期のプライベートな部分は、ヴェールに包まれているからこそ、彼の作品の神秘的な美と増幅し合って、マグリット神話を生み出すのに一役買っていました。
しかし、2009年にマグリット美術館がオープンした今となっては「マグリットの素顔」つまり、いいところも悪いところもすべて含めて知っていただくことが、マグリット芸術をより深く理解する最良の方法ではないかと思います。
マール社、森耕治『マグリット 光と闇に隠された素顔』P5
この本を読んで驚いたのですが若き日のマグリットはかなりの悪童でした。しかも母の自殺の直接の原因にも彼が関わってしまっているという事実がこの本で語られます。
そしてこれまでのマグリットはその作品の解釈が先行して、彼の実生活が神話的に彩られてしまっていたということ。これも驚きでした。
しかもマグリット自身が世間に対し巧みにイメージを操作しようとしていたことも知ることになります。
ベルギー王立美術館公認解説者である著者は現地での詳細な研究から、こうしたマグリットの実態を探っていきます。
「2009年にマグリット美術館がオープンした今となっては「マグリットの素顔」つまり、いいところも悪いところもすべて含めて知っていただくことが、マグリット芸術をより深く理解する最良の方法ではないかと思います 」
と語る著者の姿勢は素晴らしいなと思います。神話的に語られてきたこれまでのマグリットとは異なる姿をこの本では知ることができます。それも単にゴシップ的に「過去を晒す」のではなく、そこから学術的にマグリットの作品と向き合っていくという著者の姿勢が感じられます。
より深くマグリットを知りたい方にとてもおすすめな参考書です。
以上、「森耕治『マグリット 光と闇に隠された素顔』マグリットの生涯と作品の背景を知るのにおすすめの参考書」でした。
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