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末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』あらすじと感想~現代のイスラム教の流れを知るのにおすすめ

目次

末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』概要と感想~現代のイスラム教の流れを知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2018年に岩波書店より発行された末近浩太著『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』です。

早速この本について見ていきましょう。

「アラブの春」をきっかけに、長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させようとするイスラーム主義だった。オスマン帝国崩壊後の「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは。その実像に迫る。

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この本では私たちがあまり知ることのないイスラーム主義、そして複雑極まる中東情勢を学ぶことができます。

この本について第一章の「イスラーム主義とは何か」で著書が次のように述べているのが印象的です。

今日では、イスラーム主義は「あるべき秩序」への脅威としてのみ、、認識されることが多い。二一世紀の不幸な幕開けとなったニ〇〇一年九月一一日のアメリカ同時多発テロ事件(以下9.11事件)は、イスラーム主義を安全保障上の脅威や治安取り締まりの対象へと押しやっていった。そして、ニ〇一一年の「アラブの春」後の「イスラーム国(IS)」の急速な台頭は、こうした傾向を加速させた。

イスラーム主義は、テロリズムと同一視されるだけでなく、民主主義、政教分離、男女同権、表現の自由といった現代世界の「普遍的価値」の敵と見なされることも少なくない。近年の日本においても、ニ〇一五年初頭に露見した「イスラーム国」による日本人誘拐脅迫殺害事件を機に、イスラーム主義とイスラームを区別することなくテロリズムと結びつけるような議論が散見されるようになった。

しかし、イスラーム主義を既に確立された「あるべき秩序」に対する脅威とする見方ばかりでは、私たちのイスラーム主義をめぐる理解をやせ細ったものにしてしまう。

岩波書店、末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』 P4-5

たしかに、9・11以後私たちのイスラームに対するイメージは変わってしまったように思えます。

ですが、単にイスラームを脅威や恐怖として見るだけではその姿を見誤ることになってしまいます。

言うまでもなく、イスラーム主義を信奉する人びとのすべてが潜在的なテロリストであるわけではない。また、彼ら彼女らのすべてが国家権力を目指しているわけではなく、逆に、国家権力を目指している運動や組織もテロリズムだけを行っているわけではない。

例えば、国家権力を志向しているかどうかについて見てみよう。イスラーム主義の思想としての黎明期には、権力闘争への意思はほとんど見られなかった。むしろ、ムスリム個人の内面における信仰の深化が重視され、それがいずれ社会や国家を良き/善きものにするという、漸進的な考え方が主流であった。(中略)

近代西洋との向き合い方も一様ではない。イデオロギーとしてのイスラーム主義の内実を見ると、近代西洋が生んだ思想や科学を神の被造物として積極的に受け入れていく場合もあれば、イスラームの教えに反するものとして拒絶する場合もある。「アラブの春」で民主政治へと参加したイスラーム主義者たちは、近代西洋が生んだ民主主義が現代世界における「普遍的価値」の一つとなっている現実を受け止め、自らが奉じるイスラームとどのように折り合いをつけていくのか試行錯誤を見せた。(中略)

本書では、こうしたイスラーム主義が織りなす複雑で豊かな現実を描き出していく。この現実を安易に捨象してしまうと、本来であれば避けられたはずの対立や憎しみを生みかねない。歴史を振り返ってみても、主観的で一方的な漠たる不安に後押しされた国家権力による過剰な治安取り締まりや弾圧が、イスラーム主義者を追い詰め、結果的に彼ら彼女らのなかから過激派を生み出すという事態を何度も引き起こしてきた。

思考停止は、負の連鎖を生み出す。イスラーム主義の多様性や変化に十分に目配りし、過激派やテロリズムの脅威に対しては「正しく恐れる」必要がある。

岩波書店、末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』 P5-7

イスラームはやはり普段私たちの生活ではなかなか触れることがありません。ですのでどうしてもニュースで目にする紛争やテロ事件がそのほとんどになってしまいます。

しかし、上で著者が述べているように、事はそんなに単純ではありません。

当たり前ですが皆が皆テロや暴力を認めているわけではありません。むしろ、イスラームの教えを信仰しているほとんどの人はそんな暴力など望んでいないのです。

ではなぜ、イスラーム過激派の組織はテロを正当化しジハード(聖戦)を掲げて戦い続けるのでしょうか。彼らが台頭してくる理由は何なのでしょうか。

そうした背景をこの本ではじっくり学ぶことができます。

イスラームの思想、教義と政治の結びつき、そして中東の人びとが置かれた状況を知るのにとてもありがたい1冊です。

当ブログでも嶋本隆光著『イスラーム革命の精神』やタミム・アンサーリー著『イスラームから見た「世界史」』など、これまでイスラームを知るためにおすすめな参考書を紹介してきましたが、現代のイスラーム世界を知る上でこの本はとてもおすすめです。

以上、「末近浩太『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』現代のイスラム教の流れを知るのにおすすめ」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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