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『オックスフォード 科学の肖像 メンデル』あらすじと感想~メンデルの法則で有名なチェコ・ブルノの修道士メンデルのおすすめ伝記!

メンデル
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『オックスフォード 科学の肖像 メンデル』概要と感想~メンデルの法則で有名なチェコ・ブルノの修道士メンデルのおすすめ伝記!

今回ご紹介するのは2008年に大月書店より発行されたエドワード・イーデルソン著、西田美緒子訳の『オックスフォード 科学の肖像 メンデル』です。

早速この本について見ていきましょう。

修道院の庭で植物の交配実験を行い「メンデルの法則」を導き出した修道士メンデル。遺伝学の基礎をなすその原理は、生前に評価されることはなかった。修道院長として生涯を終えた16年後に再発見され、新しい時代の幕を開いたメンデルの業績を、現在との関わりに触れながらいきいきと伝える評伝。

Amazon商品紹介ページより
グレゴール・ヨハン・メンデル(1822-1884)Wikipediaより

メンデルといえばエンドウマメの交配実験が有名ですよね。私もそんな「メンデルの法則」のイメージがあったものの、いざメンデルがどんな時代に生きてどのような生涯を送ったのかはほとんど何も知りませんでした。

まず驚いたのが彼が生きた時代です。

私はこれまでロシアの文豪ドストエフスキーについて学んできたのですが、なんと、メンデルはそのドストエフスキーの1歳下でした。

ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

亡くなった年もドストエフスキーの3年後という、ほぼ同じ時代を生きた人物だったのでした。

そしてさらに驚いたのがメンデルが活躍したのがチェコのブルノにある修道院だったということです。

メンデルが生きた当時、チェコはオーストリア帝国の一部でしたが、現在ではブルノはチェコの第二の都市として知られています。

私は2019年にチェコのプラハを訪れ、それ以来チェコの魅力に首ったけとなっています。

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そのチェコで活躍していたのがあのメンデルだったというのに私は心の底から驚いたのでありました。

この伝記の冒頭ではメンデルについて次のように語られています。

メンデルが明らかにした基本原理は、いまなお遺伝学の基礎をなしている。遺伝学はわたしたちの暮らしに深いかかわりをもつ科学で、クローンづくりや遺伝子操作だけでなく、医療活動にも大きな影響を与えている。ヨーロッパの片隅で生きた控えめなひとりの男が、だれにも知られることなく、ひそやかにニ〇世紀遺伝学への扉を開いていたのだ。

グレゴール・メンデルとは何ものだ?再発見のあとに世界中が問いはじめた。だが完璧な答はどこにもなかった。個人の持ち物だったノート類や書簡のほとんどは、たいした価値もないとして、後任の修道院長によって焼かれてしまった。しかもメンデルは自分を前面に押しだすタイプではなく、生涯の大半をすごした修道院での静かな生活がよく似あっていた。ある科学史家はこう言っている。「メンデルは冷静な人物だった。いちばんの関心事は具体的な事実であり、どんなことであれ、感傷的になることはほとんどなかった」。

だがブルノの町の人びとには生前の修道院での働きによって広く知られ、ニ〇世紀になっても数多くの知人たちが、さまざまな思い出を語った。科学者とやりとりした書簡ものこされていた。ときおり、グレゴール・メンデル本人が書いた、またはグレゴール・メンデルについて書かれた論文や手紙が見つかることがあり、それはいまなおつづいている。(中略)

メンデルの業績は現代までいっこうに色あせることなく、それにもとづいた研究があらゆる国でさかんに進められている。そして、グレゴール・メンデルが人として、科学者として生きた物語が、たくさんの若き科学者たちに新鮮な閃きを与えつづけている。

死から再発見までに長い時間がかかったために、すべてを知ることは不可能かもしれない。だがのこされた資料や知人たちが、科学者メンデルだけでなく、ひとりの人間としてのメンデルの姿をあざやかに描きだしてきた。そのメンデル像は、未来の世代に永く伝えられていくにちがいない。

大月書店、エドワード・イーデルソン、西田美緒子訳『オックスフォード 科学の肖像 メンデル』P5-10

ここで述べられましたように、メンデルは生前にその研究成果を発表するも、世界はその業績の真の意味に気づくことはなく、放置されることになってしまったのでした。

その放置について様々な要因がこの伝記で語られるのですが、そこにはメンデル自身の境遇や性格も大きな要因としてあったそうです。科学者としての自分の存在を世界にアピールするというより、ひとりの修道士としての務めを粛々と勤めあげていたということもありました。

メンデルのエンドウマメの実験や「メンデルの法則」という言葉は誰もが知る有名なものです。

ですがいざメンデル自身がどのような人物だったのかというのはある意味盲点でした。

この伝記を通してメンデルの生涯や当時の時代背景を知れたのはとても興味深かったです。これは面白い伝記です。

「オックスフォード 科学の肖像」シリーズはこれまでも当ブログで紹介してきましたが、このシリーズは本当に名著揃いです。

巻末にこのような紹介ページがありましたが、まさにその通り。

コンパクトな内容ながら、偉人たちの生涯と特徴、そして時代背景がわかりやすく説かれます。ぜひぜひおすすめしたい作品となっています。

以上、「『オックスフォード 科学の肖像 メンデル』メンデルの法則で有名なチェコ・ブルノの修道士メンデルのおすすめ伝記!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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