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末木文美士『増補 日蓮入門ー現世を撃つ思想』概要と感想~日蓮入門におすすめの参考書
今回ご紹介するのは2010年に筑摩書房より発行された末木文美士著『増補 日蓮入門ー現世を撃つ思想』です。
早速この本について見ていきましょう。
日蓮の思想は、近代日本において超国家主義者に信奉されるなど、時に危険なイデオロギーとも目されてきた。だが、実際の著作を読んでゆくと、真の日蓮は一筋縄ではゆかない、実に多面的な思想家であることに気付くだろう。政治権力に挑戦する闘う思想家、孤独で内省的な理論家、ユートピアを思い描く夢想家、おおらかな現実主義者など。魅力的なその人柄に触れつつ、『立正安国論』『三大秘法抄』などの遺文をひとつひとつ読み解き、多彩で奥深い思想世界を探る。ちくま新書版に増補をくわえて刊行する。
筑摩書房商品紹介ページより
波木井の御影(身延山久遠寺蔵)Wikipediaより
日蓮(1222-1282)は鎌倉時代を代表する僧侶のひとりで、日蓮宗の祖師として今も尊崇されている誰も知る傑僧です。
本書は日蓮の入門書としておすすめです。
本書ではまず日蓮が日本においてどのように受容されてきたのかが解説されます。特に日蓮思想は戦前、戦中に国家主義的な解釈が行われたことの反省から今度は戦後にその正反対の方向から解釈されるなど、時代思潮に大きな影響を受けていたそうです。この辺りの日蓮思想受容の流れもわかりやすく解説してくれるのが末木氏の参考書のありがたいところです。
そして本編では日蓮の生涯やその思想が一般読者向けにわかりやすく解説されます。
日蓮の独自性はどこにあるのか、また同時代の僧侶や権力者たちとどのように相対していたのかは非常に興味深いものがありました。
そしてそもそもですが、この日蓮の生涯や日蓮宗の流れを見ていく内にふと思ったこともありました。
鎌倉新仏教の祖師といえば法然、親鸞、栄西、道元、日蓮、一遍が有名ですが、日蓮以外の祖師が開いた宗派はそれぞれ浄土宗、浄土真宗、臨済宗、曹洞宗、時宗という名称ですが、日蓮においてはその名を冠した日蓮宗という名称になっています。日蓮宗はよく法華宗とも呼ばれますが一般的には日蓮宗と呼ばれることが多いのではないでしょうか。他の鎌倉仏教祖師たちももちろん絶大なカリスマ性を持った人物たちであったことは間違いありませんが、この日蓮に関しては特にその傾向が強かったのではないかというのが宗派の名称からして感じられたのでありました。
やはり日蓮の強烈なカリスマ、エネルギーには驚かざるをえません。本書はその入門書としてぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、「末木文美士『増補 日蓮入門ー現世を撃つ思想』概要と感想~日蓮入門におすすめの参考書」でした。
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日蓮入門 現世を撃つ思想 (ちくま学芸文庫)
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